『saṃsāra(サンサーラ)』7

 
7      狐
 
トントンテンテン、トントンテ
狐が跳ねるよ、おかしな面を顔に着け。
テンテントントン、テンテント
狐が廻るよ、手袋首からぶら下げて。
シャンシャンテン、シャンテントン
顔を隠して照れながら、頬を染め染めテンテンシャン
頭を隠して耳出して、指をくねらせトントンテン
あの子来たらさトントンテン、あの子来なきゃさテンテント
テンテンシャンシャン、トンシャンシャン
 
狐が何匹も何頭も跳ねている。何かの合図があるように、何の合図もないかのように。
皆で何かの歌いながら、大きな石の周りを大きな狐が小さな狐が何匹も、何頭も。
年を取っているもの若いもの、小さな池の周りで拍子をとりつつ跳ねている。
お面の横から切れの長い目を、こちらに向けているもの。手袋の隙間に耳を入れてはこちらへ注意を向けているもの。小さい布でほっかむりをしているものと。狐たちは私たちに興味を示しているようだったし、そんなことお構いなしの様子だったりと。くるくる踊り続けている。手をたたいて足を踏み鳴らす。やたらと音を出しているもの。はぁ、それそれと合いの手を入れているもの。様々がさまざまの様子で様々を楽しんでいる。
 
犬もそれに乗せられて、私もそれに乗せられる。
カメはどうしたものかと、あきれている。仕方がないのだけれどねと言う面持ちで。
カメは何かを言いたげで、何かを言うでもなくて。カメはいつの間にか来た穴を戻っていく。
んんん、あとはあなたたち次第ですよと背中で言って。
 
トントンテンテン、トントンテ
テンテントントン、テンテント
 
かがり火がゆらゆら揺れている、火の周りの空気が何重にも見える。ゆらゆらふわふわ。かがり火は奥へとつながる道へと何本も、何本もともされている。
私たちをさそうように。
私たちを待っていたかのように。
私たちをいざなうように。
狐の踊りを強調させるように。
狐の舞を優雅に見せかけるように。
 
小さな池の魚が跳ねたらそれを合図に、狐たちは煙のように逃げていく。
消えていく。
どこかに。
はたまた今まで存在していなかったかのように。
何頭も、何十頭も。
一頭だけを其処に残して。一匹だけを底に残して。
「あらやだ、おきゃくさんだね」頭を隠している狐が言う。照れくさそうに。
「みんなどこへ消えたんだい」思わず聞いてしまう。
「あらやだみんな?そんなの、最初からいませんよ。あたしの他にはだあれもいません」顔を隠している狐は、何事もない調子で答える。
「でもさっきそこに」そこまで言った私に、犬は顔を向ける。右へ左へ振りながら。それ以上はお構いなしですよ。と言いたげに。
「この先ですよ。おきゃくさん達は大概そちらへ向かうんです。歓迎されているんですね。珍しいんですよ。私らの踊りが見られるのは」耳だけ出している狐はそれ以上を口に出そうとしなかった。それどころかいつの間にか、狐はすっかり消えてしまっていた。もしかしたら最初から狐なんていなかったのかもしれない。私は気が付いていないだけで。
犬はふふふと笑うと
「旦那様。その通りですよ」とうとうここらでの理がわかってきたのですね。
カメがあけた穴は今ではすっかりふさがれている。
犬はかがり火の道をたどり始める。
まるで何事もなかったかのように。
まるで何事もなかったのだろうか。
小さな池のあった場所には、合図の魚が一匹横たわっている。

ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん