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エッセイ

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気楽に書いた、気軽に読めるエッセイです。
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2021年10月の記事一覧

ワインの海

ワインの海

赤ワインを満たしたグラスを脇に置きながら本を読んでいた。また一口飲もうとグラスに手を掛けると、小さな虫がワインの海に浮かんでいるのが見えた。そういえばさっきまで八の字に飛ぶ虫が時々視界に入っていたような気がする。

流石にそのまま飲むわけにはいかない。グラスに小指を入れて虫を取り出した。すると意外なことに、小虫が指先に移動し始めた。てっきり溺れて死んでいるのだと思っていた。

何となく楽しくなって

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誰が為に秋は来る

誰が為に秋は来る

残暑の厳しい時期はまだ夏の名残りを感じ、それが過ぎるといつの間にか寒くなり、もう冬が近いのかなと思う。そう考えると秋とはずいぶん曖昧な季節なのかも知れない。夏と冬の狭間の季節。

しかし秋の存在感はなかなかのものだ。個人的に秋は紅葉の綺麗な時期だなと思っているのだが、それを措くとしても、○○の秋という表現の多さに驚く。食欲の秋、運動の秋、芸術の秋、読書の秋、などなど。なんでもよいから秋に押し込んで

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何とも平凡な国境越え

何とも平凡な国境越え

スペイン北西部にあるヴィーゴ駅のホームに入ってきた電車を見るなり、本当にこれがそうなのかと訝しんだ。うす汚れているし、それまで何度も乗ってきたスペイン国鉄レンフェの車両と比べてもどこか見劣りする。拍子抜けだった。

もちろん電車に非はない。もっと特別な何かをこっちが勝手に期待していただけだからだ。なにせ、生まれて初めて陸路で国境を越えるというので気分が高揚していたのだ。

行き先はポルトガルのカン

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夏の暑さと秋の暑さ

夏の暑さと秋の暑さ

台風一過の今日(10月2日)、からっとした晴天というだけでなく気温も昨日より10度近く、30度にまで上がった。気温だけ見れば夏と見まごうほどだ。

一昨日のこと。たまたまお昼時に入った食堂でテレビがついていて、土曜日は夏の暑さに逆戻りですよとお天気キャスターが茶目っ気たっぷりの口調で言っていた。とっさに、そんなはずはないだろうと思った。気温が夏並みに上がるという予報を疑ったのではなく、夏季と今とで

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何を選び、何を選ばないか

何を選び、何を選ばないか

明治大学に通う現役大学生の島倉雄哉さんが運営している「大学授業一歩前」に記事を書かせて頂きました。大学生に向けて、在学中にやっておいて欲しい「オススメの過ごし方」や手に取ってもらいたいおススメの本を紹介しています。

この記事のなかで一番頭を悩ませたのが「オススメの一冊」にどの本を選ぶのか。本が思い浮かばないのではなく、絞り切れない。「教員の推薦図書」を並べたコーナーを大学の図書館で見かけることも

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2の付くお金

2の付くお金

「2000円札を使う会」の会長を務めていたことがある。会員は会長である私1人という小規模の会だ。会の設立目的は、できるだけ2千円紙幣を沢山使うこと。そのために当時は両替機で2千円紙幣を引き出すことのできたみずほ銀行で、ほかの紙幣をせっせと両替していた。物珍しい様子で私の2000円札を見て「1枚替えてくれない?」と言う友人の頼みにも快く応じ、世間での2000円札流通に微力ながら貢献できたと自負してい

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紙の時刻表

紙の時刻表

新幹線に乗る機会が増え、座席のシートに置かれた『トランヴェール』に収められた沢木耕太郎さんの「旅のつばくろ」を読むのが楽しみだということは以前に書いた。

今月号では時刻表が題材になっている。

私自身は電車の好きな子供だった。プラレールから始まり、小学生の高学年の頃には鉄道模型に夢中になった。夏と冬の2回は埼玉県の所沢まで祖母を訪ねて行き、その際には首都圏を走る色んな電車を見て回った。写真を撮っ

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