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【短編小説】飽きちゃった
757文字/目安1分
彼が寝ている側で、ワイシャツをたたむ。スーツのしわを伸ばす。ハンガーにかける。
散らかったテーブルは昨日の夜のまま。わたしは缶に残ったお酒を一口飲んだ。ぬるくて味もない。アルコールだけがほわっと、朝の頭に効く。
自分の部屋なのに、窮屈だな。
音を立てないように、せまいベッドに潜り込む。彼は声を漏らすけど、すぐに寝息に変えた。
あなたと出会ったのは、たぶん二年ほど前。始めの頃はよく一緒に出かけた。バーやレストランが多かったと思う。自分一人じゃ行かないような場所。年上だけど、どこか頼りない。でも、仕事の話をする時はかっこよかった。
わたしはあなたの話を聞くのが好きだった。
でも、最近は違う。彼は、休みの日に予定を空けなくなった。お店を予約しなくなった。わたしの家以外で会うことはなくなった。
飽きちゃったんだよね、わたしに。
自分より大きな背中に触れるのが怖い。
ほどなくして、あなたは目を覚ました。スーツを着て支度を始める彼に、たまらなくなって投げかける。
「ねぇ、わたしのこと、好き?」
「好きだよ、どうして?」
「ううん」
あなたはわたしと目を合わせない。きっと、わたしの気持ちには気づかない。いや、目を背けて知らんぷりしているんだ。
「行ってくる」
ぶっきらぼうにそう言って、あなたはわたしにキスをした。
そんな風にしないでよ。
分からなくなる。
涙は、出ない。
好きな食べ物が違っても我慢するから。
平日しか会えなくても我慢するから。
会えるのがわたしの家だけでも我慢するから。
部屋で煙草を吸うのも我慢するから。
何番目でも我慢するから。
もう一度だけでいいから。
わたしを見てよ。
彼が出て行った部屋は、ぽっかりと穴があいたように広く感じる。ここにいてはいけない感覚で埋め尽くされていく。今のわたしの部屋。
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