『昔からワインにはうるさいタチだって』

先週ハタチの誕生日を迎えた僕に

お祝いだと言って叔父さん夫妻が

自宅へ招いてくれたわけ

夫婦ともども気さくだから

僕は思春期のときでも厭うことなく

友達みたいな感覚で接していた

いつにもまして奮発して作っただろう

叔母さんの手料理はとても美味しくて

そして何より良かったのは

叔父さんこだわりのワイン

昔からワインにはうるさいタチだって

吹聴していたわけなんだけど

僕がハタチになるのに合わせて

最高のブツを飲ませてやるって

ずうっと意気込んでくれていたわけ

どうやら僕の生まれた年の

生まれた月に仕込まれた逸品らしい

叔母さんのローストチキンが焼きあがる

それに合わせて叔父さんが

ワインを開栓してくれて

僕はワインのことは

よく分からないけど

目の前に注がれる赤い液体が

とっても特別で

とっても贅沢だってことは感じられる

叔母さんが取り分けてくれた

ローストチキンを

熱いうちにいただく

皮がカリカリしていて

肉がジューシーで

とっても美味しい

叔父さんが注いでくれたワインを

ひとくち含む

ツンとしたアルコールには慣れないけど

そのなかに濃厚なオトナの風味を感じられて

とっても幸せだ

どうだ最高だろうって

叔父さんが問いかけてくる

最高だよありがとうって

僕は答える

叔父さんはにっこり笑って

おめでとうと僕の手を握って

叔母さんはその光景を

にこにこと眺めて

--

その叔父さんが捕まったって

警察に逮捕されたって

あの贅沢な宴からしばらくして

母から聞かされた意外なしらせ

どうやらあのワインは

叔父さんが自宅で作っていた密造酒

休日のたびに

ワイナリーを訪れては

醸造の勉強をして

設備をＤＩＹで作って

研究に研究を重ねて

ようやく完成したのが

僕に飲ませてくれた

２０年物のワインだったそう

なんだか哀しい結果に

なってしまったね

ありがとう叔父さん

ごめんね叔父さん

こんどはちゃんと免許を取って

ワインを作ろうね

だから今回は執行猶予だといいねって

心から願ってる