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よすけの短編小説まとめ

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書いた小説を投稿した順にまとめています。短いのから長いの。暗いものから明るいものまで。ほっと一息つけるように。
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2022年11月の記事一覧

【短編小説】承認欲求ロボ

【短編小説】承認欲求ロボ

3,101文字/目安6分

 ボクはロボットの『ウィーン』
 大好きな博士につくってもらった。

 好きな食べ物はウィンナー。
 ロボットだけど、博士が食べられるようにしてくれた。食べると体の中で栄養が分けられて、肥料になる。これがなかなか評判いいんだ。農家のハルカさんとアキオさんが喜んで使ってくれる。
 高い値段で買ってくれるからボクも喜ぶ。これで生活に必要なものを揃えて、博士が研究に集中できる

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【短編小説】飽きちゃった

【短編小説】飽きちゃった

757文字/目安1分

 彼が寝ている側で、ワイシャツをたたむ。スーツのしわを伸ばす。ハンガーにかける。

 散らかったテーブルは昨日の夜のまま。わたしは缶に残ったお酒を一口飲んだ。ぬるくて味もない。アルコールだけがほわっと、朝の頭に効く。

 自分の部屋なのに、窮屈だな。

 音を立てないように、せまいベッドに潜り込む。彼は声を漏らすけど、すぐに寝息に変えた。

 あなたと出会ったのは、たぶん二

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【短編小説】あの日あの時僕らが見た夢の続きはたまねぎの皮と共に茶になって飲まれた

【短編小説】あの日あの時僕らが見た夢の続きはたまねぎの皮と共に茶になって飲まれた

1,596文字/目安3分

「俺たち、もう終わりだよな」

 すべてを諦め受け入れたような顔でこいつは言った。こいつとは付き合いが長い。本当に終わりだと思って言っているのが分かる。

「そうか……」

 俺は聞き入れるしかないんだと悟った。
 終わりなんて、そんなことを言われたのは初めてだ。

 初めてという言葉を意識したら、途端に嬉しくなった。

 男は最初になりたがるとはよく言ったもので、目の

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【短編小説】残業

【短編小説】残業

810文字/目安1分

 働いた働いた。
 今日も一日働いた。

 月曜日から金曜日まで、使われるように、むしろ使われにいくように働いた。
 自分の会社は別段ブラックというわけではない。残業せずに帰る人もいるし、自分より遅く残る人もいる。

 仕事は忙しい。どんどん増えて、溜まっていく。一つ終われば二つ降ってくる。

 世の中は動く。会社も動く。それに合わせて仕事が生まれていくのは当たり前。文句を

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【短編小説】隣の景色

【短編小説】隣の景色

511文字/目安1分

 自転車の帰り道。

 君が「先に行ってよ」って言うから、仕方なく前を走る。気になって後ろを向くと「ほら、危ないよ」と怒られる。

 こういう時、僕は何も言い返せない。

 道の幅は狭い。だから一列になるのは仕方がない。それでもこうしてずっと背中側ばかり見せていても、やっぱり仕方がない。君に対していつも後ろ向き。
 君はいつだって明るくて前向き。周りから頼られることが多いし

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【短編小説】東京タワー

【短編小説】東京タワー

2,022文字/目安4分

 東京タワーが嫌いだ。
 いろんなミュージシャンに歌にされて、いろんなところで言われている。東京のシンボル。エモさの象徴。なんだかもう量産型。
 いい歌がいっぱいあるのは分かっている。むしろ好きな曲が多い。東京タワーは悪くない。だからこそ嫌になる。思い入れのある人が本当にいっぱいいるんだ。そしてそれが響く人もたくさんいる。それが嫌なんだ。
 自分もその中の一つにされたよ

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【短編小説】二人きり

【短編小説】二人きり

642文字/目安1分

 先輩が一番に出社するから、自分もそうする。

 早起きは苦手。睡眠時間を削っているせいで、午後の業務に支障が出ている。なんなら少し寝ている。

 特に話したりはしない。自分が「おはようございます」と言って、先輩が「おはよう」って言う。これだけ。
 でも、他の人が来るまでの二十分くらい、先輩と二人きり。これがいいんだ。

 長い髪を下ろした姿が見られるのはこの時間だけ。プラ

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【短編小説】付き合っていく

【短編小説】付き合っていく

832文字/目安1分

 初めて気がついたのは三日前くらい。

 家の庭の片隅に、だけどリビングの掃き出し窓から見える場所で、そいつはずーっと跳ねている。
 ダルマみたいな顔をした赤いまんまるに、バネのようなものがついている。わたしは平均的な身長だけど、その腰あたり。ずっと跳ねているから、正確な高さは測れないけど、けっこう大きい。三十センチくらいのところをびょんびょんしている。

 いつからそこに

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【短編小説】ひうっふぃ

【短編小説】ひうっふぃ

1,556文字/目安3分

「読みにくいよ、これ」
 そう言って呼びかけても、姉ちゃんは答えてくれない。
「読みにくいよ、これ」
 さらに大きな声で呼びかける。
「うるさいな」
 そう言って、めんどくさそうな顔をする姉ちゃん。
「何回も言ってるじゃん」
 そう言って、姉ちゃんをにらみつける僕。
「知らないよそんなの」
 そう言って、そっぽを向く姉ちゃん。
 もうだめだ。こんなの僕だって読みたくない

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