鳥獣戯画 7

 
7       最初の終末
 
夜半過ぎに暴風雨はピークになるとラジオが教えてくれる。
希望でいけば何事もなく過ぎ去ってくれればそれに越したことはないのだけれど、こればっかりはそうもいっていられない。ただこれが気象現象で良かったのだけれど、戦争だ、大戦争だと、人間が余計なことをしたために、余計なものが余計なことが起こったのだとしたら。何かのどうでこうでと、心配は次から次へとやってくるのだ。もしかしたらあの平和のカギが、誰かに奪われてしまったのかもしれない。ただラジオが言うように本当に気象事案なら良いのだけれど、いろいろなものがいろいろなことを起こそうとしている、のかもしれないと思うとぞっとする。いろいろは気象事案に身を寄せて余計なことをしようとしたりするもんだ。

窓の外で大きく木が揺れる。風と雨が窓ガラスをたたく。
窓の外の暴風雨をぼんやり眺めていると、突然に窓が割れる。あっという間に私の部屋の中が嵐になっている。風の強さに耐えられなかった窓ガラスは粉々に割れてしまっている。風が吹き込む、むろん雨粒と共に。どうしたものかと思案していると、突然風が弱まった。もともと部屋の中にはモノをあまりおいていないのだが、少ない家財道具はずぶぬれになっていた。風が急にやんだ理由が声をかけてくる。窓があったところに大きな龍の顔。あの時の太古龍。
『急いでくれ。私の背に乗ってくれ。最後はお前が見届けてくれ』
ただただ驚く私は、足がすくんで動かない。
それでもその強い龍の眼光に恐る恐る足を踏み出す。
龍の鼻面から、頭の上に上がろうと窓枠から踏み出す。風は私の顔を打ち付けていく。もちろん雨を携えて。何とか龍の頭の上に登る。角にしがみつく。
『しっかり摑まっていてくれ。結構揺れるぞ』
雨風が私を打ち付ける。何かの責任を取れと言われているように感じる。
龍は勢いよく空へ、空へあがっていく。
雨風に目が開けられずにいたのだけれど、ゆるゆる開けてみる。
真っ暗闇の空に、大きい気球のような。コッペパンのような形のものがポカンと浮かんでいる。真っ暗闇の空にぼんやり白く光っている。そこに地上から光の渦が吸い込まれている。よくよく見てみるとそれはあの、魂と言っていたあの小さな者たち。大量の魂がそれに向かって吸い込まれていく。魂はいろいろな色をしている。あとで太古龍に聞いたところあれは最後の感情の色合いなのだそうだ。怒りをもって最期を迎えたものは、黒。楽しい感情で最後を迎えたものはオレンジなんて風にさ。けれどこの時の魂たちの光は、赤と青が多かった。たまに紫のものもあったと思ったけれど。光の渦は感情を伴って、あの行燈のような白いものに吸い込まれていく。感情を吸収していくように行燈の光は増していく。

大きな災害が街を覆いつくしていた。
地震、地割れ、津波、台風、あらゆる災害がまとめてやってきていた。
災害の中には人が起こしたものもあった。それが自然災害を増長させることになったのは言うまでもないだろう。
地上にはいたるところ無辜の民の亡骸が転がっている。
あれだけの魂の群れが空へ上っていく。
それだけの人やら生き物たちの、亡骸が数多く転がっている。

龍は言う、長く生きていようが短い命だろうが命の輝きはひとつも変わることはない。
最後の感情が黒かったりしているのは少し悲しいが、それが最後ではない。

龍は私を空へ、別の次元へ連れていく、私たちはもう一度だけ試されるそうだ。

いつかまた、そんな冥曜日

第一章    完

令和5年3月13日 英

ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん