マガジンのカバー画像

ゆっくり読みたい自分用マガジン

102
時間があるときにじっくり読みたい記事を保存しておくための自分用マガジンです。
運営しているクリエイター

#小説

小説/2枚目のメッセージ《#ピリカ文庫》

小説/2枚目のメッセージ《#ピリカ文庫》


『東京』『ヲ爆』『破する。』

8月30日午前 0 時。3枚のファックスが県内の複数マスコミ会社に送信された。正確に言えば、最初の『東京』が 0 時ちょうど。次の『ヲ爆』が 0 時10分。次の『破する。』が  0 時15分。

爆破予告が届いたとすぐに判明したのは、MHK前崎、テレビぐんま、群馬中央新聞、前崎タイムス。いずれも一般市民が知り得る代表番号宛にインターネット経由で一斉送信されたとみら

もっとみる
【掌編】桃源郷サステナビリティ

【掌編】桃源郷サステナビリティ

「早い話が、単位をあげよう。だから奴等を部室から追い出してくれ」

放課後の進路相談室で、桃瀬先生は俺に言った。ガラス製のローテーブルに両手をつき、額を同一面につける勢いで、頭を下げてくる。まだ俺たちと変わらぬほどの艶と張りを備えた黒い髪。椅子に腰掛けた状態で教員の頭頂部を見下ろすなど、初めての体験だ。

「どういうことっスか」

訊ね返してはみるものの、説明は受けたばかり。

①桃瀬先生が顧問を

もっとみる
『猫城』

『猫城』

 三畳ほどの床面積、それでいて二階建ての、たったそれだけのサイズの建物が存在する。中国山地のドがつくほどの田舎の田畑の中、周囲の景色とは不釣合いに建っている「城」である。たった三畳たった二階建てであろうが、日本人であればおそらく全員が「城」と呼ぶだろう。小さくとも城は城なのだ。
 近隣の住民(と言っても数えるほどしかいないのだが──)からは『猫城』と呼ばれ、立派そうに見える天守閣の屋根の端には、金

もっとみる
鏡職人

鏡職人

 光なく、ただ赤くばかりに見える黄昏になり、黒い影になって北村裕太は、静かな工房の中で小さな鏡を丁寧に取り扱っていた。その鏡は、彼が街の至る所に取り付ける作品の一部であり、彼の生きる喜びと情熱である。彼の手は確かで、鏡の表面を優しく拭き上げる。その際、微かに笑みが彼の唇を掠めた。彼は自分の作品が街の人々に喜びと自己愛をもたらすことを想像しているのかもしれない。点き始めた街灯が窓から差し込み、ようや

もっとみる
二塁を廻れ

二塁を廻れ

晩夏の夜の雨。秋雨にはまだ早い時期だが、この間まで街を包んでいた熱気が嘘のように肌寒い。足を運んだチェーン店の居酒屋。平日という事もあり、客は少ない。
席を案内しようとする店員を制して彼を探す。すぐに分かった。

「元気?」
「まあ、そう言われたら、まあな、ぐらいで返すしかないよな」
テーブルを見るとまだお通ししかない。
「何年振りだっけ」
「卒業した後に一度野球部のOB会で集まったから4年振りぐ

もっとみる
童話「砂ノ術師」

童話「砂ノ術師」

   ・゜゜・:.。..。.:・:゜・:.。. .。.:・゜゜・*

さらさら……
さらさらさら……

小さなガラスの中を砂がこぼれ落ちていきます。
さらさらの細かい砂。細かい細かい砂。粉と見まがうほどに。

さらさら……
さらさらさら……

空から降り注ぐ光がガラスと砂に触れて、きらきらとまばゆい粒を散らします。
光の粒となった砂はさらさらこぼれ落ちる間だけ、幻を映し出します。
それはたしかに幻

もっとみる
キャラクターにより深みを与える語彙力|monokaki編集部

キャラクターにより深みを与える語彙力|monokaki編集部

 こんな文章から始まる書籍が、1月19日に日本文芸社から発売される。以前にもmonokakiで紹介した『プロの小説家が教える クリエイターのための名付けの技法書』の著者であり、現役の小説家である秀島迅氏による『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑 性格・人物編』。
 冒頭にはプロローグとして「自分が創作したキャラクターに語彙力で〝性格〟を与える」「『行動・心理・言葉』でキャラクター

