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映画、俳句の玉手箱

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映画に関すること、俳句に関することを書いています。
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#映画感想文

人を思いやる心・パストライブス/再会

人を思いやる心・パストライブス/再会

 今年の話題作「オッペンハイマー」も「哀れなるものたち」も「デユーン・砂の砂漠2」も壮大で、ハリウッド的で、素晴らしい作品と思うものの、今回のアカデミー賞候補作のなか、「パストライブス・再会」は繊細で人が人を思う心の切なさが見事に描かれており、感心し、もっとも好きな作品でした。

パストライブス・再会 セリーヌ・ソン監督 米韓映画

 物語は12歳、24歳、36歳でのノラとヘソンの物語を軸に進んで

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幾春かけて老いゆかん~歌人馬場あき子の日々を観て

幾春かけて老いゆかん~歌人馬場あき子の日々を観て

 95歳の歌人馬場あき子さんの人間的魅力に脱帽でした。監督の田代氏の長編2本目で、ドキュメンタリー作品で、彼自身も馬場さんに魅かれ、日常を撮らせて欲しいと願ったことから映画化になったそうです。短歌のこと、知らないわたしでも楽しめました。ナレーション國村隼。

☆幾く春かけて老いゆかん~馬場あき子の日々  田代裕監督

 馬場あき子さんの93歳から94歳の記録です。コロナ禍であり、かりんの編集会議も

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「怪物」~怪物だーれだ~

「怪物」~怪物だーれだ~

「流浪の月」凪良ゆう氏の原作小説(映画版は少し違っていました)を読んだとき、繰り返された言葉「事実は真実と同じではない。ひとつの物事に対する主観と客観(世間)は大きく食い違うことがあること」というのを、この映画を観たあと、思い出しました。(「わたしの本棚25夜」より)
 早織、保利、湊の3人の視点から書かれています。同じ事象が、三人の視点によって、違った景をみせてくれます。カンヌ映画祭で脚本賞受賞

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せかいのおきく~懸命に生きる人々~

せかいのおきく~懸命に生きる人々~

 慎ましやかで、懸命に生きる人を応援したくなるような作品でした。
江戸時代末期、人民の糞便を買い取り、肥料として使う農家に売る仕事があったそうで、そんな仕事に就く若者たちと、元武家の娘の交流を描きます。  理不尽な世の中で、淡い恋愛と青春が陽気に描かれた作品で、観終わったあと希望を感じ、「そこ笑うとこでしょ」という矢亮(池松壮亮)の台詞が劇場をでたあとも元気に後押ししてくれました。

☆せかいのお

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ロストケア~声をあげる力~ 

ロストケア~声をあげる力~ 

 異次元の少子化対策も大変重要な政策ですが、高齢者の介護問題、終末医療問題もまた、これから先の増加を思うと、対策が急務で必要な問題だと思います。そんな今、介護を世に問う作品です。主演の松山ケンイチと長澤まさみ、柄本明の熱演もあり、胸に迫る展開でした。原作は葉真中顕氏。

☆ロストケア 前田哲監督作品

 42人もの高齢者を殺した介護士斯波(松山ケンイチ)。殺人でなく、被害者と家族の救済だと主張する

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「BLUE GIANT」~熱く青く光る物語

「BLUE GIANT」~熱く青く光る物語

 フジテレビの「ぼくらの時代」(2月12日放送分)に、声優を務めた3人が出ていて、面白そうな映画だな、と思っていました。ストーリーはジャズに魅せられた3人の若者の出会いから始まるのですが、ここまで、ジャズのライブをしっかり描いた映画作品はなかったんじゃないか、と思うほど、圧倒的な音響でした。上原ひろみ氏が書き下した曲を、馬場智章氏のサックス、上原ひろみ氏のピアノ、石若駿氏のドラムの演奏で。素晴らし

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「ある男」~人間に貼られたラベル

「ある男」~人間に貼られたラベル

 去年は、家に籠ることが多かったので、鑑賞本数が少ないですが、それでも観た邦画の中で、傑作だと思った作品でした。

 いろんな観方ができる作品でありますが、わたしは石川慶監督は前々作「愚行録」同様、人間に貼られたラベル、その下に潜在する差別意識についての描き方が上手いなあ、と感心しました。原作は平野啓一郎氏。

