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ボトル型エレンタールの廃止問題【難病患者のQOLを考える】

難病患者のQOL

このブログを読んでいる皆さんは毎日、服用している薬がありますか?

もし、ある日、突然、その薬の仕様が変更されたら、どう思いますか?

例えば。
錠剤の飲み薬が粉薬に変更になった。
粉薬で飲んでいた薬が、いきなり注射になった。

多くの人が戸惑ったり、面倒くさいと感じたり、困ることが多いのではないかと思います。

現実的にそんなことがあるワケないじゃないかと言う人もいるでしょう。

しかし。

今、この問題が現実に起ころうとしています。

クローン病、潰瘍性大腸炎で使われる「エレンタール」という薬です。

難病患者でない皆さんも、明日にも自分が使っている薬で起こりうることかもしれません。
私事として、最後まで読んでもらえるとうれしいです。

まず、僕が薬の仕様変更により問題だと考えるのは以下の3つの点です

1.地球環境保護を謳っているが、生産性を上げるための患者を犠牲にしたコストカットではないのか。

2.製薬会社の一方的な変更の通知のみで患者の声がまったく聞かれなかった。

3.薬の仕様変更で患者のQOL(生活の質)が大幅に下がる。

それでは、順を追って、病気と薬の説明をしましょう。

クローン病、潰瘍性大腸炎とは

クローン病は、自己免疫性疾患で、消化管のどこでも発症する炎症や潰瘍が特徴です。

それに対し。
潰瘍性大腸炎は、大腸の内側に炎症と潰瘍が生じる疾患です。

どちらも、症状としては、下痢、腹痛、発熱、嘔吐、下血、関節炎などです。
倦怠感がつきまとうことも多く、日常生活に支障をきたすこともあります。

クローン病と潰瘍性大腸炎のことを総称して「IBD(炎症性腸疾患)」と言います。
厚生労働省の指定難病です。

ちなみに、僕もクローン病ですが、潰瘍と狭窄がひどく大腸全摘の手術をしました。

どちらの病気も消化管に炎症や潰瘍ができますから、食事による栄養吸収はされづらくなります。

そこで。
栄養の吸収を助けるため、今回の問題となる薬「エレンタール」が毎日処方されるワケです。

エレンタールとは

ほとんど消化を必要としない成分で構成され、極めて低残渣性・易吸収性を備えています。
腸の病気などで食事の摂取が困難な場合に栄養管理のために用いられます。

要は、クローン病、潰瘍性大腸炎のために処方される「栄養剤」です。

すごくマズくて、すごく臭うことは、覚えておいてください。

粉薬を水に溶かしてから飲む薬なのですが、これを作るのが結構な手間なのです。

まずは、私が使用しているエレンタールの写真をご覧ください。

このペットボトルに300mlの水を入れ、よく振って粉を溶かしてから飲む薬です。

1回当たり2~3分はこのペットボトルをシェイクし続けなければならないのです。

僕の場合は、1日3回。
多い人だと、1日6回もこの作業を繰り返します。

意外と疲れます。


そして、今回。


このペットボトル型のエレンタールが一方的に廃止されようとしています。

これからは、不便なパウチ加工された袋型のエレンタールのみへと変更しようというのです。


これの何が問題かというと、次の通りです。


1.シェイカー(容器)とパウチを持ち歩かなくてはならない状況になる。

使い捨てができないために持ち歩かなくてはなりません。
また、容器も意外と大きいので、荷物がかさばります。

2.エレンタールを作る手間が増える。

粉薬を容器に入れる手間が増えます。
シェイカーの密閉性が高くないため、蓋から溶液がこぼれる恐れもある。
これが、洋服やカバンの中の物につこうものなら、匂いがすごく臭い。

3.容器を洗う手間ができる。

前述したとおり溶液がすごく臭いため、毎回、容器を洗う必要がある。
飲んだ後、そのままカバンに入れて持ち歩けるようなものではないのです。
IBDの患者、みんなが自宅療養しているわけではありません。

職場でエレンタールの容器を毎回洗うのは、現実的な対応なのでしょうか。
多くの人が食事の際に摂取するものです。
貴重な昼休みを削って、エレンタールを作って、飲んで、洗って。
多い人は、職場で2回~3回、この作業を繰り返します。
みんながみんな、水道水を使える環境にもありません。
ただでさえ、働くことにハンデを抱えたIBD患者には、昼休みにゆっくり休む時間さえ与えられないのでしょうか。

SDGsは人間の命より重い?

製造元の製薬会社からこの通知がされたのは、2023年の7月24日でした。

SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて事業を通じた環境への配慮や社会貢献に取り組むということが理由でした。

「難病患者の生活」より大切な社会貢献とは何でしょうか?

