『saṃsāra(サンサーラ)』14
14 桃
あの部屋はいつの間にか跡形もなく消えている。
あの大きな男の影も、盤面のように配置された黒い影や透明の結晶たちもいつの間にかもう、そこには誰もいなくて。
気が付けば、いつの間にか何もなくて。
私の半紙を掲げられた後、あの鐘の後、きれいさっぱり消えてなくなった。
と言うより、そこには初めから何も無いようで、何かがあったような。畳の青い匂いだけをそこに残している。
そして気が付けば私たちはあのカメが掘った穴の前。空には大きな蝶で出来たガラスの橋。幾分場所は変