中島亮
あの世に送り届けるのが運転手の役目。 死んで終わりではないと思いたくなくて、こんな物語を書いています。
不連続な小説です。
大阪と一緒にせんとってです。
京〇をリスペクトしてます。 ほんま、京〇はよろしいなぁ。
何と申しましょうかね。外の空気を吸おうと思い、川原の道を歩いていたのですよ。そう。その方がようございましょうよ。靴と地面の摩擦する音を鳴らして、体中の血液がよく循環して、せせらぎをさびしく聞きながら、胸先にこみ上げて来る気持ちに向き合おうと思ったのですよ。 事もなげに振る舞う事に疲れたのかもしれませんわね。他の人から慰め顔であしらわれるのが辛いから、いつでも私のすべき返事は「大丈夫ですよ」とか「ご心配なく」なんて事ばかりです。 そうそう。川原の道をね、二人乗りの自転車が
悟志から離れて坐っている人の咳がケンケンと響き、その部屋が割と広いという事を彼に伝えた。咳をするための腹の筋肉が疲れたのか、その人の咳の音は小さくなっていく。無口な人達が、思い思いに待っているその部屋では、音を立てまいとしても押え切れない、鼻をすする音などが時折する。悟志は、自分が坐っている椅子の右肘あたりを、左手で強く掴んだ。そこには窪みがあって滑らかになっていた事から、大勢の人が退屈しのぎに触っていたのだろう。 コトコトコトコと扉が開く音が響き「次の方」という女の声は
生活に没頭しなければならない。食べる物のために沈み切ったどん底から求めるのは救済。しかしながら、もらった銭は、いつも右から左へ人手に渡っていく。 「今晩も来ている」と通りに浮かんだ人影を眺めて、俺はそう思った。その太った体を見る度に、俺は自分の心の企みに戦慄を感じた。栄養を十分に摂取できているという事と、奴の身なりだけで俺の心はざわつく。嫉妬とは恐ろしいモノで、奴が生れながらの運命をつかんでいると俺は思いこんでいるのだ。そして、それを奪う事が頭によぎる。 「どうぞ」 奴は
家に帰ると俺は、空元気を置き去りにして来た憂鬱な病室を思い浮かべた。食事の時分きまって発熱に苦しむ夏希が、看護師か誰かに手伝ってもらいながら夕餉を食べているんやないかと、そんな事を考えてまう。悪寒に慄えながら「兄ちゃん、明日も来てな」という妹に、俺は笑って「当たり前や」と答えたんやけど、夏希を見るのが辛かった。 「せや。兄ちゃん。うち、あそこへ行きたいな。兄ちゃんが連れてってくれた夜の松原の浜。あっこは星が綺麗やったな」 「父ちゃんや母ちゃんに内緒で夏になったら連れてってや
肌寒さが忍び寄る空に、満月がこうこうと顔を出している。風はないのにやたらと冷え込んで、一つの季節が終わったと、俺は心の中で言葉を紡ぐ。車の側に立って、なんとなく空を眺めながら、煙草を片手に無用な事を考えていた。あるいは月にまつわる思い出とともに、自己嫌悪に陥るのを、俺は楽しんでいるのかもしれない。現在進行形の出来事になぞるような事をしながらも、自分の置かれている環境が他人事のように感じられて仕方がなかった。境遇を嘆いている訳ではないが、いつまでこんな事をするのかという事が、
扉が開き、松本が戻って来た。彼はどこか物憂げな表情をしていた。歓談が秒に満たない刹那、沈黙し、違和と表する歪な間が場に訪れる。敏感であり、空気感を読む事に長けた浜田が「お前、二階で寝とったんか?」と茶化すと場が和んだ。それに助けられたのか、松本も柔和な相貌で「ちゃうわ」と返答するも、言葉尻に物悲しさが漂っている。その理由を知っている浜田は、秘密を覆い隠すように「こいつ、この前もみんなで出かけた時に、どっか行きよって、探した事があったな。みんなで『まつもとくーん』言うて声かけ
二年前に考えていた事と、一年前に考えていた事が合わさって、今も同じだと思いつく。それは、ついてきた嘘の分だけ、気がつく事が少なくなっているからかもしれない。 淡い期待に頼れるから、避けていた場所に行った。それなのに、感傷的になれなくて、執着が不自由だと結論づける。 駅が淋しい場所だと思わなかった。 何本も電車を見送って、交わした言葉のひとひらも覚えていない。 あれは無かった事だ。 誰もいなくなった後に待合室のベンチに腰掛けて、僕は座っていなかったような気がした
