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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2023年5月の記事一覧

『昔からワインにはうるさいタチだって』

『昔からワインにはうるさいタチだって』

先週ハタチの誕生日を迎えた僕に

お祝いだと言って叔父さん夫妻が

自宅へ招いてくれたわけ

夫婦ともども気さくだから

僕は思春期のときでも厭うことなく

友達みたいな感覚で接していた

いつにもまして奮発して作っただろう

叔母さんの手料理はとても美味しくて

そして何より良かったのは

叔父さんこだわりのワイン

昔からワインにはうるさいタチだって

吹聴していたわけなんだけど

僕がハタチ

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『夏祭りの実行委員に立候補した』

『夏祭りの実行委員に立候補した』

夏祭りの実行委員に立候補した

謎のウイルスが猛威を奮って

去年まで夏祭りは中止続き

本来ならば3年生は

受験で忙しい身

実行委員も2年生がやるんだけど

僕はあえてここへ切り込む

ようやく高3のこの夏

僕は青春を謳歌するんだ

担任や親も心配しているけど

まったくもって勝手だよね

だったら僕のこと

第一志望へ推薦してくれれば

それで済むじゃないか

それで思いっきり

僕は夏

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『「ぜったい食べなきゃ!食べたらとろけちゃう」』

『「ぜったい食べなきゃ!食べたらとろけちゃう」』

「えN美ってまだ十里庵のたいやき食べたことないの?」

すごく驚かれて

「ぜったい食べなきゃ!食べたらとろけちゃう」

とろけるってよくわからないけど

「あ、それから、あんは絶対うぐいすあんね」

えぇ…

小倉あんとかカスタードとかじゃなくて

うぐいすあんなんだ…

けっきょく自分から

足を向けることはなかったけど

お昼休みに同僚とランチをして

その帰り道に十里庵に

寄ることになっ

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『バカ兄弟と控室』

『バカ兄弟と控室』

僕が控室で休憩していると

シフトでもないのに

バカ兄弟そろってやってきて

バカ兄弟はこの店で

かなりの古株

学校に通っていなくて

控室にしょっちゅう居るわけ

だからまぁそれは

珍しいことじゃないんだけど

きょうは兄弟そろって

神妙な顔つきで

犯罪で警察に捕まるなら

どんな罪がいいか

そんなことを真顔で僕に

問いかけてきたわけ

僕はまかない飯を食べ終わり

暇を持て余し

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『「あんまりうまそうだったからさ」』

『「あんまりうまそうだったからさ」』

ゲリラがあった

街が荒れた

陸続きの隣国へ流れんと

多くの人々が押し寄せる

ところがざんねん

この国境検問所は

5日も前から閉鎖されていて

政府のお達しなどではない

混乱による封鎖でもない

所長不在による

ビザの支給権限の凍結

不正に手続きをしようにも

肝心のスタンプを保管した金庫

その鍵は所長のみが持っていて

もっともこれは初めて話ではなく

いまの所長が赴任して早数

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『「いけないわ、いけない…こんなところで」』

『「いけないわ、いけない…こんなところで」』

「もう僕は我慢ができないよ」

「いけないわ、いけない…こんなところで」

「なにを言ってるんだ、こんなところだからいいんだ」

「だめよ、ゆりちゃんパパ」

「こんなときにその呼び方はやめてくれないかえりちゃんママ、いやアケミ」

「あぁんミツオさんたら…」

「やめやめやめやめやめぇ!!!!」

「やめってなんなんですか会長!」

「これを保護者会でやるんですかあなたがた!」

「えぇいけませ

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『同窓会とアイスとコーラ』

『同窓会とアイスとコーラ』

部活終わって帰ったら

めずらしくかーちゃんいなくて

あL1NEきてる

あそっかきょう同窓会つってたな

ごゆっくりって返して

都心の高級ホテルのカフェ行くって

帰り何かほしいものある?って

いや俺のこと気にしないでいいからって

あでもアイスとコーラほしいって

そしたらスタンプで了解ってきて

しばらく経ってまたかーちゃんから

旨そうな料理の写真

バイキングだって

めっちゃ裏山

