少年院の運動会
小学校の運動会は両祖父母も揃っていつも賑やかだった。
中学校の運動会は遠くから写真を撮っただけで終わった。
中退した高校の運動会では無視された。
少年院の運動会は未経験だ。私は1人で参加した。 写真に残すことも許されない運動会。
北朝鮮の軍隊のように揃った動きで出てきた子どもたちを見た瞬間、涙があふれた。
金髪で暴言を吐きまくっていた子がどうやったらこんなふうになるんだろう。
それだけ更生したのか、それだけ厳しい場所なのか。
はじまりのラジオ体操から驚いた。
こんなに飛ぶの?あんな高さまで?
プログラムの最初とは思えない、体力を一切残さないような気合の入ったラジオ体操は今でも目に焼き付いている。
心に残っているのは親子競技だった。
これをするために運動会を開催している思った。
スタートと共に、次男がハイハイをする格好で私の方に猛スピードで近づいてくる。
私は「こっち!こっち!」とガラガラのおもちゃを鳴らして次男に声をかける。
私の前に到着した次男と一緒に走り、最後は私をおんぶしながら走ってゴールする。
おぶわれている時の安定さで次男の身体が大きくなったことが分かる。
分かりやすく体の触れ合いをした。
照れる暇もないほど盛り上がった時間だった。
次男に触れたことが嬉しかった。
そして私よりも夫にさせてあげたかったと思った。
夫は子どもが小さい時からプロレスや野球などはしていたが、頭を撫でたり手を繋いだり抱きしめたりということをあまりしなかった。そういうのが得意ではなかった。
運動会が終わった後は支給されたお弁当とおやつを一緒に食べた。
少年院にいるとは思えない和やかな時間を過ごし、私のおやつを全部あげる程度の甘やかしをして帰った。
…親の来ていない子も数人いた。
職員と親子競技をしたり食事をしていた。
こんな日には、こんな日こそ、
親にいて欲しいだろうなと勝手に思った。
こんな正論が人を傷つけていることがある、と今は思うようになった。
来られない親がいること、想像しきれない現実があって、そこに至るまでたくさんの事情がある。
子どもが少年院に入るような経験をして、私自身も物事を違う角度から見るようになった。
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