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ケンヨウの階層

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自分自身に関わる文章を書きとめていきます。仕事のこと、生活のこと、いま夢中なことなど僕自身についてです。
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#言葉

[ちょっとしたエッセイ]計画のその先にあるもの

[ちょっとしたエッセイ]計画のその先にあるもの

 先日、小雨の降る街中を急ぎ足で歩いていると、電柱の脇にふと怪しく淡い色で光るものが目に入った。それはずいぶんと懐かしく、立ち止まってしまった。
 最近は特に減少傾向だろう「それ」は、昔のままの姿で立ちすくんでいる。僕の腹くらいまである1本足になんとなく不安定さが拭えないその自販機は、昭和世代の人間なら「ああ、あったね」とか懐かしんで言える「それ」である。
 でかでかと主張するそのコピーは、未だ健

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[ちょっとしたエッセイ]失礼な手紙とくどい手紙

[ちょっとしたエッセイ]失礼な手紙とくどい手紙

 今の時点でということで言えば、手で書くことは、嫌いではない。ただ、自分の字が、時々異様に嫌になる時があって、その時は、書くことすらも嫌になるのだが、概ね書くこと自体が苦ではない。
 
 そして、次のフェーズへ移る時、グッと書くことが苦手になる。それは、手紙だ。仕事でお世話になった方へのお礼状や、荷物を送る際の一筆など、月に2〜3は紙に向かって手を動かすのだが、これがなかなか時間がかかる。季節の挨

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[ちょっとしたエッセイ]「普通」なんて言葉使わなくなった

[ちょっとしたエッセイ]「普通」なんて言葉使わなくなった

「僕、普通になりたいんですよ」

帰宅途中のコンビニでコーヒーを買って、イートインスペースでひとりキンキンに冷えたコーヒーをすすった。

もうずいぶん前のこと。
大学卒業後、就職なんて普通の人がするもんじゃないと、特に当てもなく、コンビニでバイトをしていた僕は、いつも夜勤が同じになる19歳の彼とレジの前に立っていた。有線から流れる氷川きよしのズンドコ節が悲しく響く、深夜の客のいない店内で、急に彼が

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[ちょっとしたエッセイ] 真夏の夜のため息

[ちょっとしたエッセイ] 真夏の夜のため息

ため息まじりにパソコンから目を外す。
午前1時を回っていた。昨朝から僕らは、この1DKの小さな一室でひたすらパソコンに向き合っていて、疲労もピークを迎えていた。ほぼ軟禁状態で朝までに仕上げなくてはならない映像の編集は途方もなく、時計を見ながら僕はぼーっとするしかなかった。
すると、同僚がコンビニから帰ってきた。
「ポプラの店員がめっちゃ大盛りにしてくれた」
そう言って、うれしそうにチキン南蛮弁当を

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[ちょっとしたエッセイ] 食う、考える、食う

[ちょっとしたエッセイ] 食う、考える、食う

いつも食べているものに感謝するという、至極当たり前と思っていることを、いつ誰がどのように教えてくれたのか覚えているだろうか。
今この瞬間、目の前にあるすべてのものは、必ず誰かの手を通して生産されていて、その数だけ感謝を持っているだろうか。
そんな考えてみても仕方ないようなことを考える深夜。
テレビに映るふくよかな桃色の豚の群れを見ながら、中学時代のことをふと思い出した。

「豚はネギを食べると死ぬ

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[ちょっとしたエッセイ]「かつて」なんて言うなかれ

[ちょっとしたエッセイ]「かつて」なんて言うなかれ

先日ふと渋谷に降りた際に、東急側の変貌に目眩がした。
宮益坂付近はなんとなく記憶の通りなのだが、六本木通りの方面は大きく変貌していた。

愕然、愕然。

渋谷にヒカリエができたことは知っている。これまでの東横線の改札、ホームがなくなったことも知っている。概ねそれだけを知っていれば、渋谷の変化にも対応できると勝手に判断をして、完全に油断をしていた。無知からなる驚愕を目にしてしまったわけだ。数カ月に1

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東京という存在がなによりも弱くてあやふやだった 「ワレ想う故の90年代」vol.06

東京という存在がなによりも弱くてあやふやだった 「ワレ想う故の90年代」vol.06

 現在住んでいる場所は、東京に隣接する土地なのだけれど、生まれも育ちも東京の下町で、今もその感覚は変わらないでいるし、実際に勤めている会社も東京なので、ほぼ「東京」で人生の大半を過ごしている。

