直るモノ、治らないモノ 400字の小説

 目の前にいる、五十路男の荒れた肌。若作りの揃った前髪。そんな事を探し出して、私は彼に対する嫌悪感を高揚させている。そういった準備が必要なのだ。
「昔はなぁ、言う事聞かん奴は殴って教えたもんやで。今はそういうのあかんけどなぁ」
 情けない現実を誤魔化しているようにも見える。本当か、嘘なのかよくわからない歪んだ自分像。暴力が弱者の切り札なのだろうか。女の私には理解できない。
「最近の若い奴らはええよな。パワハラ受けた言うたら、なんや騒ぎになるんやからな。そんなんやから、手ぇなんか出してみいや。一発でアウトや」
 相槌を打つのも馬鹿馬鹿しい。昭和生まれのモノは機械でも人でも叩けば治ったそうだ。
「せせこましい世の中や」
 嫌いになる努力をしなければならない。そうでなければ私が私じゃなくなるから。見込みのない運命の火を、必死で踏み消そうとしている私。こんなはずじゃなかったと言い訳しているのは私の方か。

 

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!