その社会貢献を具体的に知りたいです。
「難病患者の暮らしやすさ」を犠牲にして、どんな素晴らしい社会貢献をするのですか?

「ウォーク資本主義」という言葉があります。

環境保護や人種差別などの問題に高い意識を持つ企業の経済活動を指し示す言葉です。
昔は褒め言葉だったのかもしれません。
しかし、今のアメリカでは、進歩的なポリティカル・コレクトネスや社会正義に対して、現実にそぐわない理想主義であるとし、「えせ進歩主義者」を非難するスラングとして使われるようになっています。

意識高い系を通り越して、歪んだ正義に囚われた意識過剰系とでも言うべきでしょうか。

このウォークの皮肉がアメリカで共和党のトランプ氏を大統領へ勢いづかせる1つの要因になっています。

今風のアメリカのネットスラングで言えば。

製薬会社のボトル型エレンタールの廃止の行動はウォークネスなのではないでしょうか。

本来、大企業こそ、しっかり納税して、その税金が所得の再配分として社会保障に使われることが社会のあるべき姿です。
しかし、大企業ほど「環境保護」などSDGsを謳い、多額の減税措置や助成金を受け取り、税金をきちんと払っていなかったりします。

SDGsだけに社会資本が使われ、あるべきはずの社会保障が失われていく。

SDGsという美徳の下に、弱者ほど声をあげられずに踏み潰されていく。

本当にこのままでいいのでしょうか?

2022年にローソンが紙パック入りミネラルウォーター330mlを販売しました。

2年以上経過した現在、使っている人を見たことありますか?

ミネラルウォーターは今でもペットボトルの販売が主流です。

それはなぜでしょう?

透明な容器で水が美味しく見えることもありますが、利便性がいいからです。

一般社会でペットボトルの利用を改めていこうという動きがあるのなら、わかります。
しかし、そんなことは非現実的で、市場経済において、多くの消費者がそのような行動を認めていません。

なぜ、立場の弱い難病患者からSDGsの実験台にされなければならないのでしょうか?

エレンタールは毎日の中で欠かせない薬です。
利便性はとても重要です。

もし、ペットボトルを廃止するにしても、一般社会でペットボトルが使用されなくなった後に廃止するべきものなのではないでしょうか。
順序が違うと思うんです。

一般の人たちよりも命のためペットボトルを必要としている人たちから、なぜ先にペットボトルを奪う必要があるのですか?
弱い人間は文句を言わないからですか?

僕はこの問題を「SDGs」の名を借りた「コストカット」としか思っていません。

難病患者の声を聴いてほしい

記憶に新しいところだと、黒人女性を起用したディズニーの実写映画「リトルマーメイド」があると思います。

「失敗だ」と感じておられる人も多いのではないでしょうか。

原作アンデルセンの「人魚姫」は人間と人間でないもの、種族の違いを乗り越える愛と人魚姫が最後に泡になってしまう現実の厳しさ、「悲恋」を描いています。

一方、実写版「リトルマーメイド」は黒か白かという肌の色にだけこだわり、非現実的で共感できない理想を描いてしまったのではないでしょうか。

また、先日、漫画家の芦原妃名子さんが自殺で亡くなられました。

僕も「砂時計」を見たことがあるのですが、登場人物の心情を緻密に丁寧に描いていました。
杏と大悟の恋の行方に胸が切なくなったのを覚えています。

芦原妃名子さんの繊細で優しい人柄が偲ばれます。

詳しい事情はわかっていませんが、TV局や脚本家の対応にも問題があったのではないでしょうか。

「リトルマーメイド」と「セクシー田中さん」。

どちらも共通して言える問題は「原作者の声」を聴かなかったことにあるのではないでしょうか?

リトルマーメイドは枝葉の肌の色にこだわり、大事な幹の人間愛を描けなかったこと。

セクシー田中さんは、芸能事務所のキャスティングや制作会社の都合で内容を改変してしまったこと。

製薬会社から難病患者の声は聴かれませんでした。

今、同じ事がクローン病や潰瘍性大腸炎の患者に起ころうとしています。

災害対策としても十分か

2024年1月1日に石川県の能登半島を襲うM7.6の大地震がありました。
被災された方々には、お見舞い申し上げます。

今回の地震でライフラインの重要性を再認識した人も多いのではないでしょうか。
特に、水道水の必要性は考えさせられました。

2024年3月現在、震災から2ヵ月以上経過しても、能登半島の断水は続いてます。

弱い立場である難病患者だからこそ、災害対策をどうするのか。
今まで、あまり議論されてこなかったテーマです。

先日、社団法人のMBTコンソーシアムの第6回MBT難病克服支援WEBセミナーに参加しました。
富山大学の中根俊成准教授の「難病患者さんと災害対策」の講演は勉強になりました。

