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鳥獣戯画

7
今年に入って何となく書きなぐってみました。 今まで、龍とか鬼とか書かなかったのですが それはそれでおかしなものだろうと思って 書いてみたのがこれでした。 1部は終わりましたが又タ…
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鳥獣戯画 7


7 最初の終末

夜半過ぎに暴風雨はピークになるとラジオが教えてくれる。
希望でいけば何事もなく過ぎ去ってくれればそれに越したことはないのだけれど、こればっかりはそうもいっていられない。ただこれが気象現象で良かったのだけれど、戦争だ、大戦争だと、人間が余計なことをしたために、余計なものが余計なことが起こったのだとしたら。何かのどうでこうでと、心配は次から次へとやってくるのだ。もし

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鳥獣戯画6


6 紳士

夜の闇に乗じてそういうモノはやってくると言われがちだが。
みすぼらしい格好の紳士は、頭を深々と下げながら名刺を渡してくる。
事の始まりは、誰かが私の家のドア口をしつこくノックしてくるものだから、また隣の石系の人間が醤油を借りたいだとか、ラジオの音が少し大きいだとか言ってきたものかと思ったんだ。
『すみません。あたくしこういうモノです』名刺には死神だとか、ドラキュラだとかか

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鳥獣戯画 5


5 カタカナ

ご存じのとおり緑山猫は魔法を使うので有名ですが。
その緑山猫の信雄は昨日の晩から私の家に泊まりに来ていた。
「おはよう」信雄が起きた気配を感じて、私はそちらに声をかけてみる。
『んみゃあ』彼はオス猫特有の野太い声を私に放り込んでくる。
「んで、それはそうと君が拾ってきたそれは何だい」
埃まみれの人型ロボットが台所に座っている。
眠そうな目をゆるゆるそちらの方に向け、私へ

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鳥獣戯画4



4 コン

それを見つけたのは本当の本当に偶然で。
誰かが捨てたであろうガムの包み紙を拾ってごみ箱に捨てようとして気が付いたのさ。
ゴミ箱の後ろ側にちょこんとした、小さな小さな半透明のピンク色の立方体が二つ重なっている。言葉にして例えるなら、そうとしか言い表しようがないもの。目が一つ。目だというのも瞼のようなものが上の段に付いているので、目だと思ったのだが果たしてそれも目なの

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鳥獣戯画 3


3 ウサギ

たまたま通りかかった広場には人だかりができていて。
色々な国籍、人種の人たちが輪になって何かを見ているんだ。私も最初は遠巻きにその輪の向こうから、ぼんやり何かを眺めている。ただそれは、なかなかの迫力でつい前のめりになってしまう。集まった人々もそうであったろう、それはもう熱量がすごかった。
蒸しあがっているものの湯気の量がすごい。そういう熱量もすごいのだ。
ウサギたちは私たちが

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鳥獣戯画 2


2 KOONI

アパートの階段を降りる。
雨の日はいつも憂鬱で頭の毛がまとまらなくて。いらいらする思いだ。2階に住んでいる私は、玄関にまで下りてきて傘がないことに気が付く。
『傘忘れたの?』玄関の前で外を見ている赤い小鬼が訪ねてくる。
「いつものことだから」そう、いつも私は傘を忘れてしまう。いつだってそれに腹が立つ。そう言って部屋に取りに帰ろうとしたところ。
『これ使っていいよ

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『鳥獣戯画』



第一章 最初の週末

1 龍の髭

勢いよくトマトジュースを飲んでいる。
特段これが好きなわけではないのだけれども、ただ家にそれだけがあったので。
自転車を川沿いのフェンスの横に留め、春の空気を胸いっぱいに吸いながら。
あたりには田植え後の緑がゆらゆらと風に揺れている。ふと空を見上げると大きな雲がのんびり動いていく。
その横を優雅に泳ぐ龍。
銀のリボンテープのようなものが、

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