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現代を「鬼滅の刃」から読み解く

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現代を「鬼滅の刃」で読む(完):天照す太陽

現代を「鬼滅の刃」で読む(完):天照す太陽

ついにコミック23巻です。「時間がない時間がない」と言いながら、「時代を読むのだ」となんだかんだ読む口実をつくることができました。

永遠の命と強さを求めつづけ、1000年もの時間を生きた鬼舞辻無惨。太陽を克服した禰豆子の登場で、不老不死に手が届くかと思いきや、鬼殺隊の一斉攻撃の前に崩れ落ちる寸前です。

鬼舞辻が作り出した鬼は、彼の死とともに消え去ります。逃れ者の鬼であった珠世の言葉によれば、鬼

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現代を「鬼滅の刃」で読む(拾弐):鬼は時に弱者に優しく近づく

現代を「鬼滅の刃」で読む(拾弐):鬼は時に弱者に優しく近づく

意地の悪い侍と商人(人間)に妹を焼かれた妓夫太郎は、黒焦げになった妹の体を抱えて走りました。

妓夫太郎(人間):「元に戻せ 俺の妹の体を!!」

妓夫太郎(人間):「誰も助けちゃくれない いつものことだ いつも通りの俺たちの日常。いつだって助けてくれる人間はいなかった」

そこに「人間」ではない、上弦の鬼の童磨が手を差し伸べます。

童磨(鬼):「どうした どうした 可哀想に。俺は優しいから放っ

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現代を「鬼滅の刃」で読む(拾壱):惜しみなく与える強さ

現代を「鬼滅の刃」で読む(拾壱):惜しみなく与える強さ

私の知っている研究室の博士課程の学生はほぼ留学生です。あまり好きな言葉ではないのですが、その出身地は「開発途上国」です。

彼らは博士論文を大学に提出するための条件として、(インパクトファクターが付いている)有力な国際誌に3報以上の論文を掲載しなくてはなりません。

研究室では夜な夜な勉強している学生を見かけます。彼らは色々な論文を読み込んだり、統計ソフトの使い方を磨いたり、新しいツールの活用法を

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現代を「鬼滅の刃」で読む(拾):身の回りの人の幸せのために

現代を「鬼滅の刃」で読む(拾):身の回りの人の幸せのために

「親ガチャ」という言葉が巷を少し騒がせました。発信元の若者たちの中にはそこまで深刻な言葉としてではなく、「しょうがねえなぁ」「やれやれだぜ」という意味合いも込めてライトに使っていた人もいるようです。

むしろ、団塊ジュニアあたりが強めに反応してしまった気もします。しらんけど。

哲学者のマイケル・サンデルは、その著書『実力も運のうち 能力主義は正義か』で、「親ガチャ」の考えを「メリトクラシーの世界

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現代を「鬼滅の刃」で読む(玖):矛盾や葛藤を抱えながら

現代を「鬼滅の刃」で読む(玖):矛盾や葛藤を抱えながら

産屋敷:「つらいね天元。君の選んだ道は。自分を形成する幼少期に植え込まれた価値観を否定しながら戦いの場に身を置き続けるのは苦しいことだ。様々な矛盾や葛藤を抱えながら君たちはそれでも前を向き戦ってくれるんだね。人の命を守るために」

自分が幼少期に親や周囲から獲得してきた文化資本(ピエール・ブリュデュー)は、私たちの価値観にも影響を与える。善悪の基準と言うよりは、楽かそうじゃないかという基準が自動操

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現代を「鬼滅の刃」で読む(捌):一緒にご飯食べよぅ

現代を「鬼滅の刃」で読む(捌):一緒にご飯食べよぅ

人間は動物です。でも、ほかの動物と人間らしさを分かつものは何でしょう。

いろいろありますが。いま、一つ上げるとしたら「ご飯を一緒に食べる」です。

動物界では、食事は単独でするのが一般的です。ご飯を盗まれないように安心できる草陰に持って行って食べます。確かに食事をしているときには、意識もそちらに持っていかれて、攻撃も受けやすくなるでしょう。

人間の場合、テーブルを囲んで、相手の顔を見ながら食べ

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現代を「鬼滅の刃」で読む(捌):天から賜りし力の使い方

現代を「鬼滅の刃」で読む(捌):天から賜りし力の使い方

戦闘の中、鬼殺隊の炎柱である煉獄杏寿郎は、傷ついた竈門炭治郎を気にかけていた。杏寿郎を剣士として認めている鬼の猗窩座は、次のように言います。

猗窩座:「弱者に構うな杏寿郎!! 全力を出せ、俺に集中しろ!!」

最近、「個人」の成功が盛んに注目されています。「このように起業すればビジネス界で成功する」「このように留学すれば勝ち抜ける」「このような知識を持てば人に騙されない」「このように振舞えば会社

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現代を「鬼滅の刃」で読む(漆):当事者性の罠

現代を「鬼滅の刃」で読む(漆):当事者性の罠

数字のマジックというのは怖いものです。だからこそ、統計分析するときにはデータのばらつきなど、いろいろ注意します。

自己中心的で、かつ自己愛が強いものの中には、自分の処遇に対して納得いかない場合に、「常に」その原因を自分以外に求める者がいます。

自分がうまくいかない理由を、一般的な数字や属性で説明しようします。

自分がうまくいかない理由が自分にあることは認めないので、例えば、自分の「属性」を使

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現代を「鬼滅の刃」で読む(陸):無惨のパワハラ

現代を「鬼滅の刃」で読む(陸):無惨のパワハラ

鬼舞辻無惨のパワハラ会議はいっとき話題になったそうですね。パワハラをしている側は自覚がないということがこの問題を難しくします。(主観的に)正しいことをしているだけのようです。

パワハラをする側の辻褄はあっているわけです。彼の合理性に照らし合わせれば彼の言動のロジックに何の矛盾もない。

これも「認識のフレームワーク」の違いと言ってしまえばそれまでなのかもしれません。

ただし、途中のロジックが正

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現代を「鬼滅の刃」で読む(伍):家族ごっこ

現代を「鬼滅の刃」で読む(伍):家族ごっこ

旧陸軍には員数主義(いんずう)というものがあった。「員数」とは各隊に配備された物品の帳簿上の数のことをいう。この場合、実質は関係ない、かたちだけ整っていればよいという「体裁主義」(形が整っていないと恥ずかしい、不利益を被る等)ともいえる。山本七平(イザヤベンダサン)が日本軍の敗因として紹介していた。

さて、鬼滅の刃において「蜘蛛の鬼」は「家族」を持つことに拘った。自分を中心とした「家族」である。

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現代を「鬼滅の刃」で読む(肆):一つできれば万々歳!

現代を「鬼滅の刃」で読む(肆):一つできれば万々歳!

不確実性がますます高まる現代社会において、リスクテーキングしながら進んでいくためには、自分軸を持ちながら判断材料となる情報の分析や収集が必要です。

我妻善逸は泣き虫でしたが、育ての親である師匠(じいちゃん)に厳しくも優しく鍛えられました。優しさの中で厳しく鍛えられることは自分軸の形成にとって大切だと思います。

善逸:「誰からも期待されない。誰も、俺が何かを掴んだり、何かを成し遂げる未来を夢見て

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現代を「鬼滅の刃」で読む(参):カナヲと童磨ー視点取得の不可能性ー

現代を「鬼滅の刃」で読む(参):カナヲと童磨ー視点取得の不可能性ー

物事を様々な視点で捉えることは大切です。「視点取得」は、簡単に言えば相手の視点を借りて(想像して)物事を捉えることです。しかし、どうにも「視点取得」が難しい相手も存在します。逆に、相手から見れば「こちらの視点」こそ理解不能と思うのでしょうが。

この視点を「認識のフレームワーク」と言い換えても良いでしょう。このフレームワークは一人ひとり違います。夫婦の間でも違います。夫婦の場合は何年かつきあってい

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現代を「鬼滅の刃」で読む(弐):一人称複数の狛治の視点

現代を「鬼滅の刃」で読む(弐):一人称複数の狛治の視点

誰が言ったのかも忘れてしまったのですが、私の意識の片隅にあるのが「一人称複数」という言葉です。おかしな言葉ですよね、私が複数いるわけですから。

私の理解では、これは「僕」「俺」「拙者」という呼び方のことではなく、「子どもである私」「働き盛りの私」「病気を患っている私」「高齢になった私」という複数の視点が同居した「私」です。

個人の業績主義がもてはやされる今の時代に、これからの持続可能な社会を語

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現代を「鬼滅の刃」で読む(壱):愛をとりもどせ

現代を「鬼滅の刃」で読む(壱):愛をとりもどせ

「鬼滅の刃」と書きながら、「愛をとりもどせ」は「北斗の拳」の歌ではないかと思いつつ、連れずれなるままに硯に向かうのです。

小学3年生の息子が、テレビの影響を受けたのか、子ども部屋にしまい込んでいた「鬼滅の刃」のコミックを取り出してきました。その辺に置いておくものだから、ついつい開いてしまったではないですか。

私はパラパラと観ながら、やはり、作者からのひとつのメッセージを受け取りました。コミック

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