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非行

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息子の非行の日々
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#親

続 久しぶりの次男のこと

続 久しぶりの次男のこと

次男の家に果物を届けた日。
次男の身体をマッサージしながら、ふと私の目に入ったもの。

テーブルの下に置かれた妊娠検査薬。

うつぶせのままの次男に聞く。

『…この妊娠検査薬なんなん。
どうしたん?彼女赤ちゃんできたん?』

『………』

『赤ちゃんできたん?』

『………』

黙っているので腰をパチパチ叩いて返事を待つ。

『…………。 …そやなぁ…できたなぁ。』

『いつ分かったん。』

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悲しい思い出

悲しい思い出

次男の交通違反が続いた頃からまたうまくいかない。
仕事のお弁当の有無を聞いてもちゃんと返事しない、
起きる時間を聞いてもはっきり聞こえない、
夕食の有無を聞いても黙っている、
おはよう、おかえり、おやすみを言ってもすべて無視。

肉体労働でしんどいのかもしれないが目に余る勝手さだった。返事がないなら作らない、起こさない、を宣言し貫けばよかった。

あの頃の私には毅然とした態度が足りなかった。
こう

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いつもこうなる我が家

いつもこうなる我が家

案の定、財布のお金が減った。

夫はそうなることが予想できていたのか怒ってはいなかった。
ただ、自分の勘違いではないことを確認したかったのだと思う。
夫は見て見ぬふりをする人ではない。
次男の部屋へ話に行った。

前からお金が減っていると思っていたこと。
あえて財布を置きっぱなしにしたこと。
家族しかいない家でお金がなくなるとしたら次男しかいないということ。
人の財布から金をとるな、そんな

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怖かった世間

怖かった世間

仕事を辞め、だらけた生活はひと月ほど続いた。

とにかくあの頃は次男が何もせずプラプラすることを受け入れがたかった。

このまま仕事も学校も彼女もいない次男がどうなって行くのかが不安だった。
次男ではなく私自身が不安だった。

息子さん何してるの?と世間に思われている気がしていた。
世間って何だろうと思う…。
結局、ただの近所の目が世間なんだろう。
私は誰に対して良く思われたかったんだ

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祖母の面会

祖母の面会

次男の少年院での生活は続いていた。
私は書けるだけ手紙を書き、面会も欠かさなかった。

次男からの手紙には
[前略、拝啓、ご自愛ください]などの文字が強い筆圧で丁寧に書かれていて、こんなに上手に字が書けたんだなと思った。

普段使わない言葉への違和感と次男の学びを感じながら何度も読み返した。

「面会の時、駐車場に停まっているうちの車が見えました。一緒に乗って帰れたらどんなにいいかと思いま

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少年院の運動会

少年院の運動会

小学校の運動会は両祖父母も揃っていつも賑やかだった。
中学校の運動会は遠くから写真を撮っただけで終わった。
中退した高校の運動会では無視された。

少年院の運動会は未経験だ。私は1人で参加した。 写真に残すことも許されない運動会。

北朝鮮の軍隊のように揃った動きで出てきた子どもたちを見た瞬間、涙があふれた。
金髪で暴言を吐きまくっていた子がどうやったらこんなふうになるんだろ

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少年院へ

少年院へ

少年院。
社会生活の中では更生が難しいと判断された子どもたちが行く矯正施設。罰ではなく更生するための教育を受けることを目的としている。

家庭裁判所での審判で次男は県外の少年院へ行くことが決まった。

自宅から遠く離れた静かな場所だった。

はじめて面会に行った日。
大きな建物の中は静かだった。
入り口には卒院生の絵などが飾られている。
独特の雰囲気がある。

我が子に会うために身分証

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怒り

怒り

ピリついた毎日だった。

保護観察中の分際で、遅くまで帰らないこと、仕事に寝坊すること、次男の態度の悪さに夫はイライラしていた。

「やりたいことをやるなら筋を通せ」という夫のまっすぐ過ぎる正論は正しかった。

そして正論では伝わらないことが山ほどあり、言葉でねじ伏せても効果はないように感じた。

次男はあまりしゃべらなかった。
というより、話してもどうせ聞いてもらえないことを感じ

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15歳で社会に出る

15歳で社会に出る

次男は知人の会社で働き始めた。

肉体労働はきつかったと思うが丈夫な身体を生かして働いた。

大人の中で働くことで自分も大人になったような嬉しい気持ちだったのかもしれない。

実年齢より上に見られることを嬉しがっていた。

鏡の前で腰袋を装着し工具を入れたり出したりしていた。

新しいランドセルが届いた時も鏡の前で嬉しそうに、からったり下ろしたりしていたなと思う。

嬉しい時に

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入学と退学

入学と退学

次男は高校に入学した。

制服のブレザーを着崩して少しだけ大人っぽい雰囲気に見えた。

勉強を頑張って欲しいとか、部活で活躍して欲しいとか、どんなところに勤めて欲しいとか、何もなかった。

ただ青春を過ごして欲しかった。

満開になった桜を背にして学校へ行く次男をベランダから見送った。 自転車で学校へ行く。

ただそれだけのことが私には充分すぎる景色だった。

入学してひと

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はじめての鑑別所

はじめての鑑別所

鑑別所がどんな所なのか知っている人はどのくらいいるのだろう。

鑑別所というのは、罰を与える場所ではなく文字通り子どもの心身を鑑別するところだった。

どんな事件を起こしたかということの調査もされるが、本人の資質や経歴、育った環境などを専門家が詳しく調べていくような施設だ。

親は家庭裁判所へ呼ばれ調査をされる。
小さい時にはどんな子どもだったか、祖父母との関わりなどにも遡り、家族構成、育

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