中島亮

あなたの「オモシロイ」は僕が創ります!

中島亮

あなたの「オモシロイ」は僕が創ります!

マガジン

  • にゃくいちさん

    自己喪失の恐怖  思い出したくない過去を、共有している李亜と明妃。二人は故郷である二本木を離れ、古都、嘉久でルームシェアをし、平穏を保ちながらも、どこか不安な影を感じていた。  そんな彼女達の元に、二人が育った施設の関係者、久慈が訪れる。彼は、李亜に対して「そろそろ二本木にお戻りになる頃かと思いましてね」と船のチケットが入った封筒を手渡した。その日を境に、「にゃくいちさん」という不思議な言葉が李亜の耳にこびりつき、彼女の現実が崩壊していく。  逃れることのできない定めに翻弄され、戸惑う暇も与えられない李亜。彼女の背景には、人間の世界とは違う、慣習や倫理観が支配する社会があったのだ。

  • 運転手

    あの世に送り届けるのが運転手の役目。 死んで終わりではないと思いたくなくて、こんな物語を書いています。

  • 粗末な暮らし

    不連続な小説です。

  • #極短編小説

  • いけずな京〇人

    京〇をリスペクトしてます。 ほんま、京〇はよろしいなぁ。

最近の記事

  • 固定された記事

にゃくいちさん 序

 群青の空に、白い雲が斑に動いていた。山を切り開いた道を、黒色の車が二本木の港に向かって走っている。車は陽光を反射させ、フロントのガラスは鏡のようにまぶしく光っていた。 「船が到着するのは、十時ごろになると思います」運転手が後部座席の女に言った。彼女の肌艶や顔立は若いが、纏っている雰囲気は老練。 「そうですか。お昼は何をご用意しますの?」と彼女は言い、それから車窓の外に視線を向けた。車窓の風景は単調で、目新しさに欠く。 「鯛めしを用意させていただきます」 「鯛めしねぇ。船では

    • 80億人

       大切なものを取り落としたような戸惑いを、私は感じている。それは、広い空間に一人でいるような、居心地の悪さに似ているのかもしれない。習慣となっている観念が、私を窓際に退けさせ、何かをしなければならない必要を、私は全くわからないでいた。  閉じている窓枠によりかかって、私は室内の様子をとりあえず眺める事にした。部屋の静寂を破っているのは、何らかの機械の単調なビープ音だけ。そして、その音を一層物悲しくしているのは、飾りけのない白色の壁紙だ。また、湿った空気が鼻をつき、病院独特の消

      • 不幸に安住する人

         書くかどうかはわかりませんが、幸せの定義がずれている人を描きたいです。とてもグロテスクな生き方です。そういう状況に陥っている事こそが怖いという事になるでしょう。  怖さを極める事は、このnoteでは受け入れにくいことかもしれませんが、他に書くところがわからないので、怖い事ばかりを、ここでも考えていこうと思います。  以下、大まかなストーリーラインです。 暗闇の檻  身体が壁に叩きつけられる音が薄暗い部屋に鈍く響いた。息が詰まり視界が白くぼやける。菜々美の目の前には和也が立

        • 作為的であること

           隣で座っていた母は、息を閉じ、質問に答えられずに黙っている私の方に首を曲げ、顔の中心に皺を集めた。そうかと思うと、気のない笑みを顔に浮かべ、私に「答えなさい」と小声で言ってきたのを憶えている。 「おどれます」  幼い頃の私は自分の顔が冷たくなるのを感じ、母の顔を見てから面接官の顔を見た。今なので、落ち着いて振り返る事ができるが、意図的な違反行為をするみたいで、私は嘘をつく事が怖かったのかもしれない。これは、もう二十年も前に、私が小学校を受験した時の話だ。  私は、踊りを習っ

        • 固定された記事

        にゃくいちさん 序

        マガジン

        • にゃくいちさん
          25本
        • 運転手
          25本
        • 粗末な暮らし
          24本
        • #極短編小説
          74本
        • いけずな京〇人
          6本
        • 狂い歌
          9本

