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KILLING ME SOFTLY【小説】165_おリびアを聴きながら

追い詰められ社会的に抹殺され心の傷が残るが、尚以て暴れる夏輝と話し合うべく私は奮闘した。千暁が月末に控えた検定試験の勉強に励んでおり、その隙に出歩く。
啓裕との交際宣言やキヨタカとの不倫報道を経て多くの援助を受けられず、かつて住んでいたタワーマンションには報道関係者が詰め寄り、尚且つ実家にも帰れない夏輝が身を潜めそうな場所を記憶から探り当て、辿る。


とはいえ今夜こそ風邪を引き兼ねないと気が遠くなった瞬間、上着のフードを深く被り、擦り切れたスキニーパンツに重ためのブーツと、高身長の女性が現れ、煙草に火をつけた。
100%本人である。
「あの!」
「はー、取材はNGなんで。」
「夏輝ちゃん!」
こちらのマスク、眼鏡と変わり果てた風貌により軽く遇らわれた為、再び強めに声を掛けると、ハッとした表情で立ち止まった。


「……りーちゃん?わざわざ何、ざまあみろって?」
「そんなんじゃなくて、」
結局クソガキとくっついたんだね、教えてよ。」
数え切れない程に食事をしたり遊び回って、幾度も四季を通り過ぎ、憎しみや愛しさも感じて、支え合い乗り越えた幻の親友、しかし、亀裂が生じ木っ端微塵となり、現在はインターネットの、それも掲示板などを通じて互いの近況を知るとは惨い。


「私は夏輝ちゃんと話を、」
「何もない。突き落としといて戻れんっしょ。着拒したよね?同情?ウッザ。」
吐き捨てられ、睨まれる。
冷えも相まって凍りつけば、急に微笑まれた。
「そうだ、いっそナツとりーちゃんでまた組む?動画やろっか。」
無神経どころの騒ぎではなく、金輪際、夏輝とは分かり合えない証拠だった。


出来ねえなら、視界に二度と入ってくんな!大っ嫌いなんだよ!
投げられる言葉の威力に思わず後退りする。
本当は抱き締めたかった、けれど遅過ぎた。
泣きながら背を向け、どうにか自分の身を守る。


でも、私が夏輝ちゃんに救われたことには変わりないから。
彼女も悲しい最後に涙したのには、気付けなかった。



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