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不水溶性な日常

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少しのこと、たくさんのこと、いっぱい考えたこと…についてのエッセイ。 あんなことやこんなことを誰かと共有できたらいいなと思っています。
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#エッセイ

【essay】 母の残像

【essay】 母の残像

母の日に寄せて…

街を歩けば、花屋の店先にさまざまな色のカーネーションが並び、広告メールには『母の日のプレゼントはもうお決めになりましたか?』という言葉が並ぶ。どちらも悪気があるものではないが、そういう母の日の状況を横目で眺めながら、「後にも先にも、私には関係ないわ」と思う。関係なさを自覚するために、少し早い母への思いを吐露してみた。
これで2024年5月12日は、知らん顔で通り過ぎることにしよ

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【essay】唐十郎という演劇人の死...

【essay】唐十郎という演劇人の死...

5月4日、唐十郎が逝った。

野暮ったい言い方で申し訳ないが…
唐十郎は私の演劇においての父であり、師匠である。
彼の芝居を観て、まだ10代だった私は心が躍り、光を見つけ、いい意味での世の中に対する反骨心が沸々と湧き出た瞬間だった。
その私の人生を変えた唐十郎というひとりの演劇人がいなくなったということの寂しさを、愕然と、唖然と、そして無気力さを感じながら訃報を読んでいる。

紅テントは異様な雰囲

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【essay】 花という名の猫のこと

【essay】 花という名の猫のこと

運命的な出会いというのは、本人が思っているほどドラマチックなことではなく、聞かされる方はどこか胡散臭さを感じることも多いのだが、運命的な出会いというのはこの世に本当に存在するものなのだろうか?
それは人と人だけではなく、人と動物、人と物などでもいいのだが、この人に会うために私は生まれてきたとか、ドラマや映画や小説などで星の数ほど描かれてきている。果たしてそれは本当に運命だったのか、単なる偶然の重な

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【essay】永遠を求めない、スープの話

【essay】永遠を求めない、スープの話

あれは、2024年があけてまだ1週間も経たない時だった。
宅配便で身に覚えのない荷物が届けられて、中身を確認してみると
『おめでとうございます。当選したました』という印刷された挨拶文とともにスープメーカーが入っていた。
その挨拶文を読んでみると、私は半年くらい前に、よく覚えていないが雑誌のプレゼントキャンペーンに応募していたらしく、それの3等が当たったらしい。それがスープメーカーだった。
さて1等

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【essay】 27歳という数字の曲がり角

【essay】 27歳という数字の曲がり角

私はもうとっくに27歳の時期は過ぎてしまった。
過ぎてしまったから、今からあれこれ考えてもしょうがないのであるが、
講談社から出版されている『わたしたちが27歳だったころ』という本を読んでいると、自分が27歳だったころのことをどうしても思い出してしまう。
『25歳はお肌の曲がり角』という化粧品メーカーのコピーが世の中の25歳前後の女性たちをヒヤヒヤさせていた時期があったり、『29歳のクリスマス』と

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映画館の隅っこで、未来をそっと夢見てた

映画館の隅っこで、未来をそっと夢見てた

【映画にまつわる思い出 with WOWOW 参加作品】

少し戸惑っていた。
私は映画に少し戸惑っていた。
今の私の素直にな気持ちである。
ありとあらゆる映画をテレビやスマホで見れる時代になった。
映画好きにとっては最大級の幸せな時代なのかもしれない。
しかし、子供も頃、母に連れられて行った映画館の子供さえも魅了する雰囲気が忘れられない。
重い扉を開けて中に入ると、外の世界と一線を画した世界がそ

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アボカド  マカロン  パンケーキ

アボカド マカロン パンケーキ

その人は有名デパートのロゴが入った紙袋の中から丁寧に包装された四角い箱を取り出しながら「お昼一緒に食べようと思いまして買ってきました」
と、少しもったいぶったような口調でその包装紙を剥がし始めた。
私は「えっ、ありがとうございます。気を使わせてしまってすいません」
と、そのお昼ごはんの中身に期待を寄せて心から礼を言った。
「これね、作りたてなのを入れてもらったのでおいしいですよ〜、これ嫌いな女性は