もっとみる
願いをめぐる二つの短い物語

願いをめぐる二つの短い物語

短編小説

◇◇◇

第一話 沛然叔父さんの厄落とし業

 ぼくの叔父さんは、昔から雰囲気を出すのがうまかった。

 普段はタバコなんて吸わない人なのだが、紙を巻いただけの細い筒を指で挟んでいるだけで、まるで火の点いたタバコを持っているようなふりをすることができた。しかも吸い慣れている喫煙者のような佇まいまで醸し出すから、一瞬、鼻と口から煙を吐き出すのを目撃した気にまでなってしまうのだ。叔父さんは

もっとみる
童話「滝でひろわれた、おたきの話」

童話「滝でひろわれた、おたきの話」

 村のはずれの林の中に、ちいさな滝がありました。滝壺は泉になっていて、村の人たちはみな、そこから水を汲んでいます。

 雨上がりのある日のことでした。村の老夫婦が水を汲みにいきますと、泉のほとりにたくさんの蛇が群がっておりました。

「おや。あんなに蛇がいるとはめずらしい」

「さっきまでの雷雨で、山から流されでもしたんだろうか」

 二人がながめておりますと、中からなにか突き出されました。

もっとみる
2023年 #小説 noteまとめ100作

2023年 #小説 noteまとめ100作

今年もたくさん読みました。



「noteで小説書いても読まれないよね」
「がんばって書いても読まれないとくるよね……」
「うっし、ならば年の瀬100作品読もう!」

……と、3年前にはじめた小説noteまとめ100作。今年もやってきました!どこかにいるかもしれない100ファンの方々、お待たせいたしました!

はじめたときと比べて、note公式さんの年末まとめに小説カテゴリ定着したり(うれしい

もっとみる
小説/汐喰シーサイドホテル517号室

小説/汐喰シーサイドホテル517号室

 歳を重ねるにつれて、夢と現実の距離が近くなった。目覚めながら夢を見ている。夢を見ながら目覚めている。ホテルの窓から見えるのは、白い空と灰色の海だった。
 涸れたプールの向こうにある砂浜を、ホテルの宿泊客と思われる家族が歩いている。痩せた母親とせむし男。その後ろを歩く二人の男の子は合成獣で、顔は人間なのだが、その体は蜘蛛だった。
 男の子たちは八本の節足を動かし、大きく膨らんだお腹を引きずって歩い

もっとみる
小説/汐喰シーサイドホテル704号室

小説/汐喰シーサイドホテル704号室

「お願いだよ、この通り。な、な?」
父さんは  汐喰シーサイドホテルのフロントカウンターで両手を合わせる。
僕はカウンターに飾られた金色に光る〔Good-bye 2023〕の文字を見つめてる。
「海の見える部屋だって本当はひとつくらい空いてるだろ。な」
「申し訳ございません。あいにく満室でございます」
ホテルの人は同じ言葉を繰り返す。
「年越しの花火を子どもたちに見せたいんだよ。分かるよな。な?」

もっとみる
残夢②〔ポスター〕

残夢②〔ポスター〕

←① 

『振り返るな。二度と戻れないぞ』

警務課のドア脇に貼られた交通安全ポスター。県内の中学生部門最優秀作品が目に入り俺は思わず足を止めた。後部座席でグズる我が子が気になっても運転中は決して振り返ってはいけない。事故を起こせば幸せだった日々は二度と戻ってこないというメッセージが込められた水彩画は酷くグロテスクな色彩で描かれていて一目で心を掴まれる。
落とし物を受け取りに来る一般市民も必ず目に

もっとみる
短編小説『ネオシーダーを吸ってたのは誰だ?』

短編小説『ネオシーダーを吸ってたのは誰だ?』

※今回はいつものショートショート小説ではなく、この物語はノンフィクションです。実在の人物・団体・事件と、すべて関係してます。
2023年10月9日に芸人の楽屋で起こった事件、事実を元に、ほぼそのまま小説にしてます。全部で三章あります。お楽しみください。ヒィア。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

『ネオシーダーを吸ってたのは誰だ?』

【第一章〜気になりだしたら止まらない〜】 

これず

もっとみる