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児童文学、絵本テキスト、ショートショート、エッセイなど、短編の創作をしています。 小学生朝読向アンソロジーや冊子のコーナーに参加。 猫好き。 他に、童謡やクラシック音楽をメインに使った朗読脚本を書きます。 ランチュウ会アカウントでも書いています。

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【エッセイ】たかがペットされどペット

 ペットを飼うと決めた時から、いつか来る別れは覚悟しなくてはならない。  雄猫、雑種。呼称キキ。病死。15歳だった。 マーボとミー  子どもの頃、田舎の家では猫だけでなく、犬、うさぎ、にわとりなど、人間も含めて色々な生物と暮らしていた。犬は親の趣味だったが、猫は私たち姉妹が小学校の帰り道、捨て猫を拾っては飼っていた。  家のすぐ前には国道が走り、飼っていた猫はたいてい交通事故で命を落とした。母は、猫の死体を子どもの私たちに見せないように、「畑の隅に埋めておいたから」とだけ

    • 【珈琲のある風景エッセイコンテスト入選作品】珈琲とアップルパイ

       ずっと気になっている珈琲店があった。美術館の帰り道、外は暗くなり始めていたが、少し足を延ばして立ち寄ってみることにした。  店内は明るく穏やかだが活気がある。入口で迷っていると、スタッフに導かれそのままカウンター近くのテーブル席に座った。  魅力的なストレート珈琲に目移りしながら、オリジナルブレンドとアップルパイを注文。カウンターの中で、一杯ずつドリップするたび香りが立つ。運ばれてきた珈琲をひと口飲んだ。ところが思ったほどピンとこない。期待しすぎたのだろうか?飲みやすいのだ

      • 【エッセイ】『周防錦帯橋』

         東京新橋の駅前広場を通りかかると、古本市をやっていた。急ぐ訳でもなくふらふらと見て歩きながら、年代物の絵葉書がたくさんある店で足を止めた。  花や女の子が描かれた絵葉書に紛れ、右から左へ『周防錦帯橋|』と印刷された文字が見える。十枚組の写真絵葉書だった。明治か大正時代だろうか? 周りの景色は違うが、写真の中の錦帯橋は五連のアーチを描き、今も岩国城の麓を流れる錦川にかかった錦帯橋と、変わらない姿をしていた。  写真絵葉書に切り取られた人々は、着物を着てゆったりと錦帯橋を渡っ

        • 【ショートショート】 メトロノーム(性格の違うふたりの男 2人目)

          全く同じストーリーが2本、性格の違うふたりの男の2人目のお話。 どちらが好みか、♡で教えてもらえると嬉しい。 適度な暗さと湿気のある半地下の部屋、壁とタンスのすきまが私のねぐら。たまに男がやって来る以外、人はいないから自由に動き回ることもできる。なーに男が来たって問題ない。決まってあっちの壁にくっつけてあるピアノを弾いて、また出て行く。その間、タンスの裏に隠れていればいいのだから。ここはなかなか居心地がいい。 はん、男がやって来た。私はいつものように壁とタンスのすきまに身

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        【エッセイ】たかがペットされどペット

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          【ショートショート】 メトロノーム(性格の違うふたりの男 1人目)

          全く同じストーリーが2本、性格の違うふたりの男の1人目のお話。 どちらが好みか、♡で教えてもらえると嬉しい。 適度な暗さと湿気のある半地下の部屋、壁とタンスのすきまが私のねぐら。たまに男がやって来る以外、人はいないから自由に動き回ることもできる。なーに男が来たって問題ない。決まってあっちにくっつけてあるピアノを弾いて、また出て行く。その間、タンスの裏に隠れていればいいのだから。ここはなかなか居心地がいい。 はん、男がやって来た。私はいつものように壁とタンスのすきまに身をひ

          【ショートショート】 メトロノーム(性格の違うふたりの男 1人目)