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トレルナプロジェクトのせまい裾野

トレルナプロジェクトのせまい裾野

何ヶ月かぶりにイオンに行った。

どうしてもイオンにしかないような日用品が必要になり、いつもの私の行動範囲とは反対方向にぶらぶらと散歩がてら歩いて行く。
一駅くらい歩くとイオンモールがある。
買い物を終えてトイレに行きたくて女子トイレの個室に入ったら、トイレットペーパーの上の方に通常のトイレにはない何やら見慣れない箱が設置されている。なんだろうと思って見つめる。
『OiTr』と表示があるその箱は女

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いつまでも たどり着けない ドアの外

いつまでも たどり着けない ドアの外

出かける時の段取りの悪さは、だいたい女房の方と昔から相場が決まっているのだが、我が家の場合はそれは亭主である。

女房は一旦外に出るとなると、心身ともにいろいろ時間がかかる。
やれ髪型が決まらないとか、予定していた服が似合わないとか、挙げ句の果てにはアイラインが綺麗な線になってない…などと言い出す。
そして何もかもなんとかサマになったところで「さて、出かけるわよ。わたくしのお出ましよ」と、一端の女

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日記の終い方

日記の終い方

かつて私は『立ち食い蕎麦を食べるように明日を迎えたい日記』という変なタイトルのブログを書いていた。
タイトルでもわかる通り、ちょっと気を衒った感じは否めないが、そこのところはまだ若かったということを考慮して見逃してほしい。
気を衒っていたわりには長く続いて11年も書いていた。
数年前にそのブログをやめたのだが、やめる時にすべてのデータを消去して手元にあった下書きなども全部消去したので今となってはど

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ー 希望、あるいは災い ー エルピス

ー 希望、あるいは災い ー エルピス

最近、テレビドラマを見なくなった。
若い頃は何ひとつ漏らすことなく見ていて、友達と「あのドラマのあれはないよね」「あのセリフはムカつく」「あのふたりやっぱ別れるのかな」「あの女優は嫌いなんだよね」などといろいろ言い合って楽しんでたのに。
見なくなった理由はわかっている。それはふたつあって、ひとつは私が大人になったこと。もうひとつはテレビ局がドラマに対して手を抜き始めたこと。大人になって自分の経験値

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Negative capability

Negative capability

今朝、ポストに中之島の精霊流しのお知らせが入っていた。
ここ数年お知らせが来ていなかったが、今年はやるのだなと思いながら、
お知らせの表に描かれた洒落たイラストを見て、目と鼻の先だが行こうかどうしようかと迷う。
中之島を流れる堂島川の周辺は、今でこそお洒落なお店やレストランやホテル、美術館などが並び、そこで遊ぶ若い人たちはこの川で昔どんなことがあったのか知る由もないだろう。
私でさえ、年配者からの

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さらば恋愛至上主義

さらば恋愛至上主義

最近のテレビドラマを見ていて思うことがある。
恋愛ドラマが疎ましい。

いまだに恋愛が人生の幸せの頂点みたいな思考でドラマを作ってらっしゃるのが不思議でならない。
これだけ多様性という言葉が普通に使用されるようになったというのに、ドラマの中だけは、『恋愛できないなんて何か性格に問題があるんじゃないの』『恋愛できない人って寂しい人ね』『素敵な人にどうやったら出会えるの』なんてセリフを若い主人公たちが

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毒気とロマンティシズム (自己紹介に代えて)

毒気とロマンティシズム (自己紹介に代えて)

それはコロナ真っ只中の春の日の昼下がり、ソファに寝転がって眠るわけでもなくぼんやり外を見ていた時だった。ニュースから流れる醜悪なセリフとは裏腹に空は爽やかに晴れていた。

「何かしよう...」
「そうだ何か書こう」
昔から書くことでモヤモヤした何かを払拭してきた経験がある。
書くことにした。

自己紹介するほど特別なキャリアも地位も何もない。
お知らせできるのは大阪のど真ん中で夫と一匹の猫との暮ら

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