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いわゆる読書感想文(一般書)

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2022年5月の記事一覧

「自分の中の闇は何かを変えたいと願っているか~『よるのばけもの』~」

「自分の中の闇は何かを変えたいと願っているか~『よるのばけもの』~」

『よるのばけもの』 住野 よる 著 (双葉社)     2017.1読了                      

またまた他サイトのレビューでも書いている人がいましたが、とにかくこの著者の書くものは全て、確かな説明が不足しているように感じます。
同じことを思っている人が少なからずいたことに、内心ほっとしてもいます。

いずれにしても、それは良くも悪くも、この著者の一番の特徴なのかもしれま

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「ひんやりとした空気が本の全体をまとう~『森のノート』~」

「ひんやりとした空気が本の全体をまとう~『森のノート』~」

『森のノート』 酒井 駒子 著 (筑摩書房)   2017.12読了

酒井駒子さんの独特の絵が大好きで著作が出ると、ついつい手に取ってしまいます。
子どもを中心に描かれていることが多いのですが、表情がすごくいいのです。
また絵のタッチもすごく好きです。
それまで多くの絵本での作品を見てきましたが、まずはその中の絵の表現を見とめるのが常です。

こちらはエッセイ本ではありますが、いつもの駒子さ

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「求む!国のために働く真のリーダー~『会津武士道 侍たちは何のために生きたのか』~」

「求む!国のために働く真のリーダー~『会津武士道 侍たちは何のために生きたのか』~」

『会津武士道 侍たちは何のために生きたのか』 中村彰彦 著 (PHP研究所)  2013.6読了

かつて放送されていたNHKの「BS歴史館」という番組で紹介された会津藩の初代藩主、保科正之のリーダーとしての人格や資質に惹かれ読んで

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「あの有名な芥川賞作品だが、さらに声援を送りたい~『火花』~」

「あの有名な芥川賞作品だが、さらに声援を送りたい~『火花』~」

『火花』 又吉 直樹 著 (文藝春秋)       2016.3読了

図書館予約した本がやっと回ってきました。実に、7ヶ月待ちです@@(あくまでも2016年3月時点でのはなしです)

すでにたくさんのレビューが存在しますが、とりあえず私なりに書いてみようと思います。


お笑い芸人を目指す徳永。ある花火大会の余興で、ひとりの漫才師と運命的な出会いをします。
徳永にとっては、

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「この作者の意図がよく読み取れない私の読解力が試されている?~『また、同じ夢を見ていた』~」

「この作者の意図がよく読み取れない私の読解力が試されている?~『また、同じ夢を見ていた』~」

『また、同じ夢を見ていた』 住野 よる 著 (双葉社)          2016.3読了

私が作者の前作『君の膵臓をたべたい』を読んだということで、同僚から「これ、読まないんですか?」と言われ「あ、じゃあ、は

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「曲作りにもそのセンスが光る、女性ならではの視点に感服~『ねじねじ録』~」

「曲作りにもそのセンスが光る、女性ならではの視点に感服~『ねじねじ録』~」

『ねじねじ録』 藤崎彩織 著 (水鈴社)       2021.8読了

私の大好きなバンド「SEKAI NO OWARI」の唯一の女性メンバー、Saoriちゃんのエッセイ集です。
デビューして音楽活動を続けそして結婚・出産した後も、常にふとしたある瞬間に頭にひらめくいろいろな思考を、彼女ならではの視点で表現されています。

子どもの頃の忘れられない思い出や事件、事故。
今現在において、女性な

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「あなたはその正義の違和感を見抜けるか?~『闇祓』~」

「あなたはその正義の違和感を見抜けるか?~『闇祓』~」

『闇祓』 辻村 深月 著 (KADOKAWA)       2021.12読了

表紙とタイトルを見て、なにやら不穏な感じを抱いたが、それは正解だったのかも。
人間誰もが持つ正義の、そのもろさと危うさがえぐり出された本作。
私のニガテなミステリー・ホラーではあるが、作者の上手さなのか、ページをめくる手が止まらなかった。


学校、ママ友グループ、会社、部活、SNS…様々な人間関係の中に、ゆっく

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「過去と現在を結ぶ手紙は彼女を救えるか?~『大正浪漫』~」

