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慎吾ちゃん vs ニッキ 資質対比

前回の記事に的確秀逸かつ温かいコメントをいただいていて感動したお正月明け。本当に、そこに書かれていたことが全て。

「慎吾ちゃんのダンスは教えられたものじゃないから、アップされてる映像のダンスパターンがすべて違う。うわ! ここでこうクる! と見るたびに感動を覚えます。」 Kさん

正にそれなんですよね、私が一番感じていたことは。振付家に付けられたダンスだったらこのタイミングでこう動くことはないだろう、というところでクる独自の身のこなし。体の内側から湧いてくる思いのまま何かに従うことなく躍動。自身で曲のプロデュースをしたからこそできる空間の支配。例えると、自分の世界で曲とダンスを完全に治めている国王という感じ。ちなみにジャニーズのトシちゃん少年隊は、主君である作曲家や振付家の世界を忠実に描く騎士という感じです。

「慎吾さんから、とにかくブレイクダンスが踊りたい!という強いリクエストをもらい、この曲を書きました。」  福島邦子 「北米報知」 2019/8/25

歌にハイレベルなダンスパフォーマンスを取り入れるのが、僕らの個性だと考えた。 東山紀之 『カワサキ・キッド』 2010年

さすがにこれは昭和の鑑賞眼では分からず、大人になって享受できた21世紀のネット動画文化のおかげ。彼は早すぎた天才でした。

☆彡

ダンス系ソロの括りでということでトシちゃん vs 慎吾ちゃんで始め、ソロということで慎吾ちゃん vs 晃司クンで広島括り、慎吾ちゃん vs マッチを試みたら成り立たず慎吾ちゃん vs ジャニーズに、晃司クン vs トシちゃん or マッチをしようと思ったらネタ不足。なのでついに括りを外し、少年隊の主軸ニッキについて、慎吾ちゃんとの併せで書きたいと思います。

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magazine h  1984

本来、ソロとグループのいち構成員を比べるのはアンフェアなのですが。

ニッキについては、過去の記事「全てが最も高度に揃っていたアイドル」「少年隊のダンス 昭和の鑑賞眼」でも既に書いています。少年隊からの対抗意識については、「ジャニーズ vs 路上系 火花バチバチ」「ジャニーズ → 慎吾ちゃん 続くバチバチ」。

■経歴
風見/ 田舎育ち。中高と超進学校に通うも勉強も部活もせずに遊びまわる。大学進学のため上京。ホコ天でローラーした後、渋谷で哀川翔や野々村真らと劇男零心会で活動。ダンスのレッスンは受けたことがない。芸能界に入る前からストリートで自主的に踊っていた
錦織/ 都会育ち。小学六年からジャニーズに通いレッスンを受ける。定時制高校に通いながらマッチのバックなどで踊る。ダンスのレッスンのため年に数回渡米させられる。芸能事務所に入ってからステージやテレビで仕事として踊り始めた

■師匠
風見/ 萩本欽一 素人としてしごき、芝居に厳しいダメ出し。「こんにちは」だけで1時間半、具体的な指導なし。「聞いちゃダメ」
錦織/ ジャニー喜多川 プロとして莫大な養成費をかけ、英才教育を施す。ダンスに厳しいダメ出し、一流の指導者や振付家を用意、ニューヨークでは1日8時間ものレッスンを受けさせる。

「踊りなんかヘタでいいから、とにかく汗をかくんだ!」「気を入れてやっていればお客は絶対に分かってくれるし、それは5年後10年後に花が咲き実になるんだ!」 

「(少年隊の歌や踊りに対し)へったくそだなあ!」「デビュー曲は絶対に1位を取らなきゃいけない。100万枚売るんだ!」

■師匠が初めて掛けてきた言葉
風見/ 稽古でお茶を出すシーンを見て「キミ、最悪だね」 
錦織/ ダンスレッスンでの動きを見て「ユー、天才だね」 

■デビュー、歌手活動
風見/ 欽ちゃん番組のオーディションになぜか受かり82年コントでデビュー。83年不本意ながらも僕笑っちゃいます』をリリースするといきなり大ヒット。85年まで6曲リリースするが、その後ぱったりと出さなくなりメジャーシーンでは歌わなくなる
錦織/ バックダンサーをしながら、82年ごろからTBS「パリンコ学園」などアイドル系番組や歌番組に「ジャニーズ少年隊」として出演する。並行してダンスレッスンやステージ鑑賞などのため頻繁に渡米。85年末になってやっと『仮面舞踏会』で念願のレコードデビューをし、大ヒット。80年代後半を中心に長く活動。