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『「普段よりオフィスが騒がしくない?」』

『「普段よりオフィスが騒がしくない?」』

「へぇそうなんだ、じゃあ頑張ってね」

「終電も危ういから、先に寝てて」

背後から別の電話が鳴る音がする

忙しくフロアを駆ける人がいる

「わかったごくろうさま」

「じゃあ」

何を言っているか聞き取れないが

誰かが誰かに罵声を浴びせている

妻との会話はそこで切って

隣で息をひそめて

静かにしてくれていた同僚に感謝

何やら業務連絡風のアドリブを

かましてくれた上司に最敬礼

注文

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『かけてもらう言葉は』

『かけてもらう言葉は』

ベルトコンベアから流れてきて

目の前のコンテナのなかに落ちたら

それを拾って

20個単位で別のコンテナに整列

出荷係のほうへ台車で持って行く

そんなアルバイトをしている

きょう流れてきているのは

レトルトの親子丼

きのうはカレーだった

勤め先が倒産して失業して

ろくな技術や資格もなくて

独り身だからどうとでもなるけど

この仕事を選んだのは

時給が割といいうえに

食品工場

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『唄う猫が通勤路におりまして』

『唄う猫が通勤路におりまして』

唄う猫が通勤路におりまして

最初の出会いは

わたしが残業で遅くなった金曜の晩

くたくたに疲れて

駅から自宅に歩いているところを

ブロック塀のうえで丸まった

白い猫がハミングをしていて

ただうっすらと聴こえるその歌詞は

あきらかに人間のことば

他に人の気配はないから

間違いなくあの白猫が唄っていたの

あくる週

またわたしが疲れてしまって

とぼとぼ歩いていると

聞き覚えのあ

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『お父さんとお母さんは責任を感じて』

『お父さんとお母さんは責任を感じて』

ハチノさんというおじさんがいて

わたしの小さい頃は

毎日のようにうちへ来て

晩御飯を食べていたりして

わたしはお酌をさせられたり

肩叩きをさせられたり

良い気分ではないけど

特段悪い気分でもなかった

それでも今考えたら

なんだか奇妙で

両親がともに

ハチノさんに対して常に

へこへことしていることも

すごく不思議だった

ハチノさんはたまに酔っ払って

お母さんに暴言を吐い

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『「あら英夫ちゃん、良かったわね」』

『「あら英夫ちゃん、良かったわね」』

「ママ、僕やったよ」

「あら英夫ちゃん、良かったわね」

「ママ、僕の起案した企画が通りそうなんだ」

「あら英夫ちゃん、それは素晴らしいことよ」

「ママ、僕は立派な公務員だよ」

「あら英夫ちゃん、そのとおりね、ママ誇らしいわよ」

「ママ、僕を東大に行かせてくれてありがとう」

「あら英夫ちゃん、それはあなたが頑張ったからよ」

「ママ、僕がきょう着ていくシャツがないよ」

「あら英夫ちゃ

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『そういったわけで、蜜絵(@anhoriian)さんは自ら絶命してしまったんです。』

『そういったわけで、蜜絵(@anhoriian)さんは自ら絶命してしまったんです。』

かず(@imanch)さんから

突然告げられた

ショッキングな内容に

わたしは頭が真っ白になって

絶望の断崖があるとしたら

わたしはその際まで

一気に追いやられた気分

そして容赦なく

突き落とされた気がして

わたしはログアウト

というか

ありえないんだけど

コンセントプラグを

力任せに引き抜いて

それからそのまま

ケーブルを首に巻いて

端の方を残したまま

部屋の外

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『カカァはなんだか困惑しててな』

『カカァはなんだか困惑しててな』

真夜中によ

裏の勝手口のほうがよ

うるせえと思ってさ

こっちはぐーすか寝てるわけでさ

つってもまぁこんな時分だったらよ

狸の集団が降りてきたかな

なんつって

のんきに構えてたらよ

扉をドンドンとよ

叩く音がするからよ

カカァはなんだか困惑しててな

だから寝床のよ

内側をつっかえ棒して

そいからガキらはよ

布団でぐるぐる巻きにして

ぜってぇに守るからっつって

んでおい

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