見出し画像

理想かどうか

 リビングにいるのに、夫は腕時計をしていた。彼はそれを見た後、携帯電話を取り出して、すばやく指を動かしはじめた。その光景を、私はじっと眺めていた訳ではなかった。ただ、ほっそりした身体つきの夫が、なんとなく遠い存在のような気がした。
「私ってあなたの理想?」
 ふとした安心を私は得たかった。
「理想よりもはるかに上だよ」
 夫は戸惑うことなく、私の質問に、荘厳な態度で答えた。眩暈に似たものを私は覚えた。頭の芯を甘く痺れさせるような感じ。
「どれくらい?」
「そうだな。ニ十キロぐらい。細かった時の君の方が好きだよ」
 そうして携帯電話をポケットに入れて、彼はリビングを出ていった。

おわり

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!