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直るモノ、治らないモノ 400字の小説
目の前にいる、五十路男の荒れた肌。若作りの揃った前髪。そんな事を探し出して、私は彼に対する嫌悪感を高揚させている。そういった準備が必要なのだ。
「昔はなぁ、言う事聞かん奴は殴って教えたもんやで。今はそういうのあかんけどなぁ」
情けない現実を誤魔化しているようにも見える。本当か、嘘なのかよくわからない歪んだ自分像。暴力が弱者の切り札なのだろうか。女の私には理解できない。
「最近の若い奴らはええよ
そんな「いいこと」は伝わらない
俺はわざと咳をして、レジの前に立った。緊張している訳ではないが「いいこと」をする前に、俺は咳をする。
「あの。袋はいりません」
聞かれる前に、そう告げる事が、俺の中の「いいこと」だ。俺が言わなくても、店員の方から聞いてくるのだが、その手間を省いてやったという意味の「いいこと」だ。
あと、レジ袋を「いらない」と言うのは環境に配慮しているようにも聞こえる。しかしながら、なぜか店員は首を傾げた。
タローが亡くなった日の事
思いだしたことがあるんです。
関係ないことかもしれないけれどね。
私が喋ったって事は誰にも言わないでくださいよ。
あれはね、もう20年近く前かもしれない。
うちの飼い犬が亡くなったんですよ。いや、老衰ですよ。
でね、亡くなった日にあの子が来たんです。
「おばちゃん、タロー見せて」と言ってきたんです。
確かにあの子はうちのタローをたまに見に来ていた。
犬が好きなんだと思っていたんですよ。でね、死んだ