■ルックス
たのきんと違い鼻筋が通ってて、ふたりともキレイな顔
風見/ あっさり可愛い少年っ気イケメン
錦織/ 甘さを帯びた大人っぽいハンサム

身長も踊るのにちょうどいい。あまり高いとキビキビ感がなくなるので。慎吾ちゃんの背丈はブレイクダンスには理想的。俳優としては低いけど。

■歌唱力
風見/ 声が歌手向きではない上、レッスンを受けたことがないため音程が不安定。独唱ゆえに踊ると息があがるが、声が大きく発声の力強さはある。
錦織/ 美声でメンバーの中で最も上手く重要なソロパートを担う。正統的で無難な歌唱かつ声に特徴がないため、他二人との違いがあまり際立たない。

■ダンスの動機
風見/ 子どものころから踊りが好きで、高校生のときから路上で踊ってみたりディスコに行ったりしていた。元々、芸能界に入る気も仕事として踊る気もなかった。
錦織/ ジャニーズ事務所を訪れレッスンを受けてみると踊りに向いていそうなので、本格的に取り組むことになった。それまで自ら踊ろうと思ったことはなく、仕事として踊り始めた。

「まったく素人感覚でやっているんですよ、自分たち。仲間とヘタでもいい、スポーツ感覚で…、不思議ですね」

「ジャニーズのレッスンを受けるまで、ダンスなんてやったことなかった」「ダンスも歌も、すべて仕事としてやっていた」

■ダンスの習得
風見/ レッスンを受けたことはなく、踊りは自己流。原宿ホコ天のツイストコンテストで優勝。零心会時代に振付師の川崎悦子、デビュー曲に土居甫から振りを付けられたが、ダンスそのものは教わっておらず。芸能界入り後、コンサートで踊るためマイケル・ジャクソンやダンス映画のビデオを観て独り自室で練習萩本欽一に逆らってブレイクダンスを新曲へ導入。バックダンサーとの練習には、専用スタジオがないため、テレビ局の空き部屋を借りたり営業終了後のディスコを使わせてもらったり。バックダンサーの分のディスコ代も自腹を切る。
錦織/ 小学時からジャニーズ事務所のレッスンに通い、ダンスの基礎を学びながら所属タレントのバックダンサーとして踊る。少年隊結成後、西条満や小井戸秀宅、名倉加代子、ボビー吉野、坂見誠二など日本を代表する一流ダンス講師たちから指導を受け、振りを付けてもらう。ジャニー喜多川の方針で、デビュー前からレッスンのため頻繁にロスやニューヨークへ連れて行ってもらう。何百万円もの費用をかけてもらい、マイケル・ジャクソンの振付師マイケル・ピータースの指導を受ける。

「“踊って歌うの10年早い” って大将に言われていた」「振り付けは先生につかずに自分達で試行錯誤、映画を観たりして一生懸命考えた」

「マイケル・ピータースの指導では、彼と同じような雰囲気で踊らないと怒られる」「ボビーさんの振り付けはタメる間もないほど動きがいっぱい」

■ダンスの資質
風見/ 少年的、バネと軽さによる躍動感、身体能力が特出、特徴のあるおもしろい存在、弾けてはみ出している、権威に逆らう邪道、誰の指示も受けない「一国一城の主」のダンス、ベンチャー企業の若手オーナー社長的な踊り、「そのときの感覚しだい」の踊り、野生の天然、本質のダンス。
錦織/ 紳士的、ステージに必須のエレガンス全要素が平均的に上級、優等生パフォーマー、きちんと収まっている、権威に従う王道、一流講師の指示に応える「忠実な臣下」のダンス、大企業のエリートサラリーマン的な踊り、「予め決められている」踊り、名門の養成、品質のダンス。 

