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KILLING ME SOFTLY【小説】35_悲しさがとまらない

華々しい活躍の裏で、夏輝が広告や宣伝を目的に依頼を受け、提供されたコスメ、ダイエットサプリ等は殆ど未使用のまま私へプレゼント(こちとら企業案件にて報酬を得るインフルエンサー)。
当人は自らの〈お気に入り〉と謳いファンに向けて薦めた。


いいように使われている、とは気付けど彼女が持つ影響力や抜群の知名度により、私にまで仕事が舞い込むなどの充分なお零れを貰える、ギブアンドテイクという訳で現実から目を背けた結果が、この残酷な仕打ち。


「私もう啓ちゃんと何の関係もないよ。夏輝ちゃんと付き合ってるのも知らなくて、ホント無神経な真似した。いっぱい傷付けちゃったよね。ごめん。」
「別にいいけど、取り敢えず二度と啓ちゃんとか呼ばないでくんない?」


ダークトーンのアイシャドウに縁取られた鋭い瞳がこれ以上話すなと無言の圧力を掛ける。
やはり誤解していた。


推測は確信へと変わり、そもそも啓裕が私と同棲せず人気美容師でなければ興味すらなかったのでは、外面が良いあの男の本性を把握した上で交際しているのか、自分が一番である証拠を求めSNSにて派手に〈ご報告〉をすれば(私を含めた)他所の女にマウントを取ることも出来る、……ぶちまけたい心中をぐっと堪え、私はただ俯き、飲み物の氷が溶けていくのを待つ。


その時、千暁の顔が思い浮かんだ。
「実は今、好きな人がいるの。」
「マジ?彼氏じゃなくて?」
忽ち夏輝が身を乗り出すと、張り詰めた空気も和らぐ。



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