英(はな)

変な小説を書いているピロシキ

英(はな)

変な小説を書いているピロシキ

マガジン

  • 『saṃsāra(サンサーラ)』

    犬と私の物語です。 ただ書きなぐった物語なので なおさなきゃいけないところはあると思うのですが 良かったら読んでみてください。

  • 英吹雪(はなふぶき)

    それっぽいことを書いて、悦に浸っています。 とっ散らかっている文章をあつめました。 よかったら、御賞味ください。

  • 鳥獣戯画

    今年に入って何となく書きなぐってみました。 今まで、龍とか鬼とか書かなかったのですが それはそれでおかしなものだろうと思って 書いてみたのがこれでした。 1部は終わりましたが又タイミングを見て 2部を書いてみたいと思います。 良かったら読んでみてください。

  • 旅楽団

    全50話のお話ですが 12話までなんとかお付き合いください よろすくおにがいいたすます 毎週金曜の夜深くに2話あげたいとやっております。 でわ、また来週もご賞味ください。 来店お待ちしております。

  • 九官鳥

最近の記事

『saṃsāra(サンサーラ)』17

17 始 犬の最後は私が思っていた以上にあっさりで。 思っていた以上悲しくもなくて。 それが逆にさみしくて。 私の中の感情達が勢いよく、ぐるぐるめぐっていく。 確かに選ばなかったのは私だし。 きっと犬も何処かで選んでくれるに違いないと思っていただろうし。 そんな思いをぐるぐる思い込んでいると 「やっぱり寂しかったんじゃないの?あなたの決断はそれでよかったの」娘は私の顔を覗き込みながら聞いてくる。決断を迫った君がそれを言うのか。言葉にできなかった。決断したのは私

    • 『saṃsāra(サンサーラ)』16

      16 着 花火が花を開いていく。 一つ二つ三つ。四つ五つ、いつまでもいつまでも続いていく。 腹の底に響き渡る大きな音。 あの鐘の音とはまた違っているような、どこかで似通っているようで。 それが合図で私の意識は戻ってくる。泥から私が戻ってくる。這い出てくる。暗闇の先、あたりに声が響いている。この旅の終着点。そう感じただけ。答えは知らない。けれどここが終着点。そんな感覚だけ。本当かどうかはどうでも良くて。これで旅は終了。そして次の旅の始発点。 花火が空を色づけて

      • 『saṃsāra(サンサーラ)』15

        15 時 七回の鐘が鳴り響く。 ドーンとかボーンと 高く高く鳴り響いていく 空を独り占めにするかのように。 鐘の音が響くと今までの空間が、待ってましたかと言わんばかりにゆがみ始める。蝶も橋もクジラも今では蚊帳の外。そうして、時間という時間がたくさん降ってくる。あらぬ方向から。あちらこちらから。 見たことも聞いたこともない勢いで、あちらの時代からこちらの時代へと、いくつもの池を泳ぎ続ける魚のように、そう見えてしまう。そう見えてしまった。 すると、今まで私の胸

        • 『saṃsāra(サンサーラ)』14

          14 桃 あの部屋はいつの間にか跡形もなく消えている。 あの大きな男の影も、盤面のように配置された黒い影や透明の結晶たちもいつの間にかもう、そこには誰もいなくて。 気が付けば、いつの間にか何もなくて。 私の半紙を掲げられた後、あの鐘の後、きれいさっぱり消えてなくなった。 と言うより、そこには初めから何も無いようで、何かがあったような。畳の青い匂いだけをそこに残している。 そして気が付けば私たちはあのカメが掘った穴の前。空には大きな蝶で出来たガラスの橋。幾分場所は変

        『saṃsāra(サンサーラ)』17

        マガジン

        • 『saṃsāra(サンサーラ)』
          17本
        • 英吹雪(はなふぶき)
          16本
        • 鳥獣戯画
          7本
        • 旅楽団
          52本
        • 九官鳥
          14本
        • 無拍子
          34本

