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時代の後ろに隠れてしまったもの
次の予定までまだ時間があった。
駅前の文房具屋さんにふらっと入ると、入り口のところに春らしいデザインのカレンダーやノートなどが並んだブースが設けられていた。
その中で一際光って見えたのは、満開の桜道が描かれたレターセットだった。その木々に沿って流れる小川と、奥の方には山々が見える。どこかにありそうで幾度の春を迎えても見られなかった風景が、繊細な線と淡い色づかいによって現れた。幾らかの桜の花びら
あのホテルで、待ち合わせよう。
帰省する日程を伝えると、決まって祖父は
「またいつものところにしようか」
とランチの予定を組んだ。
地元を離れて7年目を迎える。
上京したての頃、長期の旅行に来たみたいにわたしはずっとその街の外側にいた。部屋もなかなか身体に馴染まなくて、賑やかな実家の声を思い浮かべながら眠りについた。
ここに来たい、という感情だけでわたしはわたし自身を欺き続けた。
部屋の灯りを消すと僅かな光や音さえも閉じ込め