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町の怪異にどういう背景があるか? #創作大賞感想

 長編ホラー小説は、冗長になると怖くなくなると、僕は思います。怪異というのは、説明すればするほど白けるもの。幽霊の正体見たり枯れ尾花というように、怖かった対象が、何でもない事だとわかれば、怖くなくなるのです。かといって「あれは何だったのでしょう」みたいな感じで終わる実話系の怪談の手法(もちろん、怪異の背景を書いて怖がらせる実話系の手法もあります。あくまでも、一例です)は、長編に応用すると、ラストに物足りなさがあります。
 今回の創作大賞のホラー小説部門で、最後まで僕が読んだ応募作は2作あります。
 その内の1作、高遠秋彦さんの『昏い抱擁』の感想を書きたいと思います。お声がけせずに、感想を書く事をお許しください。


 とにかく、おもしろかったです。 それが感想です。このお話は、主人公が途中で変わります。一人称の視点が中盤、また、最後の方でも変わります。そして、物語で描かれている時間が二十年越し(もっとかな)と、長いというのが特徴です。
 かといって、冗長な印象がないというのが、僕がおもしろいと思った点です。
 ある町が舞台の物語で、その町の秘密が何なのかを知る為のお話。題材は、目新しいものではありませんが、だからこそ、怖いのです。
 正直なところ、数年単位で時間が経ってしまうという点が、「えっ早っ」と感じる点はありました。しかしながら、短期間の怪異ではないという事が、じわじわと怖くなるのです。それは、主人公の悩みになり、苦しみながらも、彼女がそれを娘に悟られないようにする。
 家族愛や人間関係の深層に潜む恐怖を巧みに描き出し、読者に強烈な印象を与えています。町の穢れた真実が明らかになるクライマックスでは、その展開に驚かされることでしょう。
 もし、自分の住んでいる町に、こうした秘密があったら? そう考えると、それは、身近に潜む恐怖を顕在化してしまうのです。よくありますよね。旧住民と、新住民の軋轢。「~タウン」とか「~の丘」とか名付けられた、新分譲地。それが、本当は昔からの住民の依り代にされていたら……。

 これぞホラー小説と感じた作品でした。とてもおもしろかったです!



一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!