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サラリーマン研究者、理学博士。哺乳類進化や生命科学に関わることを書いていきたいと思って…

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サラリーマン研究者、理学博士。哺乳類進化や生命科学に関わることを書いていきたいと思っています。 (https://blog.goo.ne.jp/wakaby)。

記事一覧

有胎盤哺乳類の詳細な系統樹と分岐年代 - Science (2023) ズーノミア特集より(哺乳類の進化15)

Science誌に掲載されたズーノミア特集から、まずは、有胎盤哺乳類の詳細な系統樹を作成し分類群の分岐年代を推定した論文を見てみます。 原著論文:A genomic timescale f…

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3週間前
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哺乳類の進化14 - Science, 2023, ズーノミア特集①

「哺乳類の進化」シリーズで、論文紹介を約2年ぶりに再開することにしました。以前は、gooブログに掲載した記事をこちらに転載する形を取っていましたが、今回から、noteオ…

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1か月前
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哺乳類の進化13‐書籍紹介「哺乳類学(小池伸介,佐藤淳,佐々木基樹,江成広斗)」

哺乳類学の日本語の教科書としては約20年ぶりの著書になるらしい。内容は、いい意味でもそうでない意味でも、「日本の」哺乳類(学)の教科書である。日本の哺乳類について…

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4か月前
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哺乳類の進化12‐書籍紹介「看取り犬・文福 人の命に寄り添う奇跡のペット物語(若山三千彦)」

老人ホームで亡くなる方を看取る犬がいるというネット記事を読んで、調べてみたらその犬「文福」について書かれているこの本に行きつき、中古ですぐ購入した。新品は品切れ…

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5か月前

哺乳類の進化11‐書籍紹介「共感革命:社交する人類の進化と未来(山際壽一)」

これはレビューするのが難しい。読む前の期待が大きすぎた。京大霊長類学派は、近年の不祥事で評価がガタ落ちしてしまったが、知名度も高く良識ある山際氏がそれをどれだけ…

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8か月前

やぶ医者が町から消えない理由を棲み分け理論で考えてみた

みなさんも、病気やケガをして町のクリニックにかかるとき、よい先生(良い診断と良い治療をしてくれて、できれば親切な先生)に出会えることを望むのではないかと思います…

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8か月前
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哺乳類の進化10‐書籍紹介「進化で読み解く バイオインフォマティクス入門(長田直樹)」

企業で生物医学系の研究の第一線から離れて5年、今は研究開発の管理業務を担当するようになり、さらにあと1年で定年である。しかしこれからも、研究のフィールドで何か新し…

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9か月前

遺伝子検査をやってみたが、健康実感とどれだけ符合しているのだろうか?

唾液を郵送で送るだけで比較的リーズナブルな価格で遺伝子検査を受けられる世のなかになりました。体質や病気に関わる遺伝子のSNP(一塩基多型)を調べることで、様々な体…

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11か月前

哺乳類の進化9‐書籍紹介「人間の由来・下(チャールズ・ダーウィン)」

チャールズ・ダーウィンによる1871年の著、「The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex」の下巻である。上下巻を合わせた「第Ⅰ部 人間の由来または起源」の…

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1年前
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哺乳類の進化8‐書籍紹介「人間の由来・上(チャールズ・ダーウィン)」

本書はチャールズ・ダーウィンによる1871年の著、「The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex」の長谷川眞理子氏による日本語訳である。当初、日本語訳は1999…

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1年前
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腸内菌叢を調べてみた

近年、腸内菌叢と健康や病気との関係の研究が進んでいます。そして、自分の腸内菌叢を調べてもらえるサービスもだんだん普及しつつあります。最近たまたま、自分の腸内菌叢…

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1年前
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直腸がんと食生活

坂本龍一氏が直腸がんとその転移がんのため、亡くなられました。2020年に直腸がんが見つかったときは、ステージ4という、5年生存率15%の段階に来ていました。 かくいう私…

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1年前
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哺乳類の進化7‐書籍紹介「人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」(篠田謙一)」

スバンテ・ペーボ博士が、「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞したのが、2022年10月だった。本書はまさにこの分野ーゲ…

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1年前
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哺乳類の進化6‐書籍紹介「哺乳類前史: 起源と進化をめぐる語られざる物語(エルサ・パンチローリ)」

著者のエルサ・パンチローリ氏はイギリスの若手古生物学者である。名前にパンチがきいているので、はじめ男性だと思っていたが、本を読んでいくと途中で女性であることがわ…

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1年前
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哺乳類の進化5‐シュプリンガー・ネイチャー社の推す2021年進化生物学論文

ネイチャーとその姉妹紙の他、多くの学術雑誌を出版しているシュプリンガー・ネイチャー社が、2021年の研究ハイライトとして各分野9報ずつ論文をリストアップしました。そ…

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2年前
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哺乳類の進化4‐食糧獲得にかかる時間とエネルギーの効率

現代は飽食の時代などとよばれ、食糧は苦労せずに好きなだけ得ることができる状況になりました。それによって、食べすぎによる肥満や様々な生活習慣病といった弊害が問題化…