        記事

          『saṃsāra(サンサーラ)』13

          13 座 縦に一から八。黒い人型の影がゆらゆら揺らめいている。 横に一から八。透明の結晶の人型がゆらゆら揺らめいている。 その全員が習字をしている。座っている体の前には硯の中に墨、その上にちょこんと筆、半紙は黒い下敷きの上に。部屋の中は墨と畳のにおいで充満している。 私の夢についての習字。 私の未来についての習字。 私の希望についての習字。 いつの間にか私たちもそれに倣って座っている。私も犬も娘も。そして私たちの前にも同じように硯、筆、墨、半紙。 犬は面白がっ

          『saṃsāra(サンサーラ)』13

          『saṃsāra(サンサーラ)』12

          12 癪 いつだったか聞いていた話は本当だったようで、山は猫の癇癪によって騒ぎ出す。 猫と山を一度になだめるのは大変で、猫の機嫌を取れば山は不愛想になるし、山をおだてれば猫は口をきかなくなるしまつだ。 慌てて双方に落ち着いてもらうよう説得を繰り返すのだけれども、双方が納得する答えなどすぐに思いつくものではない。 「旦那様。私にはよくわからないのですが、多分これはいつも通りですよ」その言葉に彼女が反応する。 「確かにね。しかしそれじゃきりがない」と、言うのも揉め

          『saṃsāra(サンサーラ)』12

          『saṃsāra(サンサーラ)』11

          1 1 北 振動はひとつだって、やむことがなく絶えず私たちを苦しめる。 いつ終わるのかわからないこの振動。荷車の車は木でできていて、すべての衝撃をこの荷室へと届けてくれる。余すことなく。一つだって残すことなく。 乗り心地の悪いそこに居る私と犬はずっと不機嫌だ。あたしが悪いのかと言われればそうに違いないのでしょうが、それにしたってこの扱いはとても不当なものだと言いたいです。そうつぶやいている。 馬に乗る娘は、ゆうゆう前を見据えて走っていく。急に雨が降ってきてもイナ

          『saṃsāra(サンサーラ)』11

          『saṃsāra(サンサーラ)』10

          10 扉 どこからか燈籠が流れ込んでくる。中空にふわりふわり。どこからやってくるのか、何処からやってきたのか。燈籠はろうそくの香りも運んでくる。薄暗い辺りを、ぼんやり照らしながら。 「この先、扉問答」馬の背にまたがったまま、あの娘は燈篭に書かれた文字を読み上げる。しかしそれが何なのかの説明は、当たり前のように私のもとに現れることはない。そしてその文字の方向へ指をさす。白く細い指。 馬を止める。馬は物を言いたげで、何も言えなくて。 辺りをモノが囲んでいく。 後か

          『saṃsāra(サンサーラ)』10

          『saṃsāra(サンサーラ)』9

          9 瓜 「でも今の鐘ぎゃ、もう四回もなっていたざなんですね」ツンという音の様子で彼女は言う。犬はすまなそうな顔をする。途中であたしも旦那様も寝てしまって。言い訳じみた顔をどこにと言う訳でもなく向けている。 馬はその様子を見て、取り繕うとしている。けれども言葉が出てこない様子で。 「仕方がなかったんだ。ここまで来るのにもいろいろ一筋縄ではいかなくてね」何とか私は間を取り持とうとするのだけれど、それだってそんなことをしても仕方がない。 「ここで時間ぎょ取ってしまう暇

          『saṃsāra(サンサーラ)』9

          『saṃsāra(サンサーラ)』8

          8 道 いい道と悪い道があってそのどちらも、まっすぐで不味い。そのどちらにも階段がついていて旨いんだと犬は言う。よくわからないなと私が言う。 犬はいい道には飴ころがあまりなくていい匂いがする。悪い道には飴ころが多くなくて臭いのだという。それについても理解に苦しむよと応えた。 すると犬はむきになって言い換えるなら、シャツの裏表の手前が裏だった時のようなものですよと力強く言う。 これ以上犬の言葉を解釈するのは無駄な気がして私は口を噤む。 犬は機嫌が悪いわけでは決し