風見/ free, original, individual, independent, unfettered, unconstrained, overflowing, voluntary, autonomous, emergent, unique, singular, uncharted, ingenious, innovative, maverick, unconventional, extraordinary, intrinsic, endogenous, dedicated, outrageous, stimulating, inspiring, breathtaking, intellectual, daring, devastating, illuminative, civilized, bouncy, earnest, venturous, courteous, dynamic, mechanical, crisp, bold, sincere, sublimed, extreme, distinctive, considerate, buoyant, intelligent, resilient, elastic, explosive, vigorous, struggling, blasting, unhesitating, exceptional, disruptive
錦織/ trained, instructed, directed, aligned, disciplined, organized, under control, ordered, quality, unified, established, universal, regular, orthodox, amenable, fostered, obedient, adaptable, elite, extrinsic, exogenous, methodical, proficient, smooth, mature, measured, skilled, adept, splendid, showy, flamboyant, enchanting, fabulous, refined, fascinating, brilliant, lithe, ideal, loyal, allegiant, synchronized, systematic, governed, precise, dramatic, assured, graceful, excellent, elegant

ダンスにおいて、この二人は正に天才型。柔らかさとセンスは天性のもの。ちなみに、トシちゃんヒガシは努力型。

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shueisha  1985

■ダンスの意義と実績
風見/ 「自身そのもの」に基づいた自己表現や意思伝達のための踊り、人々に踊りの楽しさを伝えるために踊る。一瞬にして大衆の心を掴んだ
錦織/ 原則や緻密な振り付けに基づいた上質のダンスを見せるための踊り、自分たちを格好良く見せようとして踊る。長年に渡りファンを楽しませた。

自慢げにすごいことを見せるよりも、簡単でもみんなで踊ればこんなに楽しいんだよ、っていうのをわかってほしいんです。」

「(一世風靡セピアや風見慎吾に負けないように)格好良く見せようとか、そういう気持ちはあった。」  錦織による対抗心発言に続いての植草の談

■ダンスにおける師匠との位置
風見/ 大将の教えという土台の上で踊る。「汗をかけ!」「やってみたら」素人として挑戦することを求められる。
錦織/ ジャニーさんの教えという理想の中で踊る。「練習しろ、練習しろ」プロとしてこなすことを求められる。

「ボクは初めて大将にさからった。“やりたいことがあるんです、やらせてください”って。」

「少年隊のリーダーはジャニーさんだと思っていました。だからすべてジャニーさんの意向で、僕らもそれに文句も言わずにやってきた。」

■楽曲制作
風見/ ブレイクダンスの曲は自身のプロデュース。2枚目のアルバム作りでは、求めるサウンドを制作側から提供してもらえそうにないため、数か月かけて自身でサウンドサンプルの収集を行い、ディレクターに音作りの要望を伝える。それがあまりに多く細かいため、うるさがられることも。自ら数曲を作詞。
錦織/ デビュー曲や二曲目の印象的なスキャットを提案。ジャニー氏のイニシアティブで常に一流の作曲家による数十曲のリリース候補曲に恵まれ、アイディアや要望も歓迎される。予定されていた世界発売のアルバムでは、世界や米国で一位の実績を持つリチャード・ラドルフ、マイケル・センベロにプロデュースしてもらう。

■英語力 
風見/ 苦手科目だが、大学受験のために仕方なく語彙文法を勉強。英会話を習ってないので現地でネイティブ風の受け答えが出来ず会話教育の必要性を実感するが、基礎英語を駆使し意思疎通は可能。ニューヨークのナイトクラブに通うため、しばしば単身で渡米する。
錦織/ アメリカでのデビューを前提に、英会話の猛特訓を受けさせられる。自己紹介は流暢にこなせるが、中学のときあまり勉強していなかったので、言いたいことを通じさせることができず、基礎文法の重要性を痛感。英語の壁に突き当たり、渡米に気が進まなくなる

「英語といえば、高3の春 - “先生、ボク大学行きます” “そうか。だがおまえの英語は中学生レベルだ。まず単語をたくさん覚えることだね”」

「中学校ぐらいの英語でも、しっかりとやっとけばね、なんとか通じさせることができるんですけれども、やっぱり中学のときはね、あんまり一生懸命やってなかったんで、今すごい後悔してるんですよね。」

