見出し画像

化粧室から出ると道に迷う



「大人になったら、子どもの時に苦手だったものが食べられるようになる」という体験を最初に迎えたのは、上京してまもない大学生の時だった。

その昔、わたしはお肉がほとんど食べられなかった。今まではなんとか上手く潜り抜けていたのだが、ある時サークルの打ち上げが、ついに焼肉のターンになってしまった。

修学旅行でみんながジンギスカンを食べる中、周りの野菜を漁っていた私にお肉の革命が起きたのはこの時からだった。

「食べなかったら、人生損をする」とはよくいうが、それはこういうことだったんだと身をもって経験したのだった。

そうして、わたしは「お肉の美味しさ」を手に入れたわけだが、逆の現象もここ数年でいくつか経験している。



ショッピングモールや駅のトイレから出ると、どういう経路で入ってきたかわからなくなる時がある。こっちだよね、と思って出てみたら、メイク直しのスペースだったり、外に出ても右から入ってきたことを忘れて左に行ってしまったり、散々である。
特に初見のトイレに多い。

仕事でもそうだ。
会社はビルの2フロアにオフィスを構えている。基本的には下の階で作業をしているが、会議がある時は上の階へ移動する。

今この説明ができているということは、正しく理解しているはずだ。

けれど、いざ会議だ、と部屋を出ると、階段を降りてしまうのがいつものパターンで、「どこ行くの!」と後ろから引き留められるのもいつものことだった。

何度かそういうことがあってから、あれ、これはもしかして…と思うようになって。
でも、今まで家族にさえ言われたことがなかったから、まさか違うだろうとどこか受け入れられずにいる。
けれど、時々Googleマップと真逆の方向に歩いていることがあるから、たぶんそうなのだろう。


大学生の時に、ハリーポッターの小説ファンである友人と某遊園地に行った。あの遊園地といえば、恐怖度の高い絶叫系アトラクションがあるイメージだ。ぐるぐる回転したり、時には後ろ向きに落下したり、それを心底楽しむところだ。
けれどわたしにとってのそこは、昔から山あり谷ありの場所なのであった。

なんとかなるだろうと思っていた。なんだかんだ今までなんとかなってきたわけだし。

けれど、魔法界の空飛ぶアトラクションで、限界を迎えた。あれを舐めてはいけなかった。
周りの人たちが、口の周りに泡をつけてビールらしき飲み物を飲んだり、写真を撮ったりと魔法の世界に浸っているなか、わたしはそびえ立つ巨大な城を背に、うずくまっていた。

魔法界に酔い止めは効かなかった。
写真を撮って回りたい、という彼女にすぐについて回れなかったこと。
土下座レベルの失態である。

昔に比べて弱くなったな、と同時に、
年を重ねる、ということをきっと甘く見ない方がいい、と知ったのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?