        記事

          この小説が今回の創作大賞 #創作大賞感想

           いい小説の定義というのは、読者にとって多様で主観的なものですが、三つ要素をあげるなら『共感性』『感情的な影響』『文章力』かなと思います。  今回、僕が感想を書きたい創作大賞の応募作は、皐月まうさんの『パン屋 まよなかあひる』です。  この作品の魅力の一つは、夜の静けさとパンの温もりが織りなす独特の雰囲気です。深夜にパン屋を訪れるお客たちの物語は、それぞれが一つの短編として完結しながらも、全体として一つの大きな物語を構築しています。リッカさんが深夜営業のパン屋を始めた理由や

          この小説が今回の創作大賞 #創作大賞感想

          怖い話を好きになるきっかけ #創作大賞感想

           物語の進行がスムーズで、緊張感を保ちながら進むプロットはどの小説にとっても大事な事でしょう。例えば、サスペンスや驚きの要素を散りばめることで、読者を引きつける事ができます。怖い話が好きな人にとってもそうですし、何となく手に取った読者にとっても、怖い話の魅力にハマっていくのです。  横山小寿々さんの『Horror House カンパニー』は、読者を一気に引き込む魅力的な第一話目と、ユニークなキャラクターたちが光る、パニックホラー小説です。主人公の三浦敦は、職を失った後、勢い

          怖い話を好きになるきっかけ #創作大賞感想

          町の怪異にどういう背景があるか? #創作大賞感想

           長編ホラー小説は、冗長になると怖くなくなると、僕は思います。怪異というのは、説明すればするほど白けるもの。幽霊の正体見たり枯れ尾花というように、怖かった対象が、何でもない事だとわかれば、怖くなくなるのです。かといって「あれは何だったのでしょう」みたいな感じで終わる実話系の怪談の手法(もちろん、怪異の背景を書いて怖がらせる実話系の手法もあります。あくまでも、一例です)は、長編に応用すると、ラストに物足りなさがあります。  今回の創作大賞のホラー小説部門で、最後まで僕が読んだ応

          町の怪異にどういう背景があるか? #創作大賞感想

          にゃくいちさんのわからないところ

           小説『にゃくいちさん』を呼んでくれた皆様。ありがとうございました。  実は、このnoteに投稿する前に、出来上がったものを、少しの間寝かしてから、自分で読んだのですが、はっきりいって、おもしろいとか、おもしろくないの次元ではなく、何の話なのか、自分で書いた物語なのに、意味がわかりませんでした。  修正して、ここに投稿しましたが、おそらく、抜本的には直っていないでしょう。おそらく、読みづらかったと思います。以下、補足を書きます。といっても、余計に意味がわからないかもしれません

          にゃくいちさんのわからないところ

          にゃくいちさん 終

           唸るような音をたてて、黒い車が甕トンネルを抜けて港へ向かっている。車窓から常緑樹の奔流が途切れると、フロントガラスには海が広がってくる。浮いているような緑の海と、黒い埠頭は、あの世とこの世の境目のよう。 「船が到着するのは、十時ごろになると思います」  後部座席の女に運転手が言った。女の肌艶や顔立は若いが、纏っている雰囲気は老練。彼女は「そうですか」とスマートフォンを操作している手を止め、ふと運転席の方へ視線を向ける。運転手の背中が硬直しているようで、背筋が伸びていた。 「

          にゃくいちさん 終

          にゃくいちさん 二十二話

           唇を一文字に結び、目を見開いて一連の様子を見ていた輿の上の女は、茫漠とした悲哀めいた表情をしていた。柔らかい静けさを帯びたその態度は、一種の神々しい気品を肩のあたりに見せている。そして、頭を低くしてその瞬間を待っているようだった。  イナンナの名前を継ぐという事に、女は納得していないかもしれない。また、ちらほらと信仰の象徴で語られるアヌが、何者なのか、彼女はわかってはいない筈だ。しかしながら、一連の儀式は消失であり、維持の喩えであると悟っているような気配はある。その事が戦慄

