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涙の跡。


…よく頑張ったねぇ、、もう、大丈夫だよ。…


僕の背中を撫でる、彼女。


温かい手の感触と、

優しい声に、

  

止まっていた涙が、

また、


溢れ出てしまった。




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あと数分で、幕が上がる。


僕は役者。

主役ではないけれど、

物語を大きく展開させる、重要な役。



雑草だった僕が、やっとここまで来れた。


…気が付いたら、白髪の生える歳になっていた。




あと5分。

舞台袖に行こうとした時、

母から電話が来た。



「おじいちゃんが、天国に行きそうです。」






………全ての音が、聞こえない。

…自分の鼓動の音さえも。



僕は、

スマホを見たまま、固まって動けなくなった。



僕の夢を、

誰よりも応援してくれていた祖父が…





開演のブザーが鳴った。


…舞台は僕を、待ってくれない。


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終演後すぐ、祖父の所へ向かった。


タクシーに乗り、路上を走り、階段を登った。



…息が整わないまま、病室のドアを開ける。


薄暗い部屋。

両親、祖母、、誰一人、何も言わない。




……僕は、祖父に近付けなかった。



祖父は、、

僕を待たず、旅立ってしまった。


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全てが灰色になった。

顔も体も、…心も、ぐちゃぐちゃだった。





……気が付くと、彼女の家の前にいた。



古いアパートの2階。

震える手で、ベルを鳴らす。



___ピンポーン




「……りょう、くん、、?  

      …………どうしたの?」





僕は何も言わず、彼女を抱きしめた。



……彼女は僕を、抱きしめ返した。




そして、彼女は言った。


……よく頑張ったねぇ、、もう、大丈夫だよ。…






…時に、

人は人に傷つくけれど、



…人を救うのも、人なんだ。





  





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