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『saṃsāra(サンサーラ)』17
17 始
犬の最後は私が思っていた以上にあっさりで。
思っていた以上悲しくもなくて。
それが逆にさみしくて。
私の中の感情達が勢いよく、ぐるぐるめぐっていく。
確かに選ばなかったのは私だし。
きっと犬も何処かで選んでくれるに違いないと思っていただろうし。
そんな思いをぐるぐる思い込んでいると
「やっぱり寂しかったんじゃないの?あなたの決断はそれでよかったの」娘は私の顔を覗き込みなが
『saṃsāra(サンサーラ)』16
16 着
花火が花を開いていく。
一つ二つ三つ。四つ五つ、いつまでもいつまでも続いていく。
腹の底に響き渡る大きな音。
あの鐘の音とはまた違っているような、どこかで似通っているようで。
それが合図で私の意識は戻ってくる。泥から私が戻ってくる。這い出てくる。暗闇の先、あたりに声が響いている。この旅の終着点。そう感じただけ。答えは知らない。けれどここが終着点。そんな感覚だけ。本当かど
『saṃsāra(サンサーラ)』15
15 時
七回の鐘が鳴り響く。
ドーンとかボーンと
高く高く鳴り響いていく
空を独り占めにするかのように。
鐘の音が響くと今までの空間が、待ってましたかと言わんばかりにゆがみ始める。蝶も橋もクジラも今では蚊帳の外。そうして、時間という時間がたくさん降ってくる。あらぬ方向から。あちらこちらから。
見たことも聞いたこともない勢いで、あちらの時代からこちらの時代へと、いくつもの池を泳
『saṃsāra(サンサーラ)』14
14 桃
あの部屋はいつの間にか跡形もなく消えている。
あの大きな男の影も、盤面のように配置された黒い影や透明の結晶たちもいつの間にかもう、そこには誰もいなくて。
気が付けば、いつの間にか何もなくて。
私の半紙を掲げられた後、あの鐘の後、きれいさっぱり消えてなくなった。
と言うより、そこには初めから何も無いようで、何かがあったような。畳の青い匂いだけをそこに残している。
そして気が付け
『saṃsāra(サンサーラ)』3
3 夜
昨日見た夢はそんなんだったか。
頭が痛い。私は椅子に座っていた。手足は動かないよう拘束されている。意識がないうちにまた私は暴れたのだろうか。椅子に座っていることに気が付く。眠気はいまだに覚めることはなく、頭の中をぐるぐると泳いでいる。クジラが空を泳ぐ夢。狐が踊りを踊ったり。山か何かがしゃべったり。なんとも不思議な夢だらけだ。私が連れていたあの犬は昔飼っていたものだろ