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散文

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#散文

博愛

博愛主義のあなたはいつも
誰も彼もを愛するけれど
誰も彼もがあなたのように
人を愛しているとは限らない

だからあなたは幾度も
愛する人に愛されない

だからあなたは幾度も
愛する人に愛されない

見返りを求めないその悲しみを
知っているからなお愛しい

そんなあなたが見る世界
一度でも垣間見たならそのときは

あまりに悲しい幸福と
あまりに嬉しい孤独の光に
わたしは泣き崩れることでしょう

かたつむりが死んだ日から

かたつむりが死んだ日から

一日のうち、何度も死について考える。朝、目覚める前の一瞬に、もう死について考えている。空を見て、死について考える。風を感じて、死について考える。かわいい猫に触れて、死について考える。笑っているときも、泣いているときも、怒っているときも、喜んでいるときも、死について考えている。

何かが始まるのと同時に、終わりに思いを巡らせる。友人や恋人との関係が始まったとき、何よりもまず終わりを思う。朝起きて、一

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2017年は流れ星をたくさん見た

2017年は流れ星をたくさん見た

2022年を締め括ろうとする記事が、2017年の話から始まるのもどうなんだ? でも、あの年は偶然にしてはやたら多くの流れ星を見かけた。時々は願いをかけたりもした。あの頃、私には会いたくて会いたくて仕方がない人がいて、でも会いたいからといって素直に会いに行けるような自分でもなくて、いつも流れ星を見つけるたびにあの人に相応しい人間になれますようにと真剣に願うばかりだった。

偶然っておもしろい。私は偶

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ひとりでいても 百人といても

ひとりでいても 百人といても

信じたくないものばかり信じていました
信じたいものを信じもせずに

あなたの足下に咲く花と
つきぬけるような青空と

小さな世界で生きるわたしに
心の世界は誰より広いと
あなたが教えてくれた朝

あの日のあなたと同じ気持ちで
いつものように歩いていたら

長いあいだかき消えていた
わたしの世界が見えたのです

あなたは本物の悪意を信じない
わたしは本物の絶望を信じない

信じるのは子猫の温もり

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かっこ悪くていいからかっこつけない

かっこ悪くていいからかっこつけない

休日のいちばんの楽しみは朝食だあ。平日の朝はごはんを味噌汁やお茶漬けの素でチャーッとかき込んで終わりだけど、休日はラジオを聞いたり映画を見たりしながら、前日に買っておいた美味しいパンを食べる。

今日はレーズンとくるみ、紅芋と鳴門金時のブレッド。昨日の残りのシチュー。

で、わたしには先延ばし癖があるので、休日の朝はやりたいことややらなければいけないことを紙に箇条書きにしておくことが多い。

猫の

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心も晴れない雨の日は

心も晴れない雨の日は

長雨でくさくさした気分になってくる。でも雨が嫌いってわけじゃない。これはこれでいいものだ。なにも考えないで、ただじっと雨を眺めている時間もけっこう好き。

それに、雨上がりの夕暮れは街が藍色になってとてもきれい。濡れた土のにおいは子供のころから変わらない。静かな雨音に包まれていると、いろんなものが胸に染む。なんだかもの悲しくなるんだけど、それに癒されたりもする。

傘をさして散歩に行こうかなーとも

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海で目覚める

海で目覚める

朝、夢から目が覚めたとき、どうしようもなくやるせない気持ちになる。それはとても静かな気持ち。早朝の海辺の、湿った砂浜で、ひとりきりで目覚めたみたい。朝から感傷的になりすぎる。とにかくやりきれない。なにかがたまらなく恋しい。さっきまで一心同体でいたはずの、誰かの気配を感じる。寂しい、悲しいというよりも、苦しい。どこへ帰っても、帰りきれないようなホームシック。深刻な懐郷病。

本当に恋しいのはどっちな

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悲しみのなかにある笑い

悲しみのなかにある笑い

なんかもうムチャクチャな話だった。飲んだくれの私立探偵ニック・ビレーンが、行く先々で暴言を吐き散らし、女のケツを押さえようと追いかけ回し、ムカつく男がいればそいつのケツも蹴り飛ばす…。チャールズ・ブコウスキーの遺作、「パルプ」。

主人公ですら、「こんなダメな奴にケツの一蹴り以外何かを手にする資格があるのか?」と自問するくらい下品な話。それなのに不思議と、作品全体に哀愁を誘う雰囲気が漂っている。

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理由もなく ただ好きだと

理由もなく ただ好きだと

わたしがどんなにかっこよくふるまっても
かっこいいねってあなたは言わない

わたしがどんなにかわいい服を着ていても
かわいいねってあなたは言わない

ただ生きているだけでいいよって言ってくれる

わたしがどんなに優しい言葉を紡いでも
優しいねってあなたは言わない

わたしがどんなに立派なふりをしても
えらいねってあなたは言わない

ただ素敵な生き方だねって言ってくれる

あなたはかっこよくてかわい

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やりきれない

やりきれない

夕暮れ時の、あのやるせない、やりきれなさはなんだろう

なにかが間に合いそうで間に合わないような、もしかするとまだ間に合うような

いてもたってもいられない焦りと、静かな諦念がないまぜになって、せめぎあって、絶叫したくなる

ぼくはなぜいつもここにいるのだろう

世界から自分ひとりを引っこ抜きさえすれば
頭のなかは静かになるのに

安らぎと静寂が訪れるのに

ぼくはなぜいつもここにいるのだろう

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愛はいつも

愛はいつも

恋や夢に破れても

愛に破れることはない

愛はいつも叶うもの

わたしが信じているかぎり

決して裏切られはしない

愛はただ

独りでにほほ笑むものだから

わたしからあなたを憎むことは

永遠になく

わたしからあなたを失うことも

永遠にない

そう思うとこわくなかった

愛することも 孤独な日々も

ほほ笑んでいればこわくなかった

原始

原始

ただひとこと
許してくださいと言い残し
あなたは悲しすぎて鳥になった

わたしとあなたが
まだ白い小石だったころ
世界は静かで言葉もなく
つくりものめいたものはひとつもなかった

わたしとあなたが
まだ二輪の小花だったころ
風がすべてを渡らせて
あすを知りたがるひとはいなかった

あれから果てしない時間が流れ
切なく晴れわたった
初夏の静かな昼下がり

あなたの足が小石をプールへ蹴飛ばして
その指

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孤独な天使

2012年5月7日に、ぼくは自殺しました。そして目が覚めたら、ぼくは天使になっていたのです。いま、ぼくの背中には翼が生え、指の先まで内側から美しく光り輝いています。どうやらここは天国のようです。青空があり、心地のよい風があり、透明な太陽の輝きに満ち満ちています。朝があり、夜があり、もちろん美しい夕暮れもあります。ここにはみんながいます。両親や兄弟、友人や、大好きだったペットたち、あるいは、目も当て

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優しくなる

優しくなる

それでいいんだ

きみがどんどん大人になって

打算を覚えて ずる賢くなり

夢さえ忘れて 諦念を選び

無意味なことが

本当に無意味に思えても

それでいいんだ

もう素敵な詩が書けなくなっても

もう世界が青く見えなくても

あのころのきみの面影が

消えてなくなるわけじゃない

きみは優しくなるだけだ

なにもなかった孤独な世界を

はじめて照らした光のように

きみは優しくなるだけだ

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