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矢寺圭太 『ぽんこつポン子』 第1巻 : 当たり前の日常を共に

書評:矢寺圭太『ぽんこつポン子』第1巻(ビッグコミックス)

「承認欲求」という言葉は、ネット時代の重要なキーワードだ。誰もが広く発信できる時代だからこそ、自身の存在意義を広く認めて欲しいという欲望に多くの人がとらわれ、その歯止めがきかなくなった。
しかし、アイドルのような美貌や、オリンピック選手のような身体能力、あるいは、飛び抜けた知能といったものは、ごく限られた人のものであって、大半の人には、他人に誇示できるほどの何物も有りはしない。だからこそ、アピールしてもアピールしても満たされない、それが承認欲求であろう。

本作の主人公である、生活支援ロボットの、通称「ポン子」は、人の役に立ちたいと望む、けなげなロボットなのだか、残念ながら、生活支援ロボットとしては「ぽんこつ」で、これといった能力が無く、いつもドジばかり踏んでいる。

それでも、やがて彼女が「必要とされる存在」になっていくのは、彼女の思いが「人の役に立ちたい。その結果として、存在価値を認められたい」という点にあって「自分の存在価値を認められるために、人の役に立たねばならない」ということではないからではないだろうか。

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美貌や身体能力や知能といったものは、その「特性」自体に価値が認められるのであって、それがその人から失われれば、その人の存在価値もまた失われてしまう。
しかし、「その人の役に立ちたい」という「思い」は、「性能」が与えるものとは違った何か、時間が経っても失われない何かを、相手の中に生むのではないだろうか。

孤独な老人の中に残る「家族との思い出」も、何か具体的に「役に立つ」といったものではないけれど、しかしそれは間違いなく、かけがえのないものだろう。
そして、それと同じものを、老人に与えてくれたポン子にあるものとは、たぶん、殊更なものではなく、むしろ「当たり前の日常を共に生きる」という、そうした「愛」なのではないだろうか。

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【補記】

なお、本巻70ページの「ポン子名付け」のシーンで、ポン子の「………嫌だ。」という心内語が描かれているが、これは今後の展開の中で重要な伏線になってくるかも知れない。
というのも、ポン子にはすでに「心がある」ということを、ハッキリと示しているからである。

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初出:2019年8月7日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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