医療依存度が高い難病患者だから、あらかじめの行動計画を作っておくこと。マイタイムラインが重要。
避難レベル3でも早めに避難した方がいいこと。

難病患者やその支援をする人の間でもあまり知られていないことだと思います。

その話を聴いて。

災害の状況下で、エレンタールを作ったり、洗ったりすることは、現実的なのかと疑問に思うようになりました。

震災下では水道水は使えません。

給水車から配給される重い水を運んで、毎日エレンタールの容器を3~6回洗わなければならないのですか?

貴重な飲み水を無駄に使ってもいいのでしょうか。

昨今、災害関連死も注目される中、難病患者の震災後の生存率にも直結してくる問題だと思います。

富山大学の中根俊成准教授は事前の行動計画が大事だとおっしゃってました。

エレンタール製造元の製薬会社は、難病患者の事前の防災計画を考えてくれているのでしょうか?

社会保険労務士だから考える働きやすさ

正直、僕はペットボトル型のエレンタールが廃止されることは、すごく困っています。

行政協力で行政施設に行くことが多いのですが。
社労士は行政施設を間借りしている立場なので、そこでエレンタールを作ったり、洗ったりというのは、肩身が狭いです。

市民相談をすることもあるので、もし自分のスーツや持ち物にエレンタールがついて臭わせてしまい、相談者に不愉快な思いをさせれば、それがクレームになります。

きっと同じようなことを心配されている人は少なくないんじゃないかと思います。

難病患者、障害者の就労は非正規だったり、正社員であっても立場が弱く、悩みが尽きません。

疲れやすく、日々の体調管理が難しい難病患者に、昼休みに薬の作り洗いをさせるのは、病気のことを本当に考えてるの?

昼休みくらい休んだっていいじゃない。

たとえば、エレンタールが錠剤になって使いやすくなったって言うのなら、ペットボトル型を廃止するのはわかります。
だけど、きちんとした代替措置も用意せず、難病患者に不利益だけを押しつけてくるのは、ひどいんじゃないかな?

製薬会社の薬の仕様変更は、難病患者の自分たちの努力ではどうにもならないことで、「働きやすさ」とは程遠い判断だと思います。

「治療と仕事の両立支援」が少しずつ世の中に浸透していく中で、支える側の製薬会社が後ろから鉄砲を撃たないでよ。

難病患者も一般の人とおなじように働けたら、社会にとってもいいことなんじゃないかな。

そりゃ、アイスクリームが食べたいよ。

そりゃ、ショートケーキが食べたいよ。

でも、みんな毎日、あのすごく不味い栄養剤を飲んで仕事を頑張ってるんだよ。

もうちょっと難病患者の職場でのこと、考えて欲しいな。

僕は今回の問題で何もしないIBD(クローン病、潰瘍性大腸炎)の患者会の役割もすこし不安に思いました

IBD患者の生の声を聴くことは、自分にとっても勉強になるので、社労士事務所開業の際に連絡はとってみたのですが、音信不通です。

今回のボトル型エレンタールの廃止問題こそ、IBD患者全体にかかわる問題で、IBD患者の利益のために、もっと早くに声明を出すべきだったんじゃないかなと思います。

ただの「不幸自慢」や「傷の舐め合い」の会なら、僕はあんまり参加したくないです。
というか、それが20年間、どこにも属さずに、ひとりで病気と戦ってきた理由です。

綺麗事なのかもしれないけれど。
僕は難病患者、障害者を雇う側にも雇われる側にも「実利」のある支援がしたい

だから。

今回のボトル型エレンタールの廃止は、「働きやすさ」に寄り添う社会保険労務士としては、見逃せない問題だと思っています。

厚生労働省や東京都保健医療局の人たちに会う機会があれば、この問題を話していきたいと考えています。

難病患者の支援に、公的支援がないことも問題ですが、助け合えたり、声を伝える機関もありません。

ですから。

僕は皆さんの声が聴きたいです。

ぜひ、このブログにもX(Twitter)にも、この問題のコメントを書いてください。
全てに返信をすることはできないけれど、必ず全てに目を通します。

自分ひとりではできることに限界があります。

自分ひとりの意見を伝えるだけでは意味がないです。

皆さんのメッセージが届くようにしたい。

「#ボトル型エレンタール廃止問題」とハッシュタグを打って自分のSNSで自分の想いを発信してみてください。

難病患者の声が社会に届くことが何より大切です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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