          『saṃsāra(サンサーラ)』8

          『saṃsāra(サンサーラ)』7

          7 狐 トントンテンテン、トントンテ 狐が跳ねるよ、おかしな面を顔に着け。 テンテントントン、テンテント 狐が廻るよ、手袋首からぶら下げて。 シャンシャンテン、シャンテントン 顔を隠して照れながら、頬を染め染めテンテンシャン 頭を隠して耳出して、指をくねらせトントンテン あの子来たらさトントンテン、あの子来なきゃさテンテント テンテンシャンシャン、トンシャンシャン 狐が何匹も何頭も跳ねている。何かの合図があるように、何の合図もないかのように。 皆で何かの

          『saṃsāra(サンサーラ)』7

          『saṃsāra(サンサーラ)』6

          6 亀 ガラスの橋の端が突然現れた。そこから先はまさに何もなく下る階段もない。 あの蝶達がその先を作っていく気配はない。あの蝶たちが現れる気配はない。 犬を抱えたまま手をこまねいていると、私の腕の中の寝ていたはずの犬がうっすら目を開け始める。 「旦那様。良くわからないのですけれど。ついたのですか?」と聞いてくる。ついたも何も、どこに向かっているかもわからないものだから、ここが終着点なのかもわかりはしない。 「あぁよかった。目が覚めたか。今な、端っこについたのだ

          『saṃsāra(サンサーラ)』6

          『saṃsāra(サンサーラ)』5

          5 雲 雲の中、私は犬を連れてひたひたと歩き続ける。足を少し取られながら。蝶が作り上げたガラスの橋の上を私たちは歩いていく。 そこへ突然、何かの視線を感じた。 視線の先へ目を向けると、そこには大きな目玉がポカンと浮かんでいる。 私は驚き、歩みを止めてしまう。急に立ち止まったので犬はびっくりして振り返る。 「旦那様。いかがなされましたか」そんなとぼけたことを言っている。 「なぁおまえ。これはなんだ」震える声で何とか聞いてみる。 これ?と少し首を傾けた後、彼女はそ

          『saṃsāra(サンサーラ)』5

          『saṃsāra(サンサーラ)』 4

          4 月 見事な月に、蝶の踊りに私たちは足を止める。蝶は階段をつくるのをやめている。いまは橋を作っている。 あたりはどこまでもよく見える。希望のように。あの暗闇が嘘のように。月はすべての暗闇を吹き飛ばしてくれた。私は最後の階段の端に腰を下ろす。 そっと月を見る。 月は私を見ている。 月は私を見下している。 私は月を見上げている。 月の光は私の中身を洗い流しているようだ。 私は月に私を洗浄してもらっているようだ。 犬は何も言わず私たちの、その姿をた

          『saṃsāra(サンサーラ)』 4

          『saṃsāra(サンサーラ)』3

          3  夜 昨日見た夢はそんなんだったか。 頭が痛い。私は椅子に座っていた。手足は動かないよう拘束されている。意識がないうちにまた私は暴れたのだろうか。椅子に座っていることに気が付く。眠気はいまだに覚めることはなく、頭の中をぐるぐると泳いでいる。クジラが空を泳ぐ夢。狐が踊りを踊ったり。山か何かがしゃべったり。なんとも不思議な夢だらけだ。私が連れていたあの犬は昔飼っていたものだろうか、思い出せない。夢の中の不可思議なことも、現実にいる個々の場所もどちらが本当

          『saṃsāra(サンサーラ)』3

          『saṃsāra(サンサーラ)』2

          2  鳥 門番の姿は大きな鳥。少なくとも私の目にはそう見える。 駅員の切符切りの様相である。どこからかカチャカチャ音を奏でている。 多分切符を切るハサミで音を奏でているのだろう。 私が見る彼の姿からは切符を切るハサミはどこにも見えなくて。音は中空に突然現れたかのように響いている。 カチャカチャカチャ 土手の上の門につながる入口に門番は2人。 青い鳥と赤い鳥だ。 彼らの体の大きさは、冗談のように大きい。一つ目の赤い鳥。八つ目の青い鳥。どちらも不正解でどちらも正解

          『saṃsāra(サンサーラ)』2