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謎の会社「出前やかた」の呪い①

序章


オカルトハンターである俺の元には様々な依頼が来る。
実際は何でも屋みたいなものだ。

今回は旧知の高山社長からの依頼だ。
この依頼がどうも妙なのだ。

高山社長の会社に請求書が届いた。請求元は出前やかたという会社だ。
出前やかたは仲介業者で登録しておくと仕事が入り受注して納品すると売上から仲介手数料を引かれ残金が入金されるという仕組みだ。

月額料金や加盟金などはかからず、手数料も売上の40%と決められており手数料が売上を上回ることはありえない。ここ数か月は受注実績も少なかったものの売上が入金されることはっても請求されることはなかった。

それがある日突然請求書が届いた。しかもその金額は20円。
なんのことかわからず請求書に書いてある電話番号に電話してみた。

繋がった先は出前やかたのサポートセンターだった。
事情を話し20円の請求が何の代金なのかを尋ねた。
オペレーターは「担当者より折り返し電話をさせます」と

その後3日経っても折り返しはない。再度サポートセンターに電話したが同様の対応。1か月経っているが折り返しはない。

高山社長が言うにはこの請求書が来てからトラブルが多くなり、売上も減ってきている。これは何かの呪いなのではないか。

この請求書の謎と呪いを解いてくれというのが今回のミッションだと。


始まり


話を聞いていて一種の詐欺かとも思ったが20円をだまし取るのは意味がない。
さっそく「出前やかた」について調べてみた。
ネット上では普通の仲介業者だ。一応上場企業らしい。電話番号はどこにものっておらず、問合せフォームからメールをするかサポートセンターに電話するしかないようだ。

メールでは埒が明かないのでサポートセンターに電話してみた。
繋がると音声ガイダンスが流れ該当の要件に合わせて番号を押していく一般的なタイプだ。

請求に関する項目がなくとりあえず該当しそうな番号を押してみた。
転送先では保留音が流れている。10分くらい待ってようやく繋がった。

「お待たせ致しました。出前やかたサポートセンターです」
要件を伝えると別の部署だと言う。転送はできず再度かけ直して音声ガイダンスの5番を押せと言う。
かけ直して音声ガイダンス5番を押す。保留音が流れて5分後ようやく繋がる。要件を話すと部署が違うと言う。こちらにかけろと言われてかけ直したと言うが取り扱おうとしない。再度かけ直して7番を押せと言う。

さっそく妖怪たらい回しのお出ましだ。

こいつは主に役所や公共機関に生息しているが大企業や大病院など大きな組織には大抵ひそんでいる。
めんどくさいだけであまり害はなく祓う必要はないだろう。非能力者でもガチギレすれば祓える程度のやつだ。

三度目にようやく取り次いでもらえた。
「担当者から折り返し電話させます」

高山社長から経緯を聞いていたので少し詰めてみた。

「以前にも何度かお電話しておりますが折り返しがありません。」

「担当者につなぐか、連絡先を教えていただけないでしょうか。」

つなぐことは出来ない。連絡先も教えられない。折り返しますの一点張りだ。

予想通りの返答だがここで引き下がっては先に進めないのは分かっている。

「でしたら期限を決めましょう。今日が金曜日なので月曜日までに折り返しをいただけますか?」

「他部署のことなのでお約束できかねます。」

こちらも予想通りの返答。マニュアル通りで素晴らしい。

「請求書の回答でなくても構いません。とりあえず担当者のレスポンスがないことには前に進みません。」
「サポートセンターに何度も電話しても回答が得られないのですよね。担当先に取り次ぎもできない。連絡先を教えてももらえない。」
「折り返しもないのでどうしようもない状態です。」

「でしたら、月曜日までに折り返すように併せて連絡しておきます」

オペレーターもギリギリの対応だ。
これ以上この子を詰めても意味がないことはわかっているのでそこで折れた。

「では月曜日までに折り返しお願いいたします。」
音声を録音しているらしいのであえて念を押した。


迎えた月曜日。
案の定、折り返しはない。
火曜日17時まで待ったが折り返しはない。
サポートセンターは18時までなので電話をした。慣れた手つきで7番を押す。

これまでの経緯を話し、その上で折り返し電話がないことを伝えた。

「担当者より折り返しさせます。」

非能力者からすると呆れるような回答だがオカルトハンターの俺にはピンときた。

妖怪無限折り返し地獄が憑いているな。


探り

妖怪無限折り返し地獄は主にコールセンターなどに多く生息する。
妖怪というが呪霊的なものでさほど害はない。憑かれている本人には害はないが取引先に害を及ぼす。

もう少し探ってみる必要がある。

だがこのオペレーターをこれ以上詰めても意味はないので責任者に代わるように促した。
数回の押し問答の末ようやく責任者に代わった。

電話に出た責任者は林田と名乗った。

林田にも経緯を説明しどうすれば担当者に繋がるのか尋ねた。

「私からも再度連絡しますので担当者からの折り返しをお待ちください。」

こいつも憑かれている

もう少し詰めてみよう。
「ここまで折り返しを待っても担当者から電話がないので今までのやり方では埒が明きません。」
「林田さんが直接担当者に電話をして折り返しをするように促してください。」

「担当部署の電話番号を知りません。」
予想外の返答に一瞬戸惑った。だがひるんではいけない。

「でしたら調べあげて担当者に直接折り返すよう伝えてください」

「はあ。」
気の抜けたような返事をする林田に畳みかけるようにさらに言った。

「明日までになんとか連絡をとりその報告を明日までにください。」

水曜日。
担当者からの折り返しはおろか、林田からの報告もなかった。

高山社長からのミッションを遂行するのに請求書を送った人物を特定しその人物とやり合う想定だった自分の見込みの甘さを悔いた。
自分はまだスタートラインにすら立てていないのだと。

蔓延


木曜日。
決意を改めて林田に憑いている呪霊から祓うことにした。
そうすることでスタートラインに立つ道筋が見えるかもしれない。

10時。サポートセンターが始まる時間に合わせて電話した。
オペレーターに林田に代わるように言うと今席を外しているのですぐかけ直すとの回答。

嫌な予感がしたので時間を指定しようとすると5分以内にはとあっさり回答。声の様子からこの子は憑かれてないのかと思い了承。

しかし20分待ったが折り返しはなし。

相当呪いが進行しているようだ。

再度サポートセンターに電話する。

林田に代わるよう言うと今度は代われないとの回答。
折り返すと言う。

サポートセンター全体が憑かれはじめている。

林田は戻って来たのかと聞くと戻ってきたと。戻っているのなら代わればいい。
5分で折り返すと言われ20分待って折り返しがないのでこちらからかけている。そもそも前日までの約束の折り返しがないからこちらから電話しているのだ。もっと言えば担当者からの折り返しもない。
それをまた折り返すと言うのだ。

恐るべし妖怪無限折り返し地獄

俺が非能力者なら怒り狂っているだろう。
ふざけるな!と叫んでいるかもしれない。このことをネットに晒して炎上させてやろうかとさえ思うであろう。

だが幸いなことに俺は能力者。妖怪の仕業だということはとっくにわかっている。

落ち着きを取り戻し何分で折り返すのかを聞いた。

すると1分以内に折り返すと言う。
あくまで折り返すことにこだわるらしい。

いいだろう妖怪無限折り返し地獄。その1分は高くつくぜ。

覚悟を決めて電話を切った。


※言うまでもなくこの物語はフィクションです。固有名詞はすべて架空のものです。
 リスペクトを込めて様々な作品をオマージュしている部分もあります。



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