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「女の子のこと何も知らないね」それが君の口癖だった。

失恋譚 第二編

渋谷の音楽系のクラブでバーテンダーをしています。
一夜限りの、永遠に会わない誰かの失恋を打ち明けられることがあります。
そんな失恋譚のうち、どうしても忘れられないものを文字に綴りました。

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君のことを好きになった。
男子校育ちの僕にとって人生で初めての恋人だった。
「女の子のこと何も知らないね」それが君の口癖だった。

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「ここ行ったことある」という場所が増えていった。
性行為に限らず好きな人と一緒にご飯を作るとか、クリスマスを過ごすとか。
「はじめて」という経験に次々とチェックマークをつけていく。それは、喧嘩の時のフォローの仕方や、生理の時の気遣いにも及ぶ。

PMSという単語すら知らなかった僕のLINEに、君が送ったPMSのYouTubeのリンクが残っている。「勉強してよ!」ってうさぎのスタンプ。

それから何度か雪が降って、何度目かの夏に別れた。1年経っても恋人ができなくて、寂しくてマッチングアプリをはじめた。
不毛なやり取りと、何かにつながる気がしたやり取りを重ねるうちに告白された。

理由は、ヒールを履いている時には足元に気を遣えるような優しいところが好きだったから。
君が「なんでそんなに歩かせるの」って怒ってくれたから、2年前の僕が学んだことだった。こんな素敵なデートコース初めて!とイルミネーションで嬉しそうにはしゃぐ後ろ姿を眺める。そこのイルミネーションは2回目だった。
今の彼女は褒めてくれる。「私の気持ちがすごく分かってくれるし、気遣いができるところが好き」。

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「女の子のこと何も知らないね」それが君の口癖だった。
必ずこう続けた。「だから私が教えてあげる」。
もう隣に、教えてくれる君の体温はない。
教えてもらった記憶と経験だけが残っている。
僕は除光液がほしい。
べったりとこびりついた君の記憶だけ剥がせる、そんな都合がいい除光液が人生で2番目に欲しい。
1番目に欲しい君は、もういなくなってしまったから。


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