          【童謡】わかるかな

          児童文学総合誌 「日本児童文学 2023年11.12月号」 特集 クリスマスをよむ クリスマスをうたう詩歌募集で、入選作の童謡「わかるかな」を掲載いただいています。 その詩を、ステキな仲間たちが曲にしてくれました。 作曲は、幼児教育の経験を持つ児童文学作家の田部智子さん。 歌唱は、ミュージカルなど舞台で活躍する小谷悠実さん。 編曲、ピアノ伴奏は、ピアニストの阿部仁哉さん。 2023年のクリスマスは過ぎてしまいましたが、聞いていただけると嬉しいです。

          【童謡】わかるかな

          エドワード・ゴーリーはなぜ不幸な子どもばかり描くのか?【展覧会】エドワード・ゴーリーを巡る旅

          渋谷区立松濤美術館で「エドワード・ゴーリーを巡る旅」展が開催されている(2023年4月8日〜6月11日。2025年度まで巡回予定)。 エドワード・ゴーリーといえば絵本作家だが展覧会場で子どもの姿はほぼ見ない。 ゴーリーが描く子どものほとんどは、救いのない最期を迎える。 最初は大人でも快く思わず、おぞましくさえ感じ、関わりたくないと顔を背ける人もいるかもしれない。まして、子どもに積極的に見せたいと思う人はどれくらいいるだろうか? 2021年ゴーリーハウスの展示冊子の中で、グレゴ

          エドワード・ゴーリーはなぜ不幸な子どもばかり描くのか?【展覧会】エドワード・ゴーリーを巡る旅

          本好きなら見て!【映画】丘の上の本屋さん

          イタリアの村で小さな古本屋を営む年配男性リベロが、店を訪れる人たちに接客をする、 それだけの話。 本を読んだ訳ではなく映画を見たのだけど、読後感がとても気持ちいいというのがいちばんしっくりくる。 しかも、見終わった直後より時間が経つほどじわじわくる。 移民の少年エシエン、 隣のカフェで働く青年ニコラ、 ゴミ箱に捨てられていた日記を持ち込むボシャン、 収集家、神父など個性的な訪問客たち。 リベロがそれぞれに手渡す本は、有名なものからマニアックなものまで、本好きならわくわくす

          本好きなら見て!【映画】丘の上の本屋さん

          エゴン・シーレ展

          東京都美術館で開催中(2023年1月26日〜4月9日)のレオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウイーンが生んだ若き天才 19世紀末、スペイン風邪に罹り28歳で生涯を閉じた画家。 画家の多くは、年齢と共に作風の変容がみられるが、シーレにもはっきりとみることができる。 ただ、28年という短期間で、数十年の変化が起きているようだった。 最も強烈なエネルギーを放つのは、20〜21歳の頃。わずかな間にどんどん絵も変化していく。 周りの環境にも影響を受け、出会う人から吸収するスピードもは

          エゴン・シーレ展

          日本児童文学 2023年 1.2月号

          日本児童文学 2023年1.2月号 創作特集 やめる? やめない? やめる、やめないの二者択一のあいだにある行き先の可能性に思いをめぐらしたお話が集まっています。 その中で、掌編を書かせていただきました。 タイトルは「芸人引退します⁉︎」 芸人を目指す中学生男子のお話、ぜんぜん重い話ではありません。 どこかでお読み頂けたら幸いです。

          日本児童文学 2023年 1.2月号

          【2000字のホラー】通りゃんせ

           学友の凛さんと旅に出かけた時のことでございます。宿でのんびりしておりますと、観光案内を見ていた凛さんが目を輝かせました。 「ねえ七緒、夕食まで時間あるし、天神様に行ってみない?」  最近御朱印を集め始めた凛さんは、時間があれば天神様などを巡っております。  私はいつものように、鈴のついたポシェットを肩に掛けました。「この鈴をいつも持っているのですよ。出かけるときは決して忘れてはなりませぬ」と、おばあ様から頂いた大切な鈴なのでございます。 「えっと、こっち」  凛さんは、早速