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2年前
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有胎盤哺乳類の詳細な系統樹と分岐年代 - Science (2023) ズーノミア特集より(哺乳類の進化15)

有胎盤哺乳類の詳細な系統樹と分岐年代 - Science (2023) ズーノミア特集より(哺乳類の進化15)

Science誌に掲載されたズーノミア特集から、まずは、有胎盤哺乳類の詳細な系統樹を作成し分類群の分岐年代を推定した論文を見てみます。

原著論文:A genomic timescale for placental mammal evolution. Foley et al., Science 380, 365 (2023)

ズーノミア・プロジェクトで新たに解析された種を含む、241種の有胎盤哺

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哺乳類の進化14 - Science, 2023, ズーノミア特集①

哺乳類の進化14 - Science, 2023, ズーノミア特集①

「哺乳類の進化」シリーズで、論文紹介を約2年ぶりに再開することにしました。以前は、gooブログに掲載した記事をこちらに転載する形を取っていましたが、今回から、noteオリジナル、noteのみで公開していく予定です。

哺乳類進化の大規模な研究として、米国でズーノミア(Zoonomia)というプロジェクトが進められています。動物園で飼育されている各種の哺乳類から遺伝子を回収してゲノム解析を行ない、ヒ

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哺乳類の進化13‐書籍紹介「哺乳類学(小池伸介,佐藤淳,佐々木基樹,江成広斗)」

哺乳類の進化13‐書籍紹介「哺乳類学(小池伸介,佐藤淳,佐々木基樹,江成広斗)」

哺乳類学の日本語の教科書としては約20年ぶりの著書になるらしい。内容は、いい意味でもそうでない意味でも、「日本の」哺乳類(学)の教科書である。日本の哺乳類についてどういうことが知られているのか、どういう研究が行われているのかということが中心に書かれているので、世界的な研究動向といった視点での記載ももちろんあるが、比較的少ない印象である。構成は、進化、形態、生態、保全の4部に分かれていて、それぞれが

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哺乳類の進化12‐書籍紹介「看取り犬・文福 人の命に寄り添う奇跡のペット物語(若山三千彦)」

哺乳類の進化12‐書籍紹介「看取り犬・文福 人の命に寄り添う奇跡のペット物語(若山三千彦)」

老人ホームで亡くなる方を看取る犬がいるというネット記事を読んで、調べてみたらその犬「文福」について書かれているこの本に行きつき、中古ですぐ購入した。新品は品切れのようだ。文福という犬の行動、とくに共感力についての貴重な記録として読ませてもらった。「文福」だけでなく、ホームにいる他の犬や猫たちの愛情深い、死に行く人に対する共感的な行動についても書かれている。横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの

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哺乳類の進化11‐書籍紹介「共感革命:社交する人類の進化と未来(山際壽一)」

哺乳類の進化11‐書籍紹介「共感革命:社交する人類の進化と未来(山際壽一)」

これはレビューするのが難しい。読む前の期待が大きすぎた。京大霊長類学派は、近年の不祥事で評価がガタ落ちしてしまったが、知名度も高く良識ある山際氏がそれをどれだけ挽回してくれるのか?「共感」はまさに諸刃の剣で現代において重要なキーワードだと私も感じていたので、どれだけ素晴らしい科学的論理展開を示してくれるのか?そのような過剰な期待があったので読んでみたのだが、申し訳ないが期待ほどではなかった。書かれ

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やぶ医者が町から消えない理由を棲み分け理論で考えてみた

みなさんも、病気やケガをして町のクリニックにかかるとき、よい先生(良い診断と良い治療をしてくれて、できれば親切な先生)に出会えることを望むのではないかと思います。言葉はわるいですが、「やぶ医者」にはかかりたくないというのが本音ではないでしょうか。ところが、なかなかそう思い通りにならないのが現実です。

すこし私と家族の例をあげてみます。1つ目。私は頭痛持ちで、その原因の一つが副鼻腔炎であることがわ

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哺乳類の進化10‐書籍紹介「進化で読み解く バイオインフォマティクス入門(長田直樹)」

哺乳類の進化10‐書籍紹介「進化で読み解く バイオインフォマティクス入門(長田直樹)」

企業で生物医学系の研究の第一線から離れて5年、今は研究開発の管理業務を担当するようになり、さらにあと1年で定年である。しかしこれからも、研究のフィールドで何か新しいことを見つけてみたいという気持ちはある。そんな状況で一人でもできることは、自然観察のような生態学的研究か、バイオインフォマティクスを使った進化学的研究だろうと考えた。バイオインフォマティクスの分野ならプロでなくても、家のパソコンとネット

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遺伝子検査をやってみたが、健康実感とどれだけ符合しているのだろうか?

