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虐殺、そして生と死をまたぐ愛『別れを告げない』ハン・ガン
これぞ文学という骨太のずっしり感と、読者の心の的を正確に狙った強烈な一撃のような作品だった。
文学作品は明確な答えを与えてくれない。読者という個人はそれぞれの世界を脳の中に広げていく。圧倒的な才能と技術力の強い余波が、自分の脳の中で感じられる。
斎藤真理子氏が翻訳されているハン・ガン氏の作品を読もうと思いつつ、ちょうど『別れを告げない』を手に取ったその日、偶然にもハン・ガン氏のノーベル文学賞受賞
ZINEフェス吉祥寺で出会ったひとたち、なぜひとり出版社をやるか
土曜日は、雨雲出版の何度目かのイベント出店だった。
武蔵野公会堂で開催されたZINEフェス吉祥寺は、大勢の出展者と来場者でにぎわっていた。
イベント出店のたびに多くの方と交わす会話が、雨雲出版にとってもわたし自身にとっても貴重だなぁと毎回感じている。
それぞれ、アフリカに関する思いだったり、雨雲出版のキーワードで思い起こされるご自身のことだったり。そんな言葉を交わす中で、様々なひとの人生にほん
ニューヨークの9/11メモリアルとテロのない世界
2001年9月11日、スコットランドにいた。
エディンバラ大学のアフリカ研究センターの修士課程に在籍中で、あと一週間で修士論文を提出しなければならない追い込みの時期だった。
わたしは、大学の寮のフラットを二人のアメリカ人とシェアしていた。
その日の午後、大学の寮の部屋にいたわたしたちは、アメリカからの電話で事件を知ることになる。
電話をかけてきたのは、アメリカに住むフラットメイトの親戚。
一機
ベーカリーカフェで声をかけたそのひとは、人生で必要なひとだった
もう二年近く前、お気に入りのベーカリーカフェで知らないひとに声をかけた。
その女性は、ステッカーで飾られたマックブックを広げていて、傍らには分厚い学術書らしき本が置かれていた。
アフリカンルーツを思わせる見た目に、ドレッドをきれいにまとめたお洒落なヘアスタイル。その知的なオーラと雰囲気になんだか話しかけたくなってしまい、あなたのバッグかわいいですねと声をかけてしまったのだ。アフリカンプリントのバ
鎌倉ハイキングでじん帯を損傷したら迷いが消え失せたかもしれない
二週間以上も前なのだが、鎌倉へひとりハイキングに行ったときに足を怪我してしまった。
旅に出たくて仕方がない気持ちが強すぎるのに、現在取り組んでいる小説の翻訳出版に向けた原稿で忙しく家を離れられない。
パスポートをつかんで空港から飛行機に飛び乗らんばかりの勢いだった自分をとりあえず落ち着かせようと、曇り空の平日の朝、鎌倉のハイキングコースを歩くことに決めたのだ。
東京の外に出て、緑の中にいれば気持
潜在意識の南アフリカ~ソウェト蜂起とサラフィナ!から始まるアフリカ旅
潜在意識に南アフリカがあった。
そう感じたのは、アフリカ人生を歩み始めてずいぶん経ってからのことだ。
アフリカについてほとんど何も知らなかった自分が、たまたま大した関心もなく選択した大学のアフリカ研究ゼミ。そして南アフリカの作家ベッシー・ヘッドと出会い、それ以降アフリカで国際協力の仕事をするアフリカ人生になった。
ベッシー・ヘッドに衝撃を受けた原点のまた原点をたどってみると、高校時代にあったの
遠い日の記憶を溜める廃線を歩く~碓氷峠廃線ウォーク
鮮やかな緑のなかにひっそりと闇をたたえる古いトンネル。
使われない線路が吸い込まれていく静かな風景。
SNSで流れてきたその写真を偶然目にした瞬間、これだと思った。
この場所に行きたい。空気と静けさに浸りたいと。
それは信越本線新線の横川から軽井沢へ向かう線路上を歩く、廃線ウォークというイベントの風景だった。
1997年に104年の歴史に幕を閉じたその路線は、群馬県と長野県を結ぶ山深い場所を抜
雨雲出版、文学フリマ東京38へ。商業出版と小出版の混ざり合う狭間で
遅ればせながら、先週5月19日(日)に開催された「文学フリマ東京38」へ雨雲出版として参加した記録と所感について。
雨雲出版としては、昨年11月の「文学フリマ東京37」に次いで2回目の出店となった。
前回のラインナップに加え、新刊のエッセイ本2種類を並べての参加で、出店者数1800越えの巨大イベントの賑わいで、多くの方に手に取っていただける機会だった。
出店者の中には、出版社やプロの書き手の方