 「わたしは誰を愛していたのでしょう」という安藤サクラ演じる里枝は、自分の夫谷口大祐が

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「天上の花」~詩人を描く文芸作品

「天上の花」~詩人を描く文芸作品

☆「天上の花」片嶋一貴監督作品

 僕は、あなたを16年4カ月、思い続けてきた・・・。
 詩人三好達治と萩原朔太郎の妹慶子への愛憎を、越前三国を舞台に、達治の師である朔太郎との軍国詩論争を含めて描いた文芸作品です。
 当初懸念していた三好達治の慶子への暴力描写には少し胸痛めますが、何より細部のデイテール(背景、美術、台詞など)がその時代を見事に再現しており、タイムスリップした感覚で2時間超を過ごせ

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「マイブロークンマリコ」~天職と感じた女優~

「マイブロークンマリコ」~天職と感じた女優~

 NHKの朝ドラ女優には、「はかない、はんなり、はつらつ」の3Hが必要だ、と知人のY氏がフェイスブックに投稿されており、なるほどなあと思いました。若手女優に置き換えると3Hは、「はかない、はにかみ、はつらつ」になり、それを満たす演技力のあるのは誰だろうと考えると、わたしは一番に永野芽郁さんを思いました。
 去年公開の「そしてバトンは渡された」での主人公の演技は、そのたたずまいだけで絵になりました。

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続編について~「トップガン・マ―ヴェリック」VS「キングダム2」

続編について~「トップガン・マ―ヴェリック」VS「キングダム2」

 今年の夏、大ヒットしているふたつの続編についての感想です。トム・クルーズ主演の「トップガン・マ―ヴェリック」は、1986年公開の「トップガン」から36年ぶりの続編。一方、山崎賢人主演の「キングダム2」は、2019年の「キングダム」から3年ぶりの続編です。どちらも、ストーリーは主人公の正義が勝つといったハリウッド型で、友情とロマンがあります。そして、何より、迫力ある戦闘シーンやアクションシーンが

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75歳の生き方~「メタモルフォーゼの縁側」vs「PLAN75」

75歳の生き方~「メタモルフォーゼの縁側」vs「PLAN75」

 根が単純なので、どうしても元気をもらえる映画が好きです。公開中の「メタモルフォーゼの縁側」と「PLAN75」どちらも70代の女性が主人公のひとりなのですが、こういう風に75歳を迎えられたら素敵だなあ、と思ったのは「メタモルフォーゼの縁側」の雪さんでした。ふたつの映画の感想になります。

1.メタモルフォーゼの縁側 狩山俊輔監督

 主人公は17歳の高校生うらら(芦田愛菜)と75歳の雪さん(宮本信

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「冬薔薇」を観て~素人の願い~

「冬薔薇」を観て~素人の願い~

 俳人が好んで使う冬の季語に、「冬薔薇」があります。冬に咲く薔薇のことで、可憐に愛でる俳句が多いです。この映画の題名は、冬に咲く薔薇というより、日陰に咲く花としての冬薔薇でした。母親のセリフに「冬に咲く薔薇のこと、冬薔薇っていうんだって」がありましたが、厳しい環境のなか、咲かせようともがく意味合いが強い物語でした。

 阪本順治監督が伊藤健太郎氏の復帰作として、脚本をあて書きしたそうで、舞台挨拶の

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「ハケンアニメ!」を観て~誰かにささる作品を届ける人たち~

「ハケンアニメ!」を観て~誰かにささる作品を届ける人たち~

「ハケンアニメ!」良かったです!ベタだけど、作品の売り方、リア充、SNSの使い方などのアニメ業界の仕事話もさることながら、アニメ作品が、現実を生きる力にもなるという力強いメッセ―ジ、素晴らしかった。劇中のアニメ画像もきれい。吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子の主役4人の好演も。吉野耕平監督作品。辻村深月原作。

1.登場人物 斎藤瞳(吉岡里帆)・・・国立大卒で県庁勤務のち、七年前に王子千晴監督

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イラン映画「英雄の証明」を観て

イラン映画「英雄の証明」を観て

 アスガー・ファルハディ監督の作品は、アカデミー賞国際映画賞を受賞した「別離」「セールスマン」ともに好きで、今作品も公開を楽しみにしていました。2作品ともに、観たあと、イランの政治や法律を知らなかったこともあって、思い込みが変わってしまいました。しかしながら、根底には普遍的な人間の多面性が描かれており、人間の描き方が秀逸でした。今作品も、SNSを使ってあぶりだされる主人公ラヒム(アミール・ジャディ

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