見出し画像

いつまでも たどり着けない ドアの外

出かける時の段取りの悪さは、だいたい女房の方と昔から相場が決まっているのだが、我が家の場合はそれは亭主である。

女房は一旦外に出るとなると、心身ともにいろいろ時間がかかる。
やれ髪型が決まらないとか、予定していた服が似合わないとか、挙げ句の果てにはアイラインが綺麗な線になってない…などと言い出す。
そして何もかもなんとかサマになったところで「さて、出かけるわよ。わたくしのお出ましよ」と、一端の女優の如く気持ちを作るのにも時間がいる。
どうもそれらを逆算して準備を始めるということが苦手なようだ。
玄関先で待つ亭主は、「まだかよ、遅れるぞ」と文句は言うものの、本当はそんなことはとうの昔に諦めていて、「あぁ、女ってやつは…」と、決して聞こえないように小声で呟いたりしている。

この光景が逆だったらどうだろう。
私はいつも玄関先で待っている方だ。
夫は一旦着た服を「今日は思ったより暑そうだな、セーターはやめてシャツにしようかな」などと独り言とは思えないような声の大きさで言う。
「じゃ、シャツに着替えれば?」と言う私の言葉を待っているのだ。
服の次は靴で、「スニーカーじゃ軽すぎる?やっぱり革靴かな...」などと悩んでいる。
「朝10時に出発ね」と、昨夜二人して決めたのに現在の時間は10時20分になっている。お芝居や映画のように時間が決まってるわけじゃないから多少のズレは誰にも迷惑はかけやしないけど、なんでこの男は...と、心の中で腹立たしく思う。
夫の母、つまり私の義母は時間にとても正確な人だった。旅行業を生業にしていたということもあるのだろう、数分の時間さえ正確に計算して日々暮らしてらした。
その息子かこれだから親子って受け継ぐ遺伝子が違うとまったく違う性質になるのだなとつくづく思う。
ただ女と違って化粧がないのが救いだ。
今は男も化粧をする人がいる時代ではあるけど、夫はその気がないようだ。
夫が化粧を始めると時間がかかるだろうなと想像する。アイシャドウとか口紅をたくさん並べて「ねぇどれがいいと思う?」などと私に聞いてきそうな気がするのだ。想像すると身震いがしてきた。

「さっ、行こうか。お待たせ〜」と、何ごともなかったように玄関にやってきた夫。
やれやれである。
最初にこういうのは女房の方と相場が決まっていると書いてはみたが、現代は多様性の時代。男も女も関係ない。
女房?亭主?そんな総称もいらないわよね。と、言われればそれまでだが、世の中には待つ人と待たせる人がいるってことは確かなようだ。

予定より28分遅れで出かけた私たち夫婦。
さてと、28分って長いのやら短いのやら。



読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。