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迷いと矛盾を踏みしめる。

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#小説

大人のスタートライン一歩前。

僕はできるだろうか。

指先は白に染まっていた。

僕より足の速い奴なんてたくさんいるし。
全国大会なんて夢のまた夢。
県大会ですら厳しい。
グラウンドに汗を滲ませても何一つ爪痕なんて残らない。

真っ白なグランドの上で僕は何もできない。

そんなことはわかってる。

だからそんなことを悩んでいるわけじゃない。

美談として語るには何もない青春を
黒板に石灰を滲ませて語れるかを悩んでるんだ。

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出汁がうまいんだよ。

”私はこんなだし。”
”僕はこうだし。”

”だから私は駄目”だなんて
言わなくていいんだよ。

誰でも弱い部分はある。
嘆きたくなるような駄目な部分はある。

でも、それってその人の本質だと思う。

君が吐いてる自分への悪口は君の旨味を増すと思うんだ。

「私こんなだし出汁、僕はこうだし出汁。」ってね。

何かに感動して
何かを恐れて
心が熱くなって湧き上がって
灰汁が溢れ出て
澄んだ出汁はその

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たまらなく不安なんだ。

「頑張れよ」って意味の大好きな作品の名言が怠惰な僕を突き上げる。

”痛いよ。”
”その名言。”
”なんだよ。好きなのに僕を不安にさせるのか。”

”まあいいよ。”
”逃げた先で刺されるとは思わなかったけど、”
”まあいいよ。”

どうでもよくなって
横になった。

時計の針とともに
心に空気が入った。

膨れ上がって出来た空白を埋めるように
甘いものを頬張った。

”痛いなあ”
”こんなことして

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君と一緒に暗闇を歩きたいと思う。

黒に何を書いても何も映らない。
黒に何を描いても何も移らない。

それでも書いて、それでも描いて、

その上に滴った涙と汗に光が差したとき
黒の上に虹色が乗る。

然有琉 湊(さあり みなと)

螺旋が回る。

紙ストローにコーヒーが染みついて
血の付いた包帯に見えた。

パソコン1台。
本は3冊。
セットを頼んで作業中。

昨日もこの景色見た気がする。

いわゆる意識高い系に見られてもおかしくない状況だけど
僕の心は低空飛行中。雲の中を飛んでいる。

読み損ねた本を家において
日曜のカフェにいる。
子連れ。カップル。老夫婦。
いろんな人がいる。

ね。集中してない。
周りばっかり見えてるんだよね。

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。きっさ

他が良かったのが君。
君が良かったのが僕。

それだけ。
それ以上はないんだよ。

飲み終えたか確認もせず
2つのコーヒーカップを捨てて店を出た。

然有琉 湊(さあり みなと)