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短編小説

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自己顕示欲。そんなだらしなくも、人間らしい欲に振り回されてエッセイや小説は書かれるのでしょう。少なくとも、俺は、何割かはそんな欲で小説を書いています。
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記事一覧

クリスマスとヒートテックと失恋と。

クリスマスとヒートテックと失恋と。

駅までの道をドキドキしながらぼくは歩く。気になっていた可愛い先輩とバイト上がりのタイミングが一緒になったのだ。

 塾講師の同僚の、一つ年上の先輩。ちらりと横目で様子を伺うと、白いタートルネックのセーターが、降り始めた粉雪に映えて先輩の清楚そうな雰囲気を引き立てていた。緊張して口の中が乾く。

 会話の接ぎ穂としてまず服装を褒めてみることにした。「女の子との会話に困ったら、まず会話を褒めろ! 」と

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アドバイスする男滅びればいいのに、なんてそんな男を彼氏に選んだくせに言ってみる。

アドバイスする男滅びればいいのに、なんてそんな男を彼氏に選んだくせに言ってみる。

先輩の家に引っ越しの手伝いをした事がある。

お昼に、クロワッサンを2人で食べた。
このパン屋さんね、東京に来てからはじめて「心から美味しい」って思ったやつなの。

吉祥寺にあるんだけどね。
緊張したようにそんなことを早口で先輩は話していた。

食べながら「ちょっと休憩」って、2人でNetflixをみて、絡ませていた指は腰にまわっていた。

クロワッサンも、Netflixも途中のまま、エンディング

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「女の子のこと何も知らないね」それが君の口癖だった。

「女の子のこと何も知らないね」それが君の口癖だった。

失恋譚 第二編

渋谷の音楽系のクラブでバーテンダーをしています。
一夜限りの、永遠に会わない誰かの失恋を打ち明けられることがあります。
そんな失恋譚のうち、どうしても忘れられないものを文字に綴りました。

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君のことを好きになった。
男子校育ちの僕にとって人生で初めての恋人だった。
「女の子のこと何も知らないね」それが君の口癖だった。

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「ここ行ったことある」という場所が増えていっ

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好きな女の子が自分のことを「童貞っぽい」と言っていた

好きな女の子が自分のことを「童貞っぽい」と言っていた

失恋譚 第三編

渋谷の音楽系のクラブでバーテンダーをしています。
一夜限りの、永遠に会わない誰かの失恋を打ち明けられることがあります。
そんな失恋譚のうち、どうしても忘れられないものを文字に綴りました。

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飲み会で好きな女の子が自分のことを「童貞っぽい」と言っていたタイミングでトイレから戻った。いたたまれなすぎて一次会で帰った。むしゃくしゃして家帰ってからその女の子に似てるAV女優で抜い

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桜が咲く頃に会った、好きで好きで堪らなかった女の子

桜が咲く頃に会った、好きで好きで堪らなかった女の子

失恋譚 第一編

渋谷の音楽系のクラブでバーテンダーをしています。
一夜限りの、永遠に会わない誰かの失恋を打ち明けられることがあります。
そんな失恋譚のうち、どうしても忘れられないものを文字に綴りました。

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桜が咲く頃に会った、好きで好きで堪らなかった女の子に、体だけ求めていると思われたくなくて、美術館とか映画とか出かけるたびにデートプランを提案して一緒に行っていたら雪が降る頃にフラれたこ

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感情と性欲の吐露は、心から信頼している恋人か、インターネットか裏垢でしか吐き捨てることができない。