「過去と現在を結ぶ手紙は彼女を救えるか?~『大正浪漫』~」

『大正浪漫』 NATSUMI  著 ( 双葉社)       2021.11読了

ご存じ、小説の世界を音楽にする人気アーティストユニット・YOASOBIの曲とともに発表された原作小説。
この世界観が映像化もされていて、動画サイトYouTubeでも公開されています。

私は原作の方を先に読んで動画を観たのですが、とても美しい映像で表紙絵の主人公ふたりがそのまま画面に出てきて物語の中に引き込まれ

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「物語の最後が恐怖で縮み上がりそうになる~『出版禁止』~」

「物語の最後が恐怖で縮み上がりそうになる~『出版禁止』~」

『出版禁止』長江俊和 著 (新潮社) 2015.1読了

本書はミステリーホラーです。
あまり好きなジャンルではありませんが、意を決して読んでみました。

あるルポライターが、以前おこった心中事件で生き残った女性にインタビューし、その真相をふたたび取材するという企画で、雑誌に記事として載せることになった。
これまでなかなかイン

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「物語で知る幸福への道~『Good Luck グッド・ラック』~」

「物語で知る幸福への道~『Good Luck グッド・ラック』~」

『Good Luck グッド・ラック』
アレックス・ロビラ&フェルナンド・トリアス・デ・ベス 作 
田内 志文 訳  (ポプラ社)       2006.7読了

54年ぶりに公園のベンチに隣り合わせたマックスとジム。
久しぶりの再会に喜ぶ二人は、お互いのこれまでの人生を語って聞かせます。

貧乏な家柄のマックスは次第に成功をおさめ、金持ちのジムはだんだんと落ちぶれていきました。
マックスはなぜ

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「誰の身にもいずれ来る問題に善と悪をからませる~『ロスト・ケア』~」

「誰の身にもいずれ来る問題に善と悪をからませる~『ロスト・ケア』~」

『ロスト・ケア』 葉真中顕 著 (光文社)  2013.5読了

前記事ががん予防に貢献する物語となって話題になりましたが、今回取り上げる作品は現代の社会問題である、介護問題に焦点を当てています。
介護する人と介護される人、介護を助けてくれる人、その中で生じた問題が転じて犯罪になったときそれを取り締まる人、裁く人、介護を金儲けにする人。

善と悪が入り乱れての複雑な社会構図が人間の尊厳とは何か

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「タイトルに騙されないで純粋に読んだら心をふるわせた~『君の膵臓をたべたい』~」

「タイトルに騙されないで純粋に読んだら心をふるわせた~『君の膵臓をたべたい』~」

『君の膵臓をたべたい』住野よる 著 (双葉社)2015.7読了

今ではすっかり泣ける恋愛小説のド定番として有名になった本作。
最初の印象は、タイトルがちょっとキワモノ過ぎて一旦手が出ませんでした。
しかしタイトルのインパクトとは裏腹に表紙絵はとてもやわらかなので、これはいったい…?と思わせるところがミソ。

周囲(当時の職場)が「まずあなたが読んでみて!おもしろかったら次に読むわ」と、なかば押し

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「摩訶不思議!謎と魔法に満ちた世界への冒険~『カラヴァル』~」

「摩訶不思議!謎と魔法に満ちた世界への冒険~『カラヴァル』~」

『カラヴァル』 ステファニー・ガーバー 著  西本かおる 訳  
                (キノブックス) 2018.4読了

2018年の本屋大賞・翻訳小説部門で第1位をとった本ということで読んでみた。

海外の小説は、文化や思考などに通じる感性が日本人のそれとは違うので、毎回読む時はやや身構えてしまう。
この物語はファンタジーというか、作者本人の完全なる想像の産物でもあるので、理解

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「中2的青さ・痛みが懐かしい~『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』~」

「中2的青さ・痛みが懐かしい~『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』~」

『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』 黒瀬 陽 著 (早川書房) 2018.9読了

舞台は1996年の広島。アムロやエヴァが青春を席巻していた多感な中2のころ。
クラスのどのグループに入ったらいいか悩んでいた僕。

友達で優等生だけど地味な祐介は、太っていても自分を小室哲哉ばりにTKと名乗る変な奴や、タイ人のクルン、いつも指を鼻に突っ込んで鼻くそをいじっているジョー(サッカーの城彰

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