■互いへの意識
風見/ 「笑い」を武器にしようと思っていたのでジャニーズへの対抗心はなく、むしろ踊りをリスペクトしていて仲良くなりたかったのに近寄れず。
錦織/ 風見や一世風靡セピアに対抗心を持っていた。(特にヒガシはもの凄いライバル心を持っており、口を利かないどころか挨拶もしなかった。)

「いまの日本の歌手で本当にリズムにのって歌って踊ってるなと思うのは、トシちゃんと少年隊。」

「夜のヒットスタジオで、一世風靡セピアとか風見慎吾君も踊ったり、そういうのがあるとやっぱりみんなで戦ってた。」

■幼少期、少年期
風見/ 地方の自営業の家庭で、比較的裕福。通知表は常にオール5で児童会長。超難関の中高一貫エリート男子校に合格。体操部ではないのに大会に助っ人として引っ張り出され入賞。それでも自身を運動神経が特に良いとは思っていなかった。団体活動に向いていないので野球は苦手
錦織/ 東京の下町育ち。ブルーカラー家庭で経済的余裕は無し。幼いころ体はあまり丈夫ではなかった。小学時から機械体操を習い、少年野球やバスケにいそしむ。勉強はあまりしなかったが、6年生のときに念願の学級委員長に。運動神経に自信があり、将来は体育の先生になろうと思っていた。

「あなたのお行儀のいいのも全部お母様が教えてくださったそうですから」
黒柳徹子

「僕がびっくりしたのは君の行儀の悪さだね。下町育ちということもあってざっくばらんな性格はとてもいいなと」 植木等

■思春期
風見/ 一流の学業環境に居ながらもディスコで踊ったり女の子とデートしたりと遊びまくった。それがダンスのポテンシャルになっている。
錦織/ 小学六年からジャニーズのレッスンに通い芸能界で仕事をしていたので「思春期はなかった」。それがダンスのクオリティになっている。

■受験期
風見/ 受験勉強もろくにせずインベーダーゲームをしにゲームセンターに通い、お好み焼きをよく食べに行っていたが、都内某大学工学部に受かった。
錦織/ 受験勉強もろくにせずインベーダーゲームをしにゲームセンターに通い、お好み焼きをよく食べに行っていたが、某都立高校に受かった。

■音楽嗜好
風見/ パンクで音楽に目覚める。セックス・ピストルズとボウイの大ファンで、ロンドン志向
錦織/ ボサノバの神様、アントニオ・カルロス・ジョビンなど南米のサウンドで心身を癒す。

■ファッション
風見/ 高校時代からロンドン風の服やヘアスタイルに凝っており、上京してからはローラーファッションでキメキメ。芸能人になると部屋は服だらけ、コンサートではギンギンのメイク。ダンス曲の衣装デザイナーは自分で探し一緒に製作。新興ブランドにも敏感、ジャージにもこだわり有り。
錦織/ 服は先輩たちからもらえるのであまり買わない。強いこだわりなし。その方が男らしいと思っていた。Tシャツにリーバイス。気楽なジャージ。キラキラの衣装は嫌だった。

■色気
風見/ 全くない。艶っぽさ皆無。童顔のまま大人になってしまった。
錦織/ 色気の権化。デビューしてすぐに顔が大人になってしまった。

■夢
風見/ 映画や舞台作品を作ること。自分のやりたいようにやりたい。
錦織/ 映画や舞台作品を作ること。自分のやりたいようにやりたい。

■ポストアイドル期
風見/ 20代半ばでさっさと大手事務所を退所し独立改名
錦織/ 50代半ばまでジャニーズ事務所に在籍。「辞めるのが遅すぎた」 長年グループの活動をしてなくても退所しても、グループ名がある。

☆彡

異なっている要素を分かりやすく言えばダンス教育を受けたかどうか、つまり、踊りの本質として内発性か外発性かが決定的と言えます。踊る目的も違う。そもそもソロとグループ構成員なので比べること自体が不毛ですが。

しかしながら、両者とも映画や海外カルチャーに詳しい、ブルース・リーに憧れていたなど、センスの面では共通点があります。

さらに二人に共通するのは、作り手としての才能を持っていたことでした。

                      長くなるので、つづく