自分の中にあるものが自分でも整理がつかなくて、不必要に尊大な素振りをしてしまう。初期設定の自分が他人の立場にいた時に、どう振舞えるかなどという想像をする時に、上から目線で、その対象となる立場に優越感を抱く。 その初期設定な自分が、今の自分の立場で、今の自分の中にあるものだと錯覚して、余裕な態度をとってしまう事。 訳がわからないという事を言語化すると、意味がわからない文章になりますね。 わかりやすく何かを伝えるという事をしたいのに、自分がわかっている事など何もなくて、結
性同一性障害で心は女性で、実はレズビアン。 だから、強制性交ではありません。 こんな言い訳なら多様性許容社会では通じるのだろうね。
わかった事を書きます。 誤解を恐れずに書くならば、僕は死にたいという事がわかりました。これは真理の一片であり、そう確信する事でしか腑に落ちないから書いています。 確実な事といえば、死ぬという事だけ。死ぬという事を知っているから、色々と考えるのです。人間以外の動物、もしくは、僕以外の人間が、自分が死ぬ事を知っているのかは、僕にはわかりません。想像ですが、死ぬ事を知らない生物は、今という瞬間を連続して生きるのではないかと思います。死ぬ事を知らなければ、未来に期待も不安もしな
寝られない夜に浮かべるような、佐藤の険しい眉の角度は「帰りたい」と訴えているようだった。俺は鏡を誰かに持って来させて、彼の顔を反射させてやりたい気分になった。ここは施設内の宴会場で、佐藤の歓迎会が始まろうとしている。 「盛ぉり上がってぇぃますかぁ!?」特殊な言葉を胸の中で整える事ができず、俺はわざと顔に生気を漲らせて大声でそう言った。この後の地獄を容易に予測はできたが、無音が怖くて大声を出すという悪手を選んだ。「まだ始まっとらへんやろうが!」と、首筋に花柄のタトゥーを入れて
本屋で、裏表紙に記載している値段を見て棚にもどす。何も買う気にならなくなったので、少し早いけれども、店の外の彼女が指定した待ち合わせの大きなモニター前に向かう。 陳列している棚の間を歩いていると、知っている名前を見つけた。平積みされた新刊売り場の角の二面に、その本が並べられている。しばらくその装丁を眺めて「あぁ」と心の中で呟いた。すぐにわかったわけではない。忘却の屑籠の中にある、小さな紙きれを広げて、ようやく思い出したという感じだ。その名前は中学校の同級生で、当時から小説
マメだよね。電話するのって、全員にってことでしょ? やっぱ性格? なのかなぁ。やらなきゃいけないって思っているんだよね じゃぁ聞いちゃうけど、その髪型も性格ってやつ? そういう事になるかな。こうしなきゃみんな納得しないんだよね。 それわかる。私もそうだもん。私の場合、階段の降り方がそう。一回やったらまたやってくださいって感じになったわけ。 うわぁ、やっぱそうだったんだ。普通しないもんね。 わかる? ってかもう一つ聞きたかったんだけど、スケジュール管理やばくない?
厭な臭いが俺の鼻を濡らした。店と店の間の路地に、白い肉塊が転がっている。「し、死体じゃないか。あれは」と安達四郎が吐き気を催しながら、情けない声をもらした。転がる肉塊は男の死体で、 衣服は何もつけておらず、痩せた身体を晒している。 「どうせフェンタニルとかの過剰摂取でくたばったんですよ」と俺はめんどくさそうに答えた。どこで買い取ってくれるのか俺は知らないが、死んだ人間のボロでも剥ぎ取られる。俺にとっては日常ではあるが、この日本人には地獄のように見えるのかもしれない。 「この
名前を本名にします。又吉マタキチという名前を卒業する頃合いかなと思いました。
作家の仕事は絶望に屈せず、人間存在の救いを見出す事 ウッディ アレンの映画の中の台詞です。この言葉を字幕で読んだ時に、メモを取りました。その時は、よくわからないけれども、この言葉を覚えておこうと思っただけでした。しかしながら、今でも時々思い出す言葉です。 作家とは何をする人なのかと、昨日考えていました。ここで言う作家とは小説を書く人の事です。小説を書くから小説家という事ではなく、小説家の存在意義という意味の事です。 そんな事を考えるのは、よくある事で、何度かここでも