          にゃくいちさん 二十二話

          にゃくいちさん 二十一話

           ゴォーン ゴォーン ゴォーン  里のあちらこちらで鐘の音が三回ずつ鳴り響く。蒸々した人熱れは、朱の大鳥居に辿り着き、禁忌を禁忌たらしめない同調圧力の下地ができつつあった。 「お通りだぞ!」 「お通りだぞ!」  人々の押し合う力と、左右に避ける力が、空間の空気を興奮へと増幅させていく。集団は、石積みの階段を昇っていき、いくつもの重なった石搭がある広場に辿り着く。彼らはそこでも踊り続けていた。笛を携えた連中の旋律はより強く、鳴り物や太鼓もより大きく打ち鳴らされる。西に周った陽と

          にゃくいちさん 二十一話

          にゃくいちさん 二十話

           家々の軒先に提灯がいくつもぶら下がって、明るい日差しの下で揺れていた。石畳の道の端には、酒、食べ物、菓子等の屋台が、雑沓と喧騒を携えて軒を連ねている。即興音楽にあわせて踊っている仕事着の女中の姿もあり、何をしても許されるような雰囲気が祭にはあった。それらの熱は、ある種の壮大な諧音となって人々の高揚を煽り、浮世離れした盛り上がりをみせている。往来の影は一層濃くなり、酒に寛げられた笑い声が日射しの下に響いていた。 「お通りだぞ! 」 「お通りだぞ!」  一際大きな声が響き、石畳

          にゃくいちさん 二十話

          にゃくいちさん 十九話

           自分から呼びかけることはせず、ただ誰かに呼びかけられることを待つ。名前というのは生涯の極印であり、自分と自分が何を成したかという事を表現する。しかしながら、名前を失くした場合、総称でしか個人は呼ばれない。 「にゃくいちさん」  そう呼ばれた女が、裸で寝台に横たわっている。女は昨日までは「イナンナ様」と呼ばれていた。しかしながら、彼女は自分の本当の名前を思い出す事はできない。もう一度、自分の名前を呼ばれる事を期待しているかのように女は目を瞑る。 「お薬は吸いました?」  老婢

          にゃくいちさん 十九話

          にゃくいちさん 十八話

           雨戸の隙間から光が長方形に射し込んで、角張った影を作り出している。布団から体を起こしながら、彼女は自分の腹を撫でた。  和久多の一室の隅には、鏡が置かれていて、彼女はふわふわと立ち上がり、そこに向かう。寝ていた布団はまだ体温が含まれているようで、身体をなぞった皴を写していた。 「あたしは、あたしや」鏡に映った自分にそう語りかけた後、彼女は雨戸を一気に開け縁側にでた。中庭からの光が入り込んできて、思わず眼を細める。ゆっくり開けた視界に、水鉢の黒い染みがはっきりと映ったのか、た

          にゃくいちさん 十八話

          にゃくいちさん 十七話

           昼間ではあったが、和久多の廊下には行燈が灯されていて、その明かりが漆喰の壁に幽かな陰影を落としている。イナンナは女将に座敷に案内され、その後ろから群青の制服の男達に両脇を抱えられた李亜が、対面の座敷椅子に座らされた。 「袋、とったってください」とイナンナが言うと、制服の男は言われるがまま、李亜の顔に被せていた麻袋を外す。そして、彼等は何も言わず座敷から出ていった。李亜は、顔色が不明瞭のままで、澱みがかった表情で全く動かない。 「水を持って来たってください」と言うが先か、女将

          にゃくいちさん 十七話

          にゃくいちさん 十六話

           太陽が南中高度に達した時、虚無感で満ち充ちたような濃い藍色が空に煙りあがっていた。ほとぼりのような木陰の斑点が道に映っていて、黒色の車に日光が時々反射する。イナンナと運転手の会話はなく、車内は山の中を進んでいく。  林道を上がりきると甕トンネルが現れ、燈火もない暗闇に、ヘッドライトが高く当たる。一定の大きな闇が前へ前へ押し寄せてゆくかのように見え、光が当たる度にそれが流れるように消えてしまう。トンネルの中程まで進む頃には、ほとんどの光が闇に飲み込まれてしまい、黒い景色に遠く

          にゃくいちさん 十六話