 毎日満員電車に乗り、人がわんさかいる都会(日本における東京がそういう場所であることを意識しつつ)を行き来していると、ふとどこか静かなところへ行ってしまいたい、もしくはそんな場所で静かに暮らしたいなどと安

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[ちょっとしたエッセイ] だから愛について語るに足らず

[ちょっとしたエッセイ] だから愛について語るに足らず

 もう20年くらい前の話だけれど、僕は高円寺で働いていた。

 とは言っても、正社員ではなかったし、アルバイトでもなかった。大学を卒業して、コンビニでバイトをしながら、ふらふらフリーター生活を送っていた最中(あの頃は就職氷河期の末期で、フリーターが多く、またフリーターであることもよしとされていた時代)、あまりに退屈で、たまたま見つけた高円寺の小さな会社の門を叩いた。無理矢理働かせてもらう条件として

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[ちょっとしたエッセイ] 書くということ

[ちょっとしたエッセイ] 書くということ

 人のカラダというものは不思議で、何気なくいつもしていることが微妙にできなくてストレスになることがある。その際たる場面が、「字を書く」時だ。
 自分の名前を書く。思うように書けない時もあれば、なんだかピシッと書ける時もある。だから、キチンと字を書きたい時は、深呼吸して、お気に入りのペンで、書く準備をするのが大事だと思う。鉛筆なら削りたてより少し芯が丸くなっている状態にするし、ボールペンなら一度走り

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[ちょっとしたエッセイ]深夜の波に身をまかせ、仮想空間を傍観すると。

[ちょっとしたエッセイ]深夜の波に身をまかせ、仮想空間を傍観すると。

 なんとも曖昧なタイトルになってしまった。僕は、日付をまたぐ0〜2時の時間帯は、いつも心が乏しくなり、ネットの世界に身を委ねてしまう。「委ねて」というと、ひたすらネットサーフィンをしながら時の流れを忘れさせるような体験になりがちだが、どちらかというと「浸る」とか「覗く」に近いかもしれない。
 みなさんは、SNSのようなコミュニティサイトにどれくらい登録されているでしょうか。僕自身は、このnoteの

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[ちょっとしたエッセイ]あれから50年

[ちょっとしたエッセイ]あれから50年

 このタイトルだけで“わかる”人はピンとくるでしょう。

 三島由紀夫没後50年ということで、メディアでもちょこちょこと取り上げられている。個人的なところでいえば、生まれる前の出来事で、印象として事後の書き物や映像等で知るほかなくまったく無知である。世代で言えば、僕の祖父と同い年であるということ、昭和の数え年と同じだということだ。そう考えると95歳。まあいい年である。

 僕自身が三島に出会ったの

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[ちょっとしたエッセイ]恩師という存在について

[ちょっとしたエッセイ]恩師という存在について

 先日1通のメールが届いた。この春に、僕が中高時代にお世話になった先生が定年退職されるというものだった。『お世話になった』という言葉を使ってみたものの、自分としては違和感がある。文章の便宜上、使用したと思っていただきたい。

 自分の学生時代、つまり今から25〜30年前ということだから、その先生は、当時、今の僕より若かったわけだ。
 写真も添えられていて、確かに白髪が増えているし、心なしか背中も曲

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[ちょっとしたエッセイ]「ワレ想う故の90年代」vol.04

[ちょっとしたエッセイ]「ワレ想う故の90年代」vol.04

 さて、1990年代とは、みなさまにとってどんな時代だったでしょうか。
 もちろんその時代を知らない方もいるでしょう。僕からしたら80年代以前はあまり知らないわけだし、知らない時代は、ずいぶん昔のことだよなと思ったりもするので、まぁそのへんは人それぞれの感じ方に任せて、ひとえにその10年間に青春を迎えた自分としては、非常に懐かしいと思う反面、これが案外そんな昔でもないなと感じてしまいます。
 それ

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[ちょっとしたエッセイ]上段の左から3番目の青いやつ

[ちょっとしたエッセイ]上段の左から3番目の青いやつ

 駆け足でコンビニに入ると、そのままレジに並んだ。夕方のコンビニは、様々な様相の人であふれあふれている。上着のないスーツの兄ちゃん。数人で笑いながら並ぶ学生らしきかたまり。明らかに人の多さに辟易するおばあさん。なぜ今なのかと、弁当を大事そうに持つ女性。とにかく忙しい雰囲気で満たされている。
 僕は、その入り組んだ列から、レジの奥を何度か伺っていた。そこにあるのはタバコの陳列棚だ。必要なタバコの番号

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