唾液を郵送で送るだけで比較的リーズナブルな価格で遺伝子検査を受けられる世のなかになりました。体質や病気に関わる遺伝子のSNP(一塩基多型)を調べることで、様々な体質や病気のなりやすさの傾向が判定できるというものです。たまたま私もこれを受ける機会が最近ありました。で、結果を見たのですが、予想とだいぶ違っていたのです。つまり、身体の中で強いところ弱いところを自分としてそれなりに自覚しているのですが、そ

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哺乳類の進化9‐書籍紹介「人間の由来・下(チャールズ・ダーウィン)」

哺乳類の進化9‐書籍紹介「人間の由来・下(チャールズ・ダーウィン)」

チャールズ・ダーウィンによる1871年の著、「The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex」の下巻である。上下巻を合わせた「第Ⅰ部 人間の由来または起源」の約300ページと「第Ⅱ部 性淘汰」の約700ページのうち、性淘汰の後半部分約500ページが下巻に入っている。最後に「全体のまとめと結論」の章があって、訳者の長谷川眞理子氏による解説が付

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哺乳類の進化8‐書籍紹介「人間の由来・上(チャールズ・ダーウィン)」

哺乳類の進化8‐書籍紹介「人間の由来・上(チャールズ・ダーウィン)」

本書はチャールズ・ダーウィンによる1871年の著、「The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex」の長谷川眞理子氏による日本語訳である。当初、日本語訳は1999-2000年に「人間の進化と性淘汰」として刊行されているので、「人間の由来」より、そちらのほうがタイトルとしては的確である。その時代におけるダーウィンの先見性や、これでもかといわん

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腸内菌叢を調べてみた

近年、腸内菌叢と健康や病気との関係の研究が進んでいます。そして、自分の腸内菌叢を調べてもらえるサービスもだんだん普及しつつあります。最近たまたま、自分の腸内菌叢を調べてもらう機会がありました。

腸内菌叢の良し悪しや状態はどうやって判断するのでしょうか。一つ目は腸内菌叢の多様性が高いか低いか、二つ目はどういった菌で構成されているかというエンテロタイプ、三つ目は善玉菌や悪玉菌の量、といったところが判

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直腸がんと食生活

坂本龍一氏が直腸がんとその転移がんのため、亡くなられました。2020年に直腸がんが見つかったときは、ステージ4という、5年生存率15%の段階に来ていました。

かくいう私も、2020年に直腸がんの手術を受けました。ステージ0という初期段階にあり、5年生存率は98%です。しかし、病巣が肛門の近くだったため、肛門を温存するために、がん病巣をごっそり切り取るのではなく、部分的に切除する方法が取られました

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哺乳類の進化7‐書籍紹介「人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」(篠田謙一)」

哺乳類の進化7‐書籍紹介「人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」(篠田謙一)」

スバンテ・ペーボ博士が、「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞したのが、2022年10月だった。本書はまさにこの分野ーゲノム解析による進化人類学ーの現在の知見をまとめた本であり、こうした学術的なかたい内容の本としては、ずいぶんと売れたようである。帯には「ノーベル賞で話題!」と書かれていて、ペーボ博士の業績はどうすごいのか、いかに革新的だったのかといった

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哺乳類の進化6‐書籍紹介「哺乳類前史: 起源と進化をめぐる語られざる物語(エルサ・パンチローリ)」

哺乳類の進化6‐書籍紹介「哺乳類前史: 起源と進化をめぐる語られざる物語(エルサ・パンチローリ)」

著者のエルサ・パンチローリ氏はイギリスの若手古生物学者である。名前にパンチがきいているので、はじめ男性だと思っていたが、本を読んでいくと途中で女性であることがわかる。現在、オックスフォード大学のリサーチフェローなので、いわゆるポスドクということで、本来ならどんどん研究成果=論文を出すことに集中して、パーマネントの職を得ることを目指す時期だと思われるが、こんな大著の本をよく書けたものだと驚いた。5カ

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哺乳類の進化5‐シュプリンガー・ネイチャー社の推す2021年進化生物学論文

哺乳類の進化5‐シュプリンガー・ネイチャー社の推す2021年進化生物学論文

ネイチャーとその姉妹紙の他、多くの学術雑誌を出版しているシュプリンガー・ネイチャー社が、2021年の研究ハイライトとして各分野9報ずつ論文をリストアップしました。その中から、進化生物学分野で推されている論文9報を紹介します。今回は哺乳類に限定しないで、進化生物学全体で今注目されている研究は何かを見ていきたいと思います。9報について、タイトル、雑誌名、私のかんたんな説明を書いてみました。

①「SA

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哺乳類の進化4‐食糧獲得にかかる時間とエネルギーの効率

哺乳類の進化4‐食糧獲得にかかる時間とエネルギーの効率

現代は飽食の時代などとよばれ、食糧は苦労せずに好きなだけ得ることができる状況になりました。それによって、食べすぎによる肥満や様々な生活習慣病といった弊害が問題化しています。しかし、類人猿からヒト、そして現代人への進化の長い過程においては、食糧の獲得はそんなに簡単なものではありませんでした。そして、食糧獲得方法の変化がヒトの進化を推し進める原動力になったとも考えられています。

食糧獲得にかかる時間

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