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木に語る

庭に楓の木がある。実家の事だ。
「この木は高くなるのだよ。毎日の出来事や、おばあちゃんやお父さんにも言えない事をこの楓に話してごらん。この木が2階よりも高くなる頃には、お母さんが帰って来るだろうよ」
祖母が言った事を当時の私は信じた。
秋になれば赤くなり、そして散っていく葉。
1枚落ちる度に、母が帰って来る日が近くなっていると思い込んでいた。
今では5mを越えたこの楓。

結局、母が戻ってくることはなかった。
けれども、何も話さないこの楓は、私にとっての心の母と言ってもおかしくない存在になった。
祖母が言いたかった事は、辛いほど私は理解している。

おばあちゃん、本当にありがとう。

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!