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RENAの軌跡

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シンガーソングライター 鳥居れなさんの連載エッセイを、まとめました✨ 幼少期や10代の頃を、感じたままに綴られています⏳ 語り口がユニークで、一篇の物語としても楽しめます📖
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#鳥居れな

56.長距離走

56.長距離走

ふたつ年上の兄は小学校4年生まで、ふっくらとしていた。

ところが5年生になった途端、母と私に決意表明かのように
「おれは今日から、お母さんとも、れなとも、もう風呂には入らない。」と断言し、みるみるうちにイケメンへと転身したのだ。
その頃のことは下記の記事をぜひ。

イケメンになってしまった兄は、妹とは違って運動神経がよかった。

幼馴染のたつやくんのお父さんが、空手の先生をしていたこともあり

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53.脱皮

53.脱皮

私は脱皮したかった。
あらゆる夜が怖くて。
孤独から逃げようとしていることに気付いた時
寄りかかっていたものからきっぱり離れることができる大人になりたい。
もう1人でも怖くなくなるように。

1度も振り返ったりせずに。
今年は梅雨に入ってからも晴れ間が多く、
例年のガックリ落ち込む遅延五月病も発症していない。

わたしは夏がすごく好き。
空が高くて、雲が真っ白で、野菜がきれいで
葉っぱが青くて、ノ

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52.Dock

52.Dock

ステージ上に身を乗せた自分は夢うつつ
自分に向けられたまなざしを食べる。

どこにだって行けるような気持ちにさせてくれる
色とりどりの照明を全身に浴びながら
大きく息を吸い込み背伸びをする。

音は海。
とめどなく寄せては返す波と、どこまでも深く潜っていける未知の場所
冷静ではいられない閑かな熱がそこに存在している。
音の輪郭を撫でながら、
かなしみの淵を歩いたり、おとぎの国の中でワルツを踊ったり

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51.怒り

51.怒り

私にはふたつ年の離れた兄がいる。
これまでの記事で何度か兄が出演した回もあるが
お分かりの通り兄には阿呆な一面がある。

兄にはよく口喧嘩でボロボロにやられて泣いていたが、意外と遊んでくれた。
だが時々その遊びが、男の子の男の子による男の子のための遊びすぎて
私にはついていくのが精一杯なことがあった。
だけど兄が遊びいく時、「レナもついてくる?」と聞いてくると、
年上の遊びに参加できることがとても

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50.ささきのじいさん

50.ささきのじいさん

小学生のころ、通学路に交通安全のおじいさんがいた。
みどり色のキャップをかぶって
時々、登校時間だけでなく
学年によって下校時間もばらばらなのに
帰り道にも子どもたちを見守っている時があった。

幾人か見守り隊はいたけれど、
ランドセル時代のれなちゃんには
1人だけ仲良しのおじいさんがいた。
何度も聞いたし、呼んでいた
あのおじいさんの名前を、
いま思い出せないのが悲しい。

思い返してみても本当

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49.ネロリ

49.ネロリ

去年の冬、職場の方からクナイプのハンドクリームをいただいた。
オレンジ色の小さなチューブパッケージに青空とくまちゃんがにっこり。
「明日も笑って」の文字につい心がほんわかした、
なんだかもったいなくて、開けるまで時間がかかった

いよいよ乾燥で手が痛くなって、シルバーのキャップを取る時が来た。

豆粒ほどをぷくっと左の手の甲に乗せて温めながら伸ばすと
ふんわりと香る優しい香りに驚いた。
これはなん

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46.蛍光灯

46.蛍光灯

あれからずっと切れたままだった、キッチンの蛍光灯を
私はようやく昨日新しく取り付けた。

切れた蛍光灯の形を、捨てる時に写真に取っておいたが
本当にこれで大丈夫か不安で店員さんに声をかけた。
これのはずだけど、もし違かったらレシート持ってきてくださいね。と
優しく微笑む女性が神様のように見えた。
帰り際にお互いペコリとお辞儀をして、店を出た

やっと買えた蛍光灯を四苦八苦しながら取り付け、
紐を引

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43.寂しがり屋怪獣

43.寂しがり屋怪獣

酔った頭で思い出す人が、
どれだけ自分にとって大きな存在か…

私はお酒を飲んで電車に揺られると、脳貧血を起こすので
外でのお酒の席は、本当に大切にしたい関係の方々だけにしている。

いつもより素直に会話ができる時、
思い出される人間は本当に愛されている

その場にいなくても話題になるのは、それがどんな内容であったとしても
結局は大切な人だし、可愛いからなのね。

愛され方が上手だとか、世渡り上手

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41.FLAG

41.FLAG

路地裏のちいさな店
看板のない店
今のお前はそんな感じ。

苦い顔で言い放たれてしまった、
恐らくわたしも同じ顔。

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40.ゆのはな

40.ゆのはな

まっさらな心
何色の絵の具をおとして、ひとつの作品になるだろう。

無色透明の透き通ったハートになんでもかんでも吸収したら
最後は漆黒になるだろう

ひとつの人生をこの手で描くのだから
使う色は自分で吟味して選ばなくては個性が失われる。

大人になるにつれて難しくなるような気がする、人間関係。
よく1人で、人との関わり方について悩む
分からなきゃいけないことなんて本当は無いのに。

ものすごくシン

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38.不甲斐

38.不甲斐

きのう帰りの電車で、向かいに座っていた中年男性が大声で怒鳴った時も
私に宛てられた声ではなかったけれど、心臓がきゅうっと痛くなり
自分が叱られたような気持ちがした。

人混みでよけきれずに肩を強くぶつけても、
振り返ることもなく過ぎて行く東京。

もう二度と会わないかもしれない見ず知らずの誰かへ、
自分の疲労を怒りというエネルギーへ変換して投げつける大人。

空があって、道があって、風があって、花

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37.海底の石

37.海底の石

いま。 かこ。 みらい。
どんな色の空をみて、どんな匂いの風に吹かれて、
どんな人の言葉に触れて、どんな形の感情を覚えて
あなたが今日ここへ来るまでにはどんな旅があったのでしょう。

わたしはきのう、とても尊敬する方から
お前を形成してるもの全てで成り立つ鳥居れなが、
頑固なところも含めていい音楽家であり、
関わっていきたい人間であると思ってるよ
とお言葉をいただきました。

先日、私は25回目の

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36.花散らしの涙

36.花散らしの涙

何をそんなに、
しとしとと泣き続けなくとも
あなたはこんなに沢山の人に愛されているのに

ひとり暮らしの私の家には
テレビがないけれど
どんな表情をしても、きっと毎朝
ニュースがあなたの様子を
この世界のみぃんなに伝えている

それくらい世界中があなたを
大切に恋しく思っているのよ、

私にも暮らしがあり、少し
上を向いて歩くことがむつかしい日もあり、
きのうあなたを見上げて歩く時間が
私には一瞬

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35.審査

35.審査

何度も立ってきた。
しんと静かな空間で、
全ての視線がこちらへと向けられている

今だけは私だけの時間だといつも思う。

人に見定められることを繰り返してきた。
これが私ですと、全て曝けなければ未来はない
人生のうちのほんの数ミリの時間
そこに全てを賭ける
求めているのはその先にある一縷の望み

13歳でようやく、はじめの一歩を踏み出した。
もしも、もしも もう一度人生をやり直せるならば
同じ目標

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