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KILLING ME SOFTLY【小説】124_ふつうのおんなのこだから

佐伯は私を照らす暖かい光の1つだった。
7日間に及ぶ旅行を終え、東京に戻ってからは彼女との電話で屡々救われる。


「炎上させられたのに、何の反論もしないですぐに全てのSNSを削除したのはどうかと思います。私含めファンは急に消えちゃった莉里さんのことが心配で、だから店にもかなり問い合わせ来たし、仕方なく会社側がお知らせを出して、そこでまた騒ぎになった。てかモデルやPRの仕事を中途半端に辞めたせいで借金抱えてるんですよね?幾ら外野が説明しろって喚いても、結局はそれが事実でも信じられなくて捻じ曲げた解釈かますんでしょ、永遠に認めない。しつこく追い詰めて、死んだら満足?次はなんで逃げなかったのとか言われる。アンチに殺されない為にはああするしかなかった、あくまで私の考えですけど。」


元々は熱烈なファンだが盲目的ではなく、洞察力に優れた彼女は今や冷静さを保ち、こちらの問題点をも挙げた。弁明をせずに争いを避けるとは茨の道である。


「莉里さん、だいぶ精神やられちゃってますよね。病院かカウンセリング行ってみませんか?彼氏さんが近くにいない分、せめて私が守らなきゃ。」
「さえちゃん、ありがとう。」

……〈時既に遅し〉だ。
治療や相談を提案されようと世間一般の社会人に比べれば私などスタートラインに立ったばかり、という認識が誤っているのだろうか。


以前は仕事・ライブ・遊びと休み無しでスケジュールが埋まり、帰宅後に睡眠を取るだけの、この部屋には椅子はおろか飾り気もなかった。


更に私は大掃除を進め衣類含む不要品は所謂〈フリマアプリ〉へ、僅かながらの収入を得る。
クローゼットを開け、溜息を漏らした。



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