Photo by
lazy_planet
KILLING ME SOFTLY【小説】164_消えて喜ぶ者にオールをまかせるな
通常、有名人が不祥事を起こし、表舞台から消えて動画投稿サイトへ逃げるように現れた場合は記者会見よろしく畏まり各方面への謝罪をするが、夏輝は異なった。
そもそも傍若無人な彼女が契約解除に至った現在はコンプライアンスも存在せず、自身の性格、男性遍歴、黒い交友関係など過激な内容を明け透けに語っては吊るし上げられる。
夏輝のタトゥー並びにピアスは某アーティストに惚れたせいだった。雑誌やインタビューではそれぞれに意味を持つと尤もらしく説明しても、蓋を開けてみれば恋人の影響という仕様もない話であり、薬物乱用の噂も別れた後にその彼が大麻取締法違反により逮捕され、巻き込まれる。
名は伏せても舞台俳優とのロマンス、強力な後ろ盾、大物芸能人のお気に入りとちらつかせた。啓裕に対しては彼女なりに真剣で、失恋を引き摺っており、飲み友達のキヨタカと不倫を報じられたことは痛手だと嘆く。
あまりの醜態にまともなファンは幻滅を感じて続々と離れていき、代わりに幾つも爆弾を抱えた夏輝を祭り上げる野次馬が群がり、日増しにチャンネル登録者が膨らみ、最新動画にて
「え、もうすぐ10万いっちゃう？マジ？まだ半月なのに？嬉しいよ、みんなありがとね。せっかくだし、リクエストとか質問募集しまーす。コメント欄に書いといて。」
と夏輝ははしゃぎ、満面の笑みを浮かべる。
粗方、視聴すれば呆れるどころか心身が擦り減った。これから彼女はこうして生きるつもりだろうか。秘密を漏らし、画面の向こう側に話し掛け、罵詈雑言を浴びて、成功を収めようがデジタルタトゥーが刻み込まれる。言わば自傷行為だ。
ふと伊東や村井の喜ぶ姿が脳裏を掠め、私の背筋が凍る。