鳥獣戯画 3
3 ウサギ
たまたま通りかかった広場には人だかりができていて。
色々な国籍、人種の人たちが輪になって何かを見ているんだ。私も最初は遠巻きにその輪の向こうから、ぼんやり何かを眺めている。ただそれは、なかなかの迫力でつい前のめりになってしまう。集まった人々もそうであったろう、それはもう熱量がすごかった。
蒸しあがっているものの湯気の量がすごい。そういう熱量もすごいのだ。
ウサギたちは私たちが思っている以上の速さで、どんどん餅をついていく。
ぺったんぺったん。ほいほいほい。
二羽のウサギは軽快なリズムで、杵を臼に打ち付ける。
ぺったんぺったん。ほいほいほい。
何羽もいるウサギたちの中で一羽のウサギは、ただただお調子を取っている。
他のウサギたちは、つきあがった餅を器用に丸めていく。辛味大根にするりとつけていく者、餡子の中にぽとりと落すもの、きな粉をふぁっふぁっとまぶしていく者と分担ははっきりしている。そしてそれらの最前列、真ん中で口上を一うねりするウサギ
『やれやれ、ここのこれらは。力持ち。振舞いたくここのこれらが来たしだい。皆も皆もよくよく見てくだされ。ここらの上質な餅もちを。他にここらな餅があるだろうか?否、どこにも見当たらんわい。さてさて、ここらにお集まりの方々よ。どこらからここらから、食いなっせ食いなっせ。たぁんと召し上がってくりゃさんせ』
その前で、集まった皆に餅を配っていく。甘い香り。海苔の磯の香。きな粉の香ばしい香り。白い餅、赤い餅、ゴマをまぶしたもの色とりどり。
ぺったんぺったん。ほいほいほい。
受け取るいろいろな人種の、さまざまな笑顔。肌の色も小さいものも大きいものも関係なく。一通り全部が笑顔である。絵顔である。
もちろん餅を頬張る私も笑顔である。
ウサギたちももちろん楽しそうにしている。
『ここらはウサギは白だと思っていたろうが、これらたちは茶色い野良ウサギ。餅をつけばつくほどに、私たちは白く輝いていくのさ。毛の色なんかではないのだよ。自分の中の中が白けりゃいいのさ。赤でもいいのさ。ここらの色なんて関係ないのだよ。これらの色などどうでもいいものさ。餅を配れば配るほどに。皆々の笑顔がこれら達の心の中を美しく白くしていくのさ。さあさ召し上がれ気の向くまま腹の膨れるまで、おたの申し上げまする』
ウサギの顔はすっかりピンク色をしている。集まったみんなが笑顔になって、これはありがたい話だ。
ただ私のおなかの余裕は、もうすっかりなくなっている。
それに尽きた、火曜日
ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん