北欧の幸せ哲学「LAGOM(ラーゴム)」って何? ちょうどよい暮らしの工夫とは
「多すぎず、少なすぎず。この『ちょうどよい』という感覚が幸せのベースにあるのか」
世界幸福度ランキングの上位を占める北欧諸国。その中のスウェーデンは2021年のランキングでは7位に位置しています。以前、noteの記事でデンマークの「ヒュッゲ」について記事をまとめました。
今回はスウェーデンの文化に流れる幸せの法則についてまとめてみます。キーワードは「LAGOM(ラーゴム)」です。
「私にとって、ちょうどいい」が最優先
今回参考にした書籍があります。ロンドン出身の心理学者ニキ・ブラントマークさんの著書「LAGOM」です。帯には「自分のペースで人生を楽しみたいあなたへ」という言葉があります。これ、誰もが関心のある言葉かと思います。
著者のニキ・ブラントマークさんはロンドン出身ですが、結婚を機に旦那さんの母国であるスウェーデンに移り住みました。スウェーデンでの「ラーゴムな毎日」は、それまでの忙しく慌ただしい生活から打って変わって、忘れかけていた「穏やかな充実感」を取り戻させてくれたそうです。
表紙にある言葉がこの本の最重要キーワードです。
「私にとって、ちょうどいい」
この「ちょうどいい」という感覚こそが幸せに生きるためのキーワードです。この本には280ページにわたって、頑張りすぎない、持ちすぎない、捨てすぎない、といった日常生活をとても心地よく、バランスをとるための工夫が満載の一冊です。
挿絵のイラスト、写真、全てがおしゃれで優しく、北欧独特の美的センスでまとめられています。世の女性はみんな気に入るのではないかと思います。私もこの本にすっかり魅了されました。
LAGOM(ラーゴム)とは
そもそもLAGOM(ラーゴム)って何でしょうか?日本に住んでいると聞き馴染みのない言葉です。これはスウェーデン人の心に深く根付いた概念です。
LAGOM=ちょうど良い。つまり多すぎず少なすぎない。
つまりは、自分にとって、ちょどいいバランスを見つけるということ。使い方としてはこんな感じ。
・いい湯加減→「ラーゴムなお湯」
・適切な働き方なら→「ラーゴムに働く」
・はき心地のいいズボンなら→「ラーゴムなズボン」
もともとの語源は、ヴァイキングたちの言葉だそうです。「Laget om(ラーゲット・オム)=仲間と分け合う」から来ていると言われています。当時、輪になって蜂蜜酒を回し飲みするときに、それぞれがちょうどいい量を回し飲むという習慣がありました。これは全員が同じ量を飲むのではなく、少なくていい人もいるし、多めに飲みたい人もいる。全員に行き渡るように全員がちょうど良い量だけ飲むようにしていたそうです。
誰かにだけ溜め込んだり、逆に誰かが足りなくなったりしないようにする。全体の調和の中で、自分に丁度よいバランスを見つける、という価値観のことをLAGOMと表現するそうです。とても素敵な考え方ですね。
スウェーデンで有名な企業で我々の身近なもので挙げられるのはIKEAがありますね。その商品ラインナップを見ても、なんとなくLAGOMな印象を受けることができます。過度なデザインではなく、一方でダサくもない。丁度よいデザインと機能と価格。
また、私も長年愛している車メーカーのVOLVOもスウェーデン初。自動運転のテクノロジーが完成する随分前から、VOLVOの新車による死亡事故をゼロにする、という車メーカーとしては非常に難度の高いビジョンを掲げている企業です。華美な装飾はなく、10年経っても全く廃れない普遍的なデザインと機能と安全性は素晴らしいの一言です。正に私にとってちょうどよい車になっています。
日本的な側面を持つスウェーデン
この「LAGOM=ちょうど良い」という概念、はじめて知ったとき、とてもしっくり来る感じがしました。それは私だけではないように思います。日本にも「もったいない」精神や、足し算ではなく引き算の美意識などがあります。精神性含めて、この「ちょうどよい」という概念に親近感を持ちやすいのではないかと思います。
海外のライフスタイルというと、特にアメリカに代表するような生活スタイルはいわゆる日本人的な感覚との違いを感じることが多いですよね。そんな中でもスウェーデンに対しては、欧州でありながらも身近さを感じます。
その際たるものが「家の中では靴を脱ぐ」という習慣。この習慣にも本書では紹介されていますが、驚きを持って紹介されています。それもそのはず著者はロンドンで生まれ育った方です。我々日本人からすると、「当然」と思えますよね。
本書では「靴のまま家に入ることは靴底のサルモネラ菌、大腸菌などの様々な病原菌、動物の排泄物由来の細菌を持ち込まないのが良い。ヒールのコツコツ音も響かないので大いに感謝されます」などと説明があり、逆にちょっと笑ってしまいました。
他にも、「時間に生真面目」、「激しい自己主張が苦手」、「質素さや素朴さに美を感じる」といった面は、日本にも通じるものがありますよね。
そんな親近感を持ちやすいスウェーデンで営まれているラーゴムな暮らしは、きっと日本人の我々にも取り入れるヒントが満載です。
ラーゴムな暮らしをしましょう
本書では、家の中(インテリアや省エネ活動)、仕事、休暇、お祝いごと、人間関係、など日常生活のあらゆる面において、ラーゴムに暮らすヒントがたくさん紹介されています。ごく一部ですが、いくつかご紹介します。
新しい方がいいとは限らない
スウェーデンでは初めて来たお客さんに家の中を案内する習慣があるそうです。いろんな人の家を見ていると、家具の取り合わせのセンスの良さを感じることがあるとのこと。古いものと新しいもの、ヴィンテージのものとモダンなものの配置のバランスに感動したり。
北欧の華やかさだけではない、統一感も考えられたインテリアは想像できますね。そしてスウェーデンでは家を心地よく、独特の魅力をもたせるのはヴィンテージのものではないかと思われているそうです。そこには物語を感じられるのと、環境に良いことをしているという気分にもなれます。
中古品は格安で手に入りますが、「ある人にとってはいらないものでも、他の人にとっては宝」です。新しいものが良いとは限らないということですね。
私も先日、新機能に踊らされてちょっと失敗したことをnoteで書きました。必要最低限の機能をシンプルに生活に取り入れるのがよいですね…。
工夫を楽しむ
スウェーデン人の創造力には本書の著者も絶賛しています。モノを生まれ変わらせたり、イチから作り出す名人だとか。アートや工作はスウェーデン人のDNAに刻み込まれているのかもしれません。
幼いときから親がいろんなものを手作りし、学校でも裁縫、料理、工作を習うので技術に磨きがかかるのだとか。ものづくりには多くの気付きがあるだけでなく、そのことに集中するマインドフルな時間でもあります。ひいてはそれが癒やしにもなり、精神的な充足感にもつながります。
本書では様々なものを手直しする方法、作り変える方法(電球を花瓶に変えるなど)が紹介されていて面白いです。
心地よく、より自然に近づく
ミニマリズムはともすると冷たい印象を持たれがちですが、スウェーデンはそこも工夫で魅力的に見せて来ます。その秘訣は自然を取り入れることです。スウェーデンの家の中には自然のそざいがたっぷりと取り込まれています。
木の皮、フェルト、ウール、石など手触りのよいもの達です。この「手触り」に意識を向けるというのは、ちょっと自分にはなかった感覚なので、意識的に取り入れたいと思いました。こうした自然素材のモノたちは、不思議なほど生活にあたたかみをもたらしてくれるそうです。
ひと休みする
フィーカという言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。これはコーヒーとちょっとしたお菓子を食べて談笑する休憩時間の過ごし方のこと。
勤務時間中にもフィーカパウズ(=コーヒーとおやつの休憩)を設けるのがスウェーデンでは一般的です。おしゃべりはフィーカパウズで、それ以外の時間は集中して仕事をします。休憩を定期的にとったほうが、集中力が増し、頭痛や腰痛といったトラブルも減りますよね。
また、人と一緒にいると楽しいばかりではありません。ストレスは人間関係から生まれることがほとんどですので、ひとりの時間をしっかり取ることも重要です。フィーカの時間をしっかり持つことで、適度な人との距離感を保ちながら、自分の時間を充実させることができます。
終業時刻になったら「楽しい夜を!」と声をかけあって帰るそうです。仕事が終わったあとの時間もちゃんと充実させる。買い物や余暇の時間をとれるので「きちんと生活している」と感じられ、それが日々の仕事の生産性アップにつながるそうです。
まとめ
今回はスウェーデンの幸せ哲学「LAGOM」を取り上げました。この記事を書いて、改めて「バランス」の大切さを感じます。やりすぎも駄目ですが、やらなさすぎも駄目。特に日本人はやりすぎ、頑張りすぎの傾向が多いのではないでしょうか。
そうではなく「ちょうどいい」具合を意識して、意図的に力を抜く工夫が必要だと感じます。
そして、このLAGOMの語源にある「仲間と分け合う」という価値観も大切ですね。自分だけが幸せになるのではなく、調和の中で自分も周りも幸せになる良いバランスを見つける。この感覚を持つことは幸福度を上げる重要なポイントなのではないかと思います。
この記事では本書の魅力を1割も伝えられていないかもしれません。それほどに、魅力の詰まった一冊です。幸せに、穏やかに、そしてシンプルに毎日をおくりたいと思っている方には超オススメの一冊です。ぜひ「LAGOM」を手にとって、味わってみてはいかがでしょうか。
多すぎず、少なすぎない。ちょうどいいバランスを日々の生活で意識していきましょう。
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