感情と性欲の吐露は、心から信頼している恋人か、インターネットか裏垢でしか吐き捨てることができない。

小説です。

感情と性欲の吐露は、心から信頼している恋人か、インターネットか裏垢でしか吐き捨てることができない。

そんな感情を吐露する行為は、行き場のない性欲を処理する深夜の右手の往復と似ている。

「生でいいよ」と言われた女の子の言葉に、むらむらした気持ちであと先のこととか、性病だったらどうしようとか考えられなくなって突っ込んだ。

バックでしてる時にすぐにでてしまって、出たことを誤魔化そうと

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感動の射程

感動の射程

フィクションとして読んで下さい。

人は自分の感性の範囲でしか感動できない。

本をたくさん読むのは、心から感動して心を洗われる一冊に出会うためだ。

マッチングアプリで何度もスワイプするのは、どこかで1人の恋人と出会うことが目的なのと同じように。

たくさんの本を読むのは、雑学じみた知識を溜め込み、ひけらかすためではない。
そんな事をしてくれる人はたくさんいるし、そこに自分が加わる必要はないだろ

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ウユニ塩湖に行って人生が変わるなんて嘘だよ。

ウユニ塩湖に行って人生が変わるなんて嘘だよ。

大学1年生の夏休み、「ウユニ塩湖に行ったら人生変わった」と夏休みの経験を楽しげに、目を輝かせて語る4年生の先輩がいた。

鏡のような艶やかな髪が綺麗で、笑顔が陽だまりのように優しい先輩だった。

3年後の4年の夏、人生を変えたくて、1人でウユニ塩湖に行った。

大学は人生の夏休みなんて言われるけれど、友達もいない大学生の時間の使い方が分からなくて、寂しさを振り切りたかったのかもしれない。

なにも

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或る、出せなかった手紙

或る、出せなかった手紙

拝啓

もしよければ、
晩夏に聴く好きな音楽が知りたいです。

いつか読んだ本に、こう書いてありました。
「季節ごとに合う音楽は異なります。

休日のデートの朝に聴きたくなる音楽と、沈んだ寂しい夜に聴きたくなる音楽が変わるように。」

それを読んで、季節ごとに聴きたくなる音楽が数曲ずつあるとしたら、それを貴方と交換したいなと思ったのです。

**

ところで、
バイバイと君を乗せた電車がホームから

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結果が出せなかった真夜中。自分を責め続けて朝が来る。

結果が出せなかった真夜中。自分を責め続けて朝が来る。

結果が出せなかった真夜中。自分を責め続けて朝が来る。(ツチヤタカユキ『前夜』)

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 プライドが高すぎて、自分のことをありのままに打ち明けられない。

 例えばセックスでは、先にどちらかが日常の仮面を剥ぎ捨てて、欲情を見せると、やりやすくなる。そんな時に、僕は自分が先に日常の仮面を脱ぎ捨てる事ができない。なんなら、最後までがっつくとカッコ悪いと思って、「せ、セックスなんて興味ねえし」みたいな

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SNSにアップできない感情と体験が欲しくて、恋をするんじゃないんですか(過激派)

SNSにアップできない感情と体験が欲しくて、恋をするんじゃないんですか(過激派)

小説というか、エッセイというか、雑駁な短文です。ところで、カテゴリ不明の文章って結構好きです。

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「起きてる?」に既読をつけた瞬間に掛かってくる通話。

好きな本と称して付箋のついた詩集を突然貸せる勇気。 

「夏休み出かけよう」と駅までの道で切り出された誘い。

予定調和から少しだけときめく方向にずれる行動を取れる人に憧れます。

可愛いし話してて面白い最高の女の子だけど、すぐ「〇〇くん

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【短編小説】もうすぐ、また、夏が来る。今年は、君のいない夏が。

【短編小説】もうすぐ、また、夏が来る。今年は、君のいない夏が。

 お金も知識もないけれど、時間だけが死ぬほどあった大学2回目の夏休み。

 恋人と1日ひたすら怠惰に過ごした夕暮れ。

 昼に茹でたパスタのお皿が洗い終わった食洗機の音で目を覚ます。

 夕日にオレンジに照らされた恋人の背中のくぼみが綺麗だと思った。

 寝相ではだけたタオルケットを、白い肩にそっと掛け直しながら、ゆりかごみたいに優しく肩を揺らす。

 「スーパーに、アイスと夕食の食材を買いに行か

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10代の頃に擦りむいた傷口は癒えることなく、ジュクジュクと膿み続ける

10代の頃に擦りむいた傷口は癒えることなく、ジュクジュクと膿み続ける

いつか書いた小説の一部です。

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 「人生は、10代の頃に欠落した不満を埋めるために、残りの長い数十年間を浪費するんだよ」とは、僕が高校生の頃に大好きだったある小説の、主人公の独白だった。

 高円寺に住み、早大を中退したその主人公は、こう続ける。
「まるで、10代の頃に擦りむいて血を流した傷口が癒えることなく、ジュクジュクと膿み続けているかのように、固執し続ける」と。

 「例えば、10

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深夜、甘めのLINEをできる異性の友人が欲しい。

深夜、甘めのLINEをできる異性の友人が欲しい。

 3つくらいの小説の断章です。章同士の繋がりはあまり有りません。つらつらと無意味に綴られているのが好きな方へ。

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 恋人って名前を付けて縛り合うのは面倒なのだけれど、深夜、寂しい時に甘めのLINEをできる異性の友人が欲しい。と、呟いていた人に恋人がいたと知ってから、感情が無い。

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 「でもお前、女にしかリプしないじゃん」で、途切れたDM。

 「好きだよ」「私も」の間が3秒間空いた

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