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エッセイ

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今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。
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「ホームルーム」

「ホームルーム」

中学生の頃、クラスメイトに増田さんという生徒がいた。
ショートカットで大きな眼鏡をかけた増田さんは、授業中にいつも左手で眼鏡を抑え 、眉間に皺を寄せながら黒板の文字をノートに書き写していた。

「眼鏡の度数がぜんぜん合ってないんやな」

それが増田さんに対して僕が初めて抱いた印象である。
同じクラスになったのは一年生の時だけで、大して仲良くもなく喋ることもあまりなかったが、そんな増田さんを

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「星に願いを」

「星に願いを」

大阪府枚方市は七夕伝説ゆかりの街として知られている。
枚方市駅のすぐ近くを流れる一級河川の天野川は、天上の天の川になぞらえ平安歌人によって七夕にちなんだ数多くの和歌が詠まれた。
現代でも七夕イベントとして枚方七夕まつりが毎年開催され、七月七日には街中が色とりどり短冊と地元民で埋め尽くされる。

当時、僕は枚方市に隣接する寝屋川市に住んでいたので枚方の七夕まつりを目にすることがあり、その日も

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「金色の髪」

「金色の髪」

中学三年のクラス替えで、最初に席が隣になった女の子は金髪だった。
校則が厳しく男子の髪染めや整髪料は禁止されていて、女子に至ってはそれにプラスして肩にかかる髪は黒のヘアゴムで縛らなければいけなかった。
そんな厳しい校則の中で、彼女だけが何故か完全な金髪だった。校則をものともしない彼女の気合いとその風貌に恐れおののいて、他の生徒達はその姿を遠巻きに眺めるだけだったが、僕は三年になり最初に指定さ

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「夢の暗示するもの」

「夢の暗示するもの」

BARでお客さんと話していると夢の話になった。夢に詳しい男性のお客さんがいて、寝ている時に見る印象的な夢は、今の精神状態や近い未来への暗示などであることが多く、夢だからといって馬鹿にできないということであった。
すると一人の女性客が、昨晩寝ていたら大きな怪物に追いかけられる夢を見て汗びっしょりで目を覚ましたけど、何か不吉なことがあるのだろうかと不安そうに聞いた。
それは精神的に追い詰められて

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「本物のモンスター」

「本物のモンスター」

東京に住み始めてから十四年ほど経つのだが、僕のような生活をしている人間は、荷物も少なくお金もないので引っ越しを自分達で済ませてしまうことが多い。引っ越しと聞くと「手伝いますよ!」と、小遣い稼ぎに駆けつけてくれる後輩の存在も非常に心強く助かっている。

ただ一つ問題があり、僕の家には十年以上前に友人から貰った、ドラム式洗濯機という名の悪魔が鎮座しているのだ。この旧式の悪魔は、衣類を傷めず縦型の半

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「低音の響き」

「低音の響き」

「難波さん、スマホで音楽聴くイヤホンにいくらまで出せます?」

一緒にいた後輩から突然そう声をかけられた。今使ってるのはプレゼントで貰ったものだが、自分で出すなら正直三千円か出せても四千円ぐらいだと僕が答えると「僕安いの駄目なんですよねぇ〜音質とかこだわっちゃうんで」と、僕が音質にこだわりがないと答えるのを知っていたかのような反応が後輩から返ってきた。そして後輩はそこからイヤホンのうんちくを僕に

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「怪談みたいな・・」

「怪談みたいな・・」

僕がバーテンとして立つ店までは家から電車で二駅分あるのだが、雨が降ってるとか荷物が多いなど、特別な理由がない限りはなるべく歩いて行くように心掛けている。徒歩で四十分以上かかるが運動を目的とした場合はそれぐらいが丁度いい。

先日いつものように家を出発し、BARの最寄にあたる二つ目の駅近くの横断歩道を渡っていると、向かって来る人波の中から「難波さん!」と声をかけられた。顔を上げると昔ライブで一緒

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「世界一優しい完全犯罪」

「世界一優しい完全犯罪」

夏場にエアコンをつけていると男女で快適だと感じる温度にギャップがある。これは男女による筋肉量の違いであり、筋肉量の多い男性は発熱量が多く、女性よりも暑がりなのだという記事を読んだ。快適だと感じる温度は男性が25℃であり、女性は25.7℃であるとその記事には書かれていたが、これに関してはカップラーメンの値段を聞かれたある政治家が、「え〜600円くらいでしょ?」と発言したくらいズレている。
現実の生

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「キャプテン」

「キャプテン」

小学三年生になると、僕は学童を辞めてサッカー部に入ることになる。
キャプテン翼の影響でサッカーに興味を持ち、入部が許される小学三年生になって、ようやくちゃんとサッカーの指導を受けられることに、僕はワクワクしていた。それまでは団地の下で、一人壁に向かってボールを蹴るか、三〜四人の友達と狭い路地で、ただ飛んできたボールを蹴って奪い合うだけの、サッカーと呼ぶには余りにもお粗末な遊びの経験しかなかった。

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