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KILLING ME SOFTLY【小説】135_脳ブレイキン・破り轟音

突如として刃物が頬を掠めた。粘着質なアンチかと思いきや週刊誌の記者が待ち構え、私に迫る。
「せめて一言だけでも。コメントを頂けますか、ご友人である夏輝さんに関して。キヨタカさんとの不貞行為はご存じでしたか?またはご自身に纏わる噂、など。○○ギターボーカルの菅原さんではなく一般の方と?」
まさか直撃取材とやらを受けるとは、矢継ぎ早に質問され、恐怖のあまり足が竦んだ。


急激に胸を締め付けられ、全身の震え、冷や汗が出て、パニックを起こす寸前、時折姿を見せるが奥底に封印した人格が登場する。
「〈わざわざ寒い中、ご苦労様〉です。残念ながら私がお話出来ることは何もありません。ここは住宅街ですし、そうだ。交番も近いですね?」
徐に上着のポケットから防災ブザーとスマートフォンを取り出し、有無を言わさぬ笑顔を向けてその場を離れた。


私は一貫して夏輝のことを語るつもりはない。
小走りで適当なコンビニエンスストアに逃げ込み、追い掛けては来なかったと周囲を確かめて安堵の溜息を吐き、蹲る。
「え、大丈夫!?」
居合わせた女性客に救われるも、心臓が早鐘を打ち、胃が捩れるように痛かった。


散々な目に遭い念の為、時間を空けてオートロックの部屋へ戻る際も必死に振り返り、電気を点けず千暁に電話を掛けて、泣きじゃくる。
2019年、史上最低の大晦日だった。
例え面白おかしく記事にされても、私は絶対間違ってない……多分。



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