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意志を持つピアノ「名器ベヒシュタインピアノと語らうコンサート」
「名器ベヒシュタインと語らうコンサートシリーズ 太田太郎サロンコンサート」を聴いてきた。
演奏したピアノは、ドイツ・ワイマールのリストハウスにあるモデルと同じと思われる、1880年製I-270。
ピアノパッサージュで、丁寧にメンテナンスされた平行弦のフルコンサートピアノ。
平行弦は交差弦と比べ音が混じらない。その分低音弦が短いが、このピアノはずしりと重厚な音を響かせた。
一言でいうと、「なんだコ
おはなしトレイン「傷だらけのヒーロー」
階段をかけ上がった元太は、自分の部屋のドアをバーンと力まかせに閉めた。天井を見あげた口はへの字にまがり、にぎりこぶしがプルプルふるえている。
ドアの外から、少しイラついたママの声が聞こえた。
「だってしかたないじゃない。もも熱があるんだから」
「わかってるよ」
妹のももが風邪をひいた。そんなときに遊園地に行けないことくらい、元太だってわかっている。
だけど元太は、遊園地でやっているヒーロー
【珈琲のある風景エッセイコンテスト入選作品】珈琲とアップルパイ
ずっと気になっている珈琲店があった。美術館の帰り道、外は暗くなり始めていたが、少し足を延ばして立ち寄ってみることにした。
店内は明るく穏やかだが活気がある。入口で迷っていると、スタッフに導かれそのままカウンター近くのテーブル席に座った。
魅力的なストレート珈琲に目移りしながら、オリジナルブレンドとアップルパイを注文。カウンターの中で、一杯ずつドリップするたび香りが立つ。運ばれてきた珈琲をひと
【ショートショート】 メトロノーム(性格の違うふたりの男 2人目)
全く同じストーリーが2本、性格の違うふたりの男の2人目のお話。
どちらが好みか、♡で教えてもらえると嬉しい。
適度な暗さと湿気のある半地下の部屋、壁とタンスのすきまが私のねぐら。たまに男がやって来る以外、人はいないから自由に動き回ることもできる。なーに男が来たって問題ない。決まってあっちの壁にくっつけてあるピアノを弾いて、また出て行く。その間、タンスの裏に隠れていればいいのだから。ここはなかなか
【ショートショート】 メトロノーム(性格の違うふたりの男 1人目)
全く同じストーリーが2本、性格の違うふたりの男の1人目のお話。
どちらが好みか、♡で教えてもらえると嬉しい。
適度な暗さと湿気のある半地下の部屋、壁とタンスのすきまが私のねぐら。たまに男がやって来る以外、人はいないから自由に動き回ることもできる。なーに男が来たって問題ない。決まってあっちにくっつけてあるピアノを弾いて、また出て行く。その間、タンスの裏に隠れていればいいのだから。ここはなかなか居心
エドワード・ゴーリーはなぜ不幸な子どもばかり描くのか?【展覧会】エドワード・ゴーリーを巡る旅
渋谷区立松濤美術館で「エドワード・ゴーリーを巡る旅」展が開催されている(2023年4月8日〜6月11日。2025年度まで巡回予定)。
エドワード・ゴーリーといえば絵本作家だが展覧会場で子どもの姿はほぼ見ない。
ゴーリーが描く子どものほとんどは、救いのない最期を迎える。
最初は大人でも快く思わず、おぞましくさえ感じ、関わりたくないと顔を背ける人もいるかもしれない。まして、子どもに積極的に見せたいと思
日本児童文学 2023年 1.2月号
日本児童文学 2023年1.2月号
創作特集 やめる? やめない?
やめる、やめないの二者択一のあいだにある行き先の可能性に思いをめぐらしたお話が集まっています。
その中で、掌編を書かせていただきました。
タイトルは「芸人引退します⁉︎」
芸人を目指す中学生男子のお話、ぜんぜん重い話ではありません。
どこかでお読み頂けたら幸いです。
【2000字のホラー】通りゃんせ
学友の凛さんと旅に出かけた時のことでございます。宿でのんびりしておりますと、観光案内を見ていた凛さんが目を輝かせました。
「ねえ七緒、夕食まで時間あるし、天神様に行ってみない?」
最近御朱印を集め始めた凛さんは、時間があれば天神様などを巡っております。
私はいつものように、鈴のついたポシェットを肩に掛けました。「この鈴をいつも持っているのですよ。出かけるときは決して忘れてはなりませぬ」と、お
【紀行】温泉地ゆふいんの魅力
私用で大分に行き、せっかくなのでゆふいんまで足を延ばした。
ゆふいんラックホールのコンサート
訪れた日、昨年(2021年)完成した「ゆふいんラックホール」で湯布院町民でもある小林道夫先生が出演するコンサートがあった。
ゆふいんには、1975年の大分県中部地震が発生した年、由布院が元気であることを全国に発信したことがきっかけで始まった音楽祭があるが、「ゆふいんラックホール」は、そんな皆さん
【絵とSS】絵は動いている ― 伝書鳩 ―
伝書鳩
新聞社の取材合戦の花形と言えば伝書鳩、そんな風に言われていたのは何年前だろう。社屋の屋上ではまだ伝書鳩を飼っていたが、出番がなくなってもう十年以上経つ。鳥栖が入社した新聞社でも、伝書鳩を手放す話が進んでいた。
鳥栖が昼食を取って新聞社に戻る途中、急に雨が降ってきた。雨宿りをする時間などなく、鳥栖は小走りに駆け出した。
路上の先の方で、絵を売っていた老人が慌てて店じまいをしている