          【2000字のホラー】通りゃんせ

          由布院?湯布院?ゆふいん

           ゆふいんの魅力という紀行文を書いて、文中では「由布院」「湯布院」「ゆふいん」のどれも使っている。  どれが正しいのか、間違っているのか、あれ?と思ったので、調べた事を書いておく。  昭和30年 由布院町と湯平村が合併して「湯布院町」になる。  由布院町にあった、由布院温泉、由布岳、JR由布院駅等は「由布院」を使い、 湯布院町全体を表す時は「湯布院」を使った。 平成17年 庄内町・挾間町 ・湯布院町の3町が合併して「由布市」になる。  湯布院町は、由布市湯布院町となり

          由布院?湯布院?ゆふいん

          【紀行】温泉地ゆふいんの魅力

           私用で大分に行き、せっかくなのでゆふいんまで足を延ばした。 ゆふいんラックホールのコンサート  訪れた日、昨年(2021年)完成した「ゆふいんラックホール」で湯布院町民でもある小林道夫先生が出演するコンサートがあった。  ゆふいんには、1975年の大分県中部地震が発生した年、由布院が元気であることを全国に発信したことがきっかけで始まった音楽祭があるが、「ゆふいんラックホール」は、そんな皆さんの思いの詰まったホールのようだ。  小林先生のチェンバロは以前東京で聴いたことが

          【紀行】温泉地ゆふいんの魅力

          【絵とSS】絵は動いている ― 伝書鳩 ―

          伝書鳩  新聞社の取材合戦の花形と言えば伝書鳩、そんな風に言われていたのは何年前だろう。社屋の屋上ではまだ伝書鳩を飼っていたが、出番がなくなってもう十年以上経つ。鳥栖が入社した新聞社でも、伝書鳩を手放す話が進んでいた。  鳥栖が昼食を取って新聞社に戻る途中、急に雨が降ってきた。雨宿りをする時間などなく、鳥栖は小走りに駆け出した。  路上の先の方で、絵を売っていた老人が慌てて店じまいをしている。あのじいさんも商売あがったりだな。そんなことを考えながら老人の居た場所まで来る

          【絵とSS】絵は動いている ― 伝書鳩 ―

          【絵とSS】絵は動いている  ━『猫の飼い方』━

          『猫の飼い方』 「毎日中学校に行って帰って来るだけってつまんない。家で猫とじゃれあうだけが楽しみな私って、ほんと不幸よね。あーもう、何か面白いことなの」  通学の途中、リタはぶつぶつ言いながら、板壁の古い家の二階の窓に目をやった。 「あれ、誰か引っ越して来たのかな?」  しばらく空き家だったけど、男が片腕に白猫を抱えている姿が見えた。よく見ると、男は眼鏡を掛けて背中を丸め、困った顔で『猫の飼い方』という本を読んでいる。白猫も男の腕に挟まれて苦しそうだ。えっ、これから調

          【絵とSS】絵は動いている  ━『猫の飼い方』━

          【絵とSS】絵は動いている  ― ヒゲ一本の拘束 ―

          ヒゲ一本の拘束  出張先でひと仕事を終えた柊は、シャッター通りと化したアーケードを歩いていた。駅の反対側は開発が進み賑わっていたが、柊はひなびた通りで出会う店を好んでいた。  アーケードの中ほどまで来ると、チカチカと電球が切れかかった珈琲店の置き看板が目に入った。まさに柊好みのシチュエーションだ。重みのある木のドアを開けると、珈琲の香りが漂ってくる。と言うより、珈琲の香りが薄暗くこぢんまりとした店内にしみ込んでいるようだった。 「いらっしゃい、どうぞ」  カウンター越

          【絵とSS】絵は動いている  ― ヒゲ一本の拘束 ―