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現代を「鬼滅の刃」で読む(玖):矛盾や葛藤を抱えながら

産屋敷:「つらいね天元。君の選んだ道は。自分を形成する幼少期に植え込まれた価値観を否定しながら戦いの場に身を置き続けるのは苦しいことだ。様々な矛盾や葛藤を抱えながら君たちはそれでも前を向き戦ってくれるんだね。人の命を守るために」

自分が幼少期に親や周囲から獲得してきた文化資本(ピエール・ブリュデュー)は、私たちの価値観にも影響を与える。善悪の基準と言うよりは、楽かそうじゃないかという基準が自動操縦的に働く。

幼少期に暴力を振るわれて育つと、それを嫌悪しながらも、気を抜くとかつて経験した痛みの方に安心感を抱いてしまうこともある。「人間は経験がない「幸せ」よりも、耐えた経験のある「苦痛」に安心感さえ抱いてしまう」

抜け出すためには、自分を捨てるか、猛烈なエネルギーでゆがんだ安心感を制御することが必要になる場合もある。大変、疲れることもある。

宇髄天元:「弟は親父の複写だ。親父と同じ考え、同じ行動。部下は駒。妻は後継ぎを産むためなら死んでもいい。本人の意思も尊重しない。ひたすら無機質。俺はあんな人間になりたくない」

天元は父親と同じことが嫌でした。父親や弟のように、部下を駒と見做すのも嫌でした。そして、現場に出たらまずは自分の命を最優先せよと指示します。任務遂行より命。仕事柄の態度と矛盾するかもしれないけれど、そうしてくれと、自分のために働いてくれる妻たちに言います。

宇髄天元:「自分の命のことだけ考えろ。他の何を置いてもまず俺のところへ戻れ、任務遂行より命。こんな生業で言ってることちぐはぐになるが問題ない俺が許す」

本人の意思も尊重しない。ひたすら無機質。俺はあんな人間になりたくない